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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第三部 第十一章 教会戦争完結編 『誰が為に、君が為に』
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切られた火蓋


 じりじりと近づいてくるフェンリル。

 牙を剥き、涎を垂らしていく。


「ナムル殿。良いのですか?」

「任せてもらおう、サグマール殿。なに、久々に神器を使うのだ。少しばかり肩慣らしをしなければな」


 果敢にも一歩前へ出たナムル。

 その顔には余裕すらあった。

 ナムルの持つ神器の圧倒的な威力をサグマールは知っている。

 だからこそ、その余裕も理解できていた。

 

 逆に理解出来ていなかったのは敵の方。

 ナムルを食い殺すように命令を下し、今か今かとナムルが躯と化すことを期待していた。

 フェンリルは狙いを合わせ、その足に力を込める。

 

 ――――まさしくそれは刹那的であった――。


 強靭なる筋肉を持つフェンリルの一瞬の予備動作もない突進は、容赦なくナムルに襲い掛かっていた。

 その時、ナムルの手には例のペンダントがあり、激しく燃えるように輝いた。

 全てが終わったのは、その僅か二秒後。


「――グゴオゴオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!?」


 銀色の狼は、その美しい毛並みを真っ赤に染めて、その場に崩れ落ちたのだ。

 後に残るは、返り血に塗れた老人一人。

 そんな異様な光景に、アルカディアル教会信者達も、思わず立ち竦んでいる。


「うむ、やはりこの剣が一番しっくりくる。リベア社の株主総会の時も持って来ればよかった」


 昔の血が騒ぐとでもいうのか、ナムルの生き生きとした表情に、サグマールは苦笑すら浮かべていた。


「相変わらずですな。ナムル殿。しかしその神器はいささか力が強すぎます」

「おかげで操るのが大変だ。一度飼いならせば頼もしいのだが」


 ペンダント型の神器はその真の力を解放したとき、眩しすぎて直視できぬほど光り輝く剣に変形していた。

 しかしそれはただの剣ではなく、ましてや一本の剣などではない。

 ナムルを中心とした周囲に、光で出来た刃が、二十は下らない数で現れていたのだ。

 まるで剣で出来たバリケードそのもの。

 そんな剣群にフェンリルは突っ込んでいったことになる。

 さすれば目の前の結果は当然といえよう。

 驚くは、そのフェンリルの動きに合わせ神器を発動させたナムルの戦闘センス。

 少しでも発動が早ければ避けられていたに違いない。

 敵の行動に合わせてカウンターを繰り出したナムルは、フェンリル以上に化け物染みている。


「フェンリルをも切り裂く刃とは、恐れ入ります。助かりました」

「久しぶりに使いましたからな。うまく行くか心配でしたが」

「その割には随分余裕そうでしたね」

「身体が覚えていた。それだけですよ。それにしても血まみれになってしまいましたな。老人は老人らしく、熱い湯船に入ってさっぱりしたいもの」


 ふぅ、とナムルは一息ついて、


「さて、次はどなたかな」


 と、光の剣を囲んで、威圧感を放ち敵を睨む。

 相手は力の弱いただの老人だ。

 だがその老人は、自分達の切り札であったフェンリルを、いとも簡単に処理した相手でもある。

 アルカディアル教会信者達に動揺が広がる。

 だが彼らは決して怯むことはなかった。

 全てを託すに足る、絶対的な神の命令を心に持っているからだ。


「怯むな、我々には龍姫様の御加護がある!」

「ラルガ教会を滅ぼし龍姫様の暮らしやすい世界にするのだ!!」


 改めて決起するアルカディアル教会信者達。

 しかし、その歓声はすぐに静寂へと変わる。


「そうはいかぬ!」

「このような残虐な手に出る悪しき教団に、この都市を渡すわけにはいかん!」


 現れたのはラルガ教会の戦闘員軍隊。


「現れたか、異端なるラルガの連中め……!」

「悪魔に魂を売ったアルカディアルの連中に異端など言われとうないわ……!!」


 ついに両教団が直接対峙することになった。

 一触即発の空気が、ピリピリと緊張するこの場に漂う。


 ――決戦の火蓋は、ラルガ教会の方から切られた。


「アルカディアルの連中を追い出せ! 神聖なる鉱山ルクイエと、アルクエティアマインを守るのだ!」


「「――うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」


 人と人、神器や神獣入り混じる大乱戦へと、フェイズは移行していくのだった。


「ナムル殿。我々の役目はあくまでも治安局に武器や神器を提供すること、オライオンの砲撃を対策することです。ここは彼らに任せて、我々は我々にしか出来ないことをしましょうぞ」

「そ、そうでしたな。つい興奮してしまったようだ。我々は戦闘要員ではない。あくまでも神器の専門家だ。そのことを忘れてしまっていた」

「急いで行きましょう。オライオンが来る前に準備をせねば」

「その前に熱い湯に浸かりたいものだ……」

「それは全て終わってからの楽しみにしましょう。例の神器を起動しておかねば、この都市は大変なことになります」


 それからナムルとサグマールは、礼拝堂の中に設置してある神器の調整を始めたのだった。

 アルカディアル教会とラルガ教会の乱戦は、しばらくの間、地の利や数の暴力を生かし、ラルガ教会側に有利になるようことが運ばれていく。

 

 ――曇る空に超弩級戦艦スーパードレッドノートクラス『オライオン』が現れたこの瞬間までは。



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