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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第三部 第十一章 教会戦争完結編 『誰が為に、君が為に』
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危機レベル:最高の脅威

 ――同時刻。


 治安局はついに医療都市ソクソマハーツ、並びに鉱山都市アルクエティアマインへの軍事介入を開始した。

 本来であればもう少し後になる予定であったが、事態は急を要すると上層部は判断。

 きっかけはウェイル達と共にソクソマハーツの現状を視察した局員達の要請であった。

 彼らの報告は、ソクソマハーツの状況が治安局の想定より遥かに悪いということを物語る内容だった。

 魔獣のたむろする都市を放っておくわけにはいかない。

 魔獣が一匹でも外部に漏れ出せば、他都市に大変な被害が出る。


 そんな最悪な事態になるのを防ぐため、治安局本部は治安局の中でも特別エリートと呼ばれる集団である、神器使用に長けた対魔獣特殊部隊『セイクリッド』の派遣を決定し、ソクソマハーツに送り込んだ。


 彼らは通常の治安局員が身につけているフードコートではなく、黒の下地に金色の星が肩に七つある装飾がなされたコートを着ている。

 派遣された七人の『セイクリッド』を中心として、治安局員総勢二百以上からなる大軍隊が、ソクソマハーツに敷かれた線路の上を、巨大砲塔列車にて侵攻し始めたのである。

 砲塔列車とは、普通の汽車と同様に線路を走る汽車の一つではあるが、大きく違うのはその見た目にある。

 巨大な大砲が、何台も搭載されているのだ。

 治安局が戦地へ派遣する武力の中では、最も移動速度が速く、その火力も相当なものだ。

 現れた魔獣達を一掃するのには、大きな役割を持ってくれそうだ。


 局員達を乗せた砲塔列車は、ついにソクソマハーツ都市内へと突入。

 森を抜け、都市部の姿が目に映る。

 そこから見える景色に、局員達は皆驚愕し、互いの頬をつねりあった。


「なんなんだ、この惨状は……」

「酷過ぎるぞ……! あの純白で美しかったソクソマハーツが……!!」

「魔獣め、許さん……!!」


 誰の口からも似たような感想が漏れる。

 それほど酷い有様が目の前にあった。

 白く美しい景観をしていたソクソマハーツは今、アルカディアル教会の手によって召喚された魔獣達の巣となって、都市として意味を為していなかったのだ。

 魔獣達の放つ正気や体液、火災による煤が、白い景観を真っ黒に染めている。

 そんな不浄な都市を歩く魔獣やアルカディアル教信者達の表情は、やはり薄汚れたものだった。


 敵の魔獣や信者達が、砲塔列車の存在に気が付く。

 気が付けば行動は早い。

 翼を持つデーモンをはじめとした魔獣が、続々と砲塔列車へと攻め込んできたのだ。


「魔獣をこれ以上のさばらせてはならない! うてぇえ!!」


 上官の男の命令が飛ぶと、列車に積まれた巨大砲塔は、龍の吐く炎の如く、その威力をまざまざと見せ付けた。

 大砲の一撃に直撃したデーモンは即死。

 直撃を逃れたデーモン達も、爆発の衝撃波や爆風で一掃されていく。

 だが、それでもデーモンの数は一向に減った気はしない。

 むしろその数は増えていく一方だ。

 押し寄せる敵の波を、砲塔列車は爆撃し轢き倒しながら、ソクソマハーツ駅へと向かう。


「もうじきソクソマハーツ駅だ。一般局員は魔獣との戦闘は極力避けつつ、オライオンを探索し、奪還を目指せ! 残った者はこのまま砲塔列車にて攻撃を続ける! 魔獣退治は専門家に任せます。セイクリッドの方々、お力をお貸しください」


 部隊を二つに分け、それぞれの目的へと向かう。

 セイクリッドの連中も、颯爽とコートを羽織って、それぞれの神器を手に取る。 


「魔獣は我々に任せてもらえれば、万事解決だ。皆は安心してオライオンを探索――――な、なんだ!?」


 ――突如、周囲は闇に包まれる。

 皆何事かと騒ぎ出すと、一人の局員が窓から乗り出し、空を見上げた。


「う、上……!! 上です……!!」


 窓から見える、列車に影を落とす物体の、その大きさと迫力に、誰もが思わず絶句した。

 そして誰かが気が付く。

 その宙に浮かぶ物体の正体こそ、超弩級戦艦スーパードレッドノートクラス『オライオン』だということを。

 

