シンクロナイズ
「あの遺体、おかしいんだ」
「何がおかしいのさ!」
「外傷がないんだ。どこにもな」
「外傷がない……?」
「そうさ。あれらの遺体には、おかしいことに傷が一つもない」
異教徒狩りという行為は、それこそ残虐の一言に尽きる処遇だ。
考え方や信仰の違いという、ほんの僅かな違いだけで他人をゴミのように扱っている。
普通、異教徒狩りは、敵への見せしめと自らの正当性を主張、いわば正義を名乗るために剣を用いて行うことが多い。
故に異教徒狩りが行われる際には、血塗れの地獄絵図が後に残る。
しかし確かにソクソマハーツは異常な光景となっているものの、真っ白な都市が血の赤で染まっているということはない。
それよりも、物損が気になる。
並び立つ白き建物は、壁や窓などが容赦なく破壊され、美しかった都市の景観を損なわせている。
「それに敵の様子もおかしい。いくら敵の信者がオライオンに集結していたとしても、都市部に入ってから一度も出くわさないのは変だ」
森に敵の信者がいないのは、ある意味では当たり前のことだが、都市部にも誰一人いないというのは不可解すぎる。
「外傷を与えずに人を殺す方法。俺には心当たりがある」
「……ボクも……ボクもよく知っているよ……!!」
ギリギリと歯ぎしりすら聞こえる。
フレスはもう翼を隠す気なんて毛頭ないようだった。
「フレス。気配を探れるか……?」
「大丈夫。出来るよ」
フレスはそっと目を閉じた。
外傷のない遺体と、アルカディアル教会の特徴。
それを鑑みれば、ここには間違いなくあの忌々しき連中がいる。
「――ウェイル!! 治安局のところ!!」
「ああ、判った!」
フレスの合図でウェイルが走る。
「避けろ!!」
遺体に祈りを捧げていた治安局員の一人を突き飛ばす。
「――ぐっ……!!」
その直後、ウェイルの肩に激痛が走った。
「な、何が……!?」
突き飛ばされた局員の呆然とする顔が目に映る。
「デーモンだ!! 奴らはここに多数のデーモンを放している!!」
外傷のない遺体は、デーモンを召喚する為の代価として用いられたのだろう。
人は皆、多少個人差はあるものの、魔力を持って生きている。
普段、それらの魔力の一部を抽出して神器の発動に使うのだ。
人の持つ魔力を、人の致死量以上に抽出し、それを神器に注いでデーモンを大量に召喚したというわけだ。
ここにある大半の遺体は、デーモンを召喚する為のいわば生贄であったのだ。
「すぐさま戦闘配置に着け! 敵を迎撃する!」
治安局員は、最初の一瞬こそ呆気にとられていたが、流石は訓練を受けてきただけのことはあり、すぐさま危険排除のために行動を開始した。
「ウェイル! 無事!?」
「問題ない。かすり傷だ」
「デーモンには毒を持つ種もいるから、すぐに治療するよ!」
「それもいいが、先に目の前の敵だ。あいつを放置したままだと治療に専念出来ないだろう?」
唐突に表れたのは大型の下級悪魔。
それも一体だけでなく、三体同時に現れた。
治安局員達が迎撃にあたっているが、彼らでは時間がかかるだろう。
「俺達がいかないとな」
腰に差した神器『氷龍王の牙』を抜くと、ウェイルはすぐさま氷を展開させて、腕と融合させる。
「……氷龍王の牙……」
その様子を見ていたフレスは、ぽつりと呟いた。
ウェイルには伝えてないが、氷龍王の牙はフレスにとっても特別な神器だ。
――何せフレスの身体の一部を用いて製造されているのだから。
(……ちょっと、試してみようかな)
「ウェイル、ボクに合わせて」
「ああ」
ウェイルと同様に、フレスも腕に氷を纏わせ、刃を精製した。
一度だけタイミングを合わせるために二人は視線を交わすと、治安局員を押しのけてデーモンへ切りかかった。
ウェイルが氷の剣を振るったその時、なにやら不思議な感覚を覚えた。
隣にて剣を振るうフレスと、なんだか意識を同調しているかのような、そんな感覚に陥った。
「ウェイル、左」
「そっちは上だ」
互いに指示を送りあう。
二対の氷の剣は、的確にデーモンの心臓を貫き、ドス黒い血の雨を降らせていく。
「残るは一匹だね」
「ついでだ。一緒にやるか」
氷龍王の牙が、爛々と輝いていることにウェイルは気付いた。
氷の剣全体に魔力が充実しているのが判る。
その影響だろうか、身体がとても軽い。
今なら龍であるフレスの動きにだって遅れはとらないだろう。
「グルウウウ…………、グゴオオオオオオオオオオ!!」
残ったレッサー・デーモンは、その汚らわしい翼をはためかせ、二人を中心として高速で旋回する。
とても人間の目では捉えきれないほどの超高速であったが、それを見てたじろいだのは治安局員だけ。
ウェイルとフレスは、その動きを前にしても微動だにもしなかった。
超スピードで二人の背後を取ったレッサー・デーモンは、チャンスとばかりに牙を剥く。
――二人が、その動きすらも完全に把握していることすら知らずに。
「ウェイル」
「フレス」
「「――真後ろ」」
二人は振り返り、指示通りに剣を突き出した。
その刹那、レッサー・デーモンは二対の剣の串刺しとなり、全身を凍りつかせて砕け散った。
断末魔すらあげることの出来ないほどの、一瞬の出来事だった。




