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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第三部 第十一章 教会戦争完結編 『誰が為に、君が為に』
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腹黒いお人好し

「電信を読んだか? イレイズ」

「ええ。レイリゴアは随分とウェイルさんのことを信頼しているようですね」

「信頼しているなら、我々にこの話は来ないと思うけどな。フレス達だけでは不安だから話をよこしたのではないのか?」

「フフフ、それは逆ですよ。彼が故郷の王を信頼出来ない人に託すと思いますか? つまりそういうことです」

「ふん、どうだかな」


 クルパーカー王城、イレイズの私室。

 レイリゴアから届けられた電信を肴に、二人は食後の酒を楽しんでいた。

 もっとも、サラーはアルコールが苦手なので、葡萄の果汁を飲んでいる。


「イレイズ。当然、行かないよな?」

「ええ、行きますよ」

「返答がおかしいぞ? ウェイルには断られたはずだ」

「ウェイルさんは関係ないですよ。ちょっと散歩したくなっただけです」

「散歩で戦地へ赴くのか、お前は……」


 不機嫌そうなサラーに対し、イレイズは目を細めてニコニコしていた。


「そんなことしている暇などないだろう。『カラドナ』の暴落は一旦落ち着いたとはいえ、予断を許さない状況には変わりないだろうに」

「そうですね。でも」


 イレイズは細めた目をさらに細めて、窓の外を見ながらつぶやいた。


「関係ないですよ。そんな些細なこと」

「……まあ、確かに些細なことに違いはないな」


 都市の崩壊寸前まで陥ったことのあるクルパーカーだ。

 この程度の危機、正直なところ屁でもない。

 人が直接死ぬことがない分マシだと、二人は考えている。


「それでもお前は行かない方がいい。王がいなくなる可能性が少しでもあるのはまずい」

「あら、()()()ってことは、サラーは行く気なんですね?」

「…………」

「やっぱり君は素直でいいですね」

「うるさい」

「フレスちゃん想いなんですね?」

「そうじゃない! ……それだけじゃないさ……」


 頬を染めながら否定しても説得力の欠片もないが、サラーの様子だと理由はそれだけではないみたいだ。


「『龍姫』が気になりますか?」

「ああ。私やフレス、ニーズヘッグの他に龍が復活している。それが誰か気になるだけだ」

「ニーズヘッグよりも気になる相手なのですか?」

「…………そうだ」

「そうですか」


 フレスはともかくとして、ニーズヘッグはクルパーカーにとっては悪なる存在である。

 ニーズヘッグの闇が、どれだけクルパーカーに被害をもたらしたか、サラーとて忘れたわけではない。

 そんなニーズヘッグよりも行動が気になるという、龍姫と呼ばれる龍。


「よし、決めました。私もやはり同行します」

「何言ってんだ!? 今の間で理解したのだろう!? ニーズヘッグよりも危険な龍が、敵側にいる可能性があると!」

「だからこそですよ。だからこそ」

「何がだからこそだ! お前がいないとこの都市はどうなることか!」

「そのセリフ、実は私も言いたかったんですよ?」

「……え?」


 思わずキョトンとするサラー。

 その顔を見て、やはりサラーは愛おしいと改めて思う。


「私は君、サラーがいないとダメな男なんですよ。どうなってしまうか判ったもんじゃない」

「な――!?」


 惜しげもなく恥ずかしいセリフを吐くイレイズに、サラーは顔を背けてしまう。

 下手な照れ隠し。

 無論、イレイズとてこの反応を狙ってのことであるが。


「さあ、そろそろ準備をしましょう。レイリゴアの電信だと、ウェイルさん達はもうじきソクソマハーツに潜入するそうなので」

「だから! お前は行くなって言っている!」

「バルバードはいますか?」


 イレイズが呼ぶと、間髪待たずに扉が開いた。


「はっ、ここに!」

「後はよろしく頼みますよ!」

「承知いたしました。イレイズ様の留守中は、このバルバードがクルパーカーをお守りいたします。お任せ下さい。イレイズ様、お気をつけて。サラー様、イレイズ様をよろしくお願いします」


 こうなることを予測しているかのように早い反応だった。

 バルバードは部下と共に扉の外で待機していたようだし、イレイズも当然それに気づいていた。


「バルバード! お前何言ってるんだ!? この都市の王が、自ら危険に飛び込もうとしているんだぞ!? 普通止めるだろ!?」

「サラー様。イレイズ様は元々そういう性分であることを貴方はよくご存知でしょう。止めても聞いてはもらえません。『不完全』の時もそうだったじゃないですか」

「はは、違いないですね。そういう星の元に生まれたんです」


 笑いあうイレイズとバルバードに、歯がゆさを覚えるサラー。


「イレイズ! 今回は『不完全』絡みの事件の規模を超えているのは判っているだろう!?」


 憤るサラーに、イレイズは笑顔を向けてこう言い放った。


「あの時、約束しましたよね?」

「……あの時?」


 あの時とは、イレイズとサラーが初めて出会った日のことだろう。


「君はこう言いました。これからは私が一緒にいる、私がお前を守る、と。覚えていますよね?」

「……覚えているよ」

「だったら話は簡単ですよね? 私が危なくなれば貴方が全力で私を守ればいいんです。違いますか?」

「……違わないさ」

「なら問題ないです。約束ですから、君は私のことを全力で守りなさい」

「はぁ……判ったよ、もう」


 頑固なのに頭の切れるイレイズを言い負かすのは、もう無理だと悟った。

 サラーは一度大きく溜息を吐くと、目を細めてイレイズを睨む。


「約束を持ち出すのは卑怯だぞ」

「私が腹黒いことも知っているでしょう?」

「嫌という程な」


 なんて言いつつも、サラーの表情は穏やかだった。


「時間もありません。急ぎましょう」

「だがどうやっていく?」

「今から馬車を走らせても間に合わないですね。ですから最終手段を取ろうと思います」

「……まさか」

「そのまさかです」


 イレイズはサラーの手の甲にそっとキスをした。

 その時のサラーの顔は茹でダコ以上に真っ赤だったと、後でバルバードが言っていた。


 丁度この時、ウェイル達はソクソマハーツから北にある治安局駐屯地行きの汽車に乗り込んだところだった。


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