「上官! オライオンです!! オライオンが現れましたぁぁっ!!」

「あれがオライオン……!! 想像を絶する大きさだ……!!」


 ここにいるものは誰もがそう思ったに違いない。

 巨大砲塔を装備したこの列車でさえ小さく見えるほどの大きい軍艦が、空に浮かんでいるのだ。

 局員の間には恐怖と混乱が広がる。

 あんな大きさの軍艦に、対空砲を撃ち込んだところで、かすり傷の一つでもつくのだろうかと心配すらしてしまうほどだった。

 宙に浮かぶ軍艦から、この砲塔列車に集中爆撃でもされたものならば、ここにいるものは即座に神の下へ召されることだろう。

 それが判っているからこそ、局員達はオライオンに向けて武器を向けなかった。

 下手な挑発、意味のない攻撃など出来ようもない。

 もう、逃げることしか頭になかったのだ。


「上官、オライオンの奪還は……?」

「…………」


 ――無理だ。それは誰が見ても明らかであった。

 誰もがオライオンがこの場から大人しく去ってくれることを祈っていた。

 次第にオライオンの姿は遠ざかっていく。

 砲塔列車になど、最初から全く興味がなかったのか、オライオンは何事もなかったかのように空に浮かぶ雲の中へと消えていった。

 落胆と同時に安堵。

 命が助かったことに、あのエリート集団『セイクリッド』でさえ胸を撫で下ろしていた。


「上官、これからどうしましょう……」

「伝えろ。伝えるんだ。アルクエティアマインへ向かった同胞に!! あの化け物を甘く見てはいけないと。その威圧感は、さながら龍の姿であったと……!!」


 上官の男は、しばらく体の震えが収まらなかったという。

 我々がこれから対峙するのは、あの巨大戦艦なのだ。

 生半可な武力では太刀打ち出来るものではない。

 オライオンを生で見て、それがはっきり判ったのだ。


「あれを見た後、改めてデーモンを見てみろ。奴らはなんと貧弱そうなことか」


 オライオンが飛び去った後、空には列車を追ってくるデーモン達がいた。

 しかし誰一人としてデーモンを恐れるものはいない。

 最恐の存在が去った後、デーモン達は正直ただの雑魚にしか見えない。

 上官はこの局員達の心理的変化を見逃さない。


「皆、我々のもう一つの目的はこやつらを一掃することだ。我々に出来ることを最大限して、ソクソマハーツを元に戻す。皆ならば余裕で出来ると信じている」


 皆、口にはしないものの、余裕だという表情をしていた。

 セイクリッドの面々も神器を持って窓から身を乗り出す。


「対空砲、うてぇ!!」

「神器『流星念波(フィーリング・メテオ)』!! 奴らを焼き焦がし、潰してやれ!!」





 ――――――


 ――





 オライオンの飛び去った後のソクソマハーツは、治安局の圧倒的な武力によって、すぐさま制圧されることとなった。

 ソクソマハーツにて暴れ回っていた魔獣も、対魔獣特殊部隊『セイクリッド』の持つ神器や砲塔列車の前に、なす術もなく駆逐された。

 しかし治安局員達に歓喜の声はない。

 何せ魔獣が可愛く見えるほどの強大の存在が、これから鉱山都市アルクエティアマインを崩壊させようと息巻いて自分達の頭上を去っていったからだ。


「ソクソマハーツの制圧は完了した。だがオライオンの奪還には失敗した。そう本部へ電信を打て」

「……上官。私はあの軍艦を見て震えが止まりませんでした。アルクエティアマインの部隊は大丈夫でしょうか」

「……判らん。だが我々が奪還に失敗した以上、あれと戦わなければならないのだ。我々に出来ることはもうあまりない。急いでアルクエティアマインへ向かうことと、ここで見た全てを本部に伝えること。これだけだ。判ったら急いで電信を打て」

「了解いたしました」


 医療都市ソクソマハーツの制圧は完了したが、本番はここからだ。

 アルカディアル教会が向かったのは、ラルガ教会の本部のある『鉱山都市アルクエティアマイン』に違いない。

 オライオン奪還の失敗の報告は、治安局にとって戦争の開始の合図とも言えた。

 エリート集団である『セイクリッド』ですらオライオンには敵わなかったことによって、治安局本部は敵の評価を改めざるを得なくなり、危機レベルを最高に設定した。

 

 治安局VSアルカディアル教会の戦争。

 テメレイアの予測した、Xデーはもう、間近に迫っていた。


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