生き甲斐
「おい、シュクリア、起きろ」
「……う、あ……」
「大丈夫か?」
フレスが贋作ラルガポットを壊している間に、ウェイルはシュクリアを目覚めさせていた。
「……あ、ウェイルさん……。私……、そうだ、神父様は……?」
「あそこでぐっすり寝ているよ」
ウェイルは未だ気を失っているバルハーを指差す。
バルハーの怪我はフレスの力で治っていたが、与えられたダメージは深く、当分目覚めそうにない。
力なく突っ伏したバルハーを見て、シュクリアが震え始めた。
「……私、これからどうすればいいんでしょう……? 神父様には裏切られて、夫にも逃げられた……。私、もう何を頼って生きたらいいんですか……!? 何に縋ればいいんですか……!? ウェイルさん、私、これから一体どうすれば……!!」
顔から色の消えたシュクリアは、まるで死人の様。
輝きの消えた暗い瞳で、助けを求めるようにウェイルにしがみついていくる。
そんな彼女の態度に、ウェイルは腹立たしさを覚え、少し強めに彼女を突き放した。
床に倒れて見上げてくるシュクリアに、ウェイルを告げた。
「頼るもの、縋るものだと? そんなもの、最初から存在しない。目の前にあるのは、全部ただの現実だ。現実を受け入れて、自分の足で歩いていくんだ」
「それは強い人の考えです! 貴方はとても強い! ですが私は弱いんです! 弱い人間は何かを頼らなければ生きていけないんです!!」
「強い奴なんていないさ。みんな何かしら弱いところがある。俺だってそうさ」
自分の弱さなんて、いつも嫌というほど痛感している。
先程フレスに見せた己の姿なんて、まさに弱者の極みだ。
「だがな、自分のことを弱いと決めつけて、全てを諦めるわけにはいかないんだ。俺達は生きていかなければならない。人間はそれを認識しているからこそ、互いに助け合い、支えあって生きている。その中で生き甲斐を見つけ、それを生きていく糧にするんだ」
「でも私にはもう生き甲斐なんて――」
「あるだろう? そのお腹の中に」
「――あっ……!」
ウェイルがそう諭すと、愛おしそうにお腹を摩った。
「……そう、ですね……! 私には、この子がいます……! この子さえいれば、生きていけます……!!」
シュクリアの目には涙が浮かんでいたが、その顔には決意が感じ取れた。
それは決して弱くはない、少しだけ逞しく強い母親の顔だった。
――●○●○●○――
「おらおらおらー!! 治安局員総出で突撃じゃあああっ!! 悪徳神父を吊るし上げじゃあああああっ!! 全員、かかれーッ!!」
「「「うおおおおおおおおおおおっ!!!!」」」
聞き覚えのあるアホ声が教会に響き渡ると、続々と治安局員が教会内になだれ込んできた。
「この馬鹿声は、ステイリィか!?」
ウェイルから通報を受けた治安局が、今頃になって突入を開始したようだ。
「教会内の神官は全員逮捕!! 祭りに参加しに来た信者もとりあえず逮捕! 邪魔する奴は片っ端から逮捕していけ! 一人も逃がすな!! 神父バルハーは必ず確保しろ!!」
「「「ウスッ!!」」」
無駄に偉そうな声で、部下に命令を下すステイリィの姿は、実にシュールだった。
何せ屈強でガタイも良い筋肉隆々な治安局員を、背も低く、胸も洗濯板なステイリィがアゴで指図しているからだ。
「だがな、お前ら! 神父バルハーの確保より優先するのは、ここに単身一人でに乗り込んだプロ鑑定士のウェイルさんの安全確保だ! 何が何でも探し出して私の元へ連れてこい! 私が責任を持って監禁――じゃなくて保護するから!!」
「「「ウスッ!! 了解しました!! ステイリィ上官!!」」」
「それでは任務開始っ!! いいか! 絶対にウェイルさんを逃すな!! ウェイルさんを追うことは私の生き甲斐なんだ!! 兎にも角にもウェイルさんを確保!! バルハーは後回しでもいい!! 判ったかあああ!?」
「「「了解しました!! ステイリィ上官!!」」」
聞いていて頭が痛くなりそうな内容である。
「バルハーを後回しにしていいわけがねーだろ……」
「ステイリィさん、ボクもウェイルと一緒ってこと、忘れてるよね。それにしてもどうしてウェイルまで確保対象なのかな?」
「俺だって知らねぇよ……」
暴走状態のステイリィに見つかるのは危険だと、過去に身をもって体験している。
「ウェイル、どうするの?」
フレスの問いに、ウェイルは躊躇い無く答えた。
「――逃げるぞ、二人とも!」
「うん!」
「はい!」
ウェイル、フレス、シュクリアの三人は、治安局員の目を掻い潜って、ラルガ教会を後にしたのだった。




