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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第三部 第十一章 教会戦争完結編 『誰が為に、君が為に』
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誓いと約束

 テメレイアの予測や分析、敵軍の情報は、すぐさまサグマールによって治安局へ報告された。

 最初こそ、情報源がラングルポートでの目撃情報から容疑者とされていたテメレイアだったということで、裏切りの可能性が考慮され行動に慎重さを見せていた治安局だったが、テメレイアは潜入捜査の最中だったのだとナムルが証言したことで、情報は全面的に信頼されることになった。

 それでもと渋る治安局幹部を説得したのは、最高責任者たるレイリゴアと、そしてステイリィだったそうだ。

 教会都市サスデルセル支部長であるステイリィも、アルカディアル教会による暴動の被害者筆頭として、この度の治安局の作戦に参加することになっている。

 直接会話をしたわけではないが、電信でいくつか情報の交換を行い、戦闘開始日にはウェイルの指示を最優先にして行動してくれるとの約束をしてくれた。

 ありがたい話ではあるが、事件に直接関係のない一鑑定士の意見をそこまで重要視しなくてもと、内心苦笑するウェイルであった。

 勿論、使えるのであれば治安局を利用するつもりではある。

 プロ鑑定士協会にはそれほど関係のない事件ではあるものの、ウェイル個人としてはこの事件、大いに興味があり、そして親友のために動かざるを得ないと思っている。


 フレスの方は、ミルという龍の少女のことが心配で心配で、気が気でないらしく、しきりに「ミル、大丈夫かなぁ」とか「へんなことされてないかなぁ」などと呟いていた。

 ジッとしていられない性格なのもよく知るところ。

 龍同士のネットワークとでもいうのか、フレスは頻繁にサラーと連絡を取っていた。

 相変わらずニーズヘッグについては無視を決め込んでいたが。


 フレスが何度もサラーと連絡を取っているものだから、サラーの同伴者たるイレイズからもウェイルへ電信も届く。

 その内容は至極単純なもので、一言でひっくるめると「我々もお供します」という内容だった。

 経緯を鑑みるに、どうやらイレイズもサラーに直談判されたようだ。

 サラーとしてもミルの存在は気になることなのだろう。

 イレイズとしてもウェイルには大きな恩がある。

 イレイズが出来る限り恩を返していきたいと望んでいるのは十分承知しているのだが、ウェイルはこれを丁寧に断った。

 何故かと言うと、イレイズの治める『部族都市クルパーカー』は今、王を不在に出来る状況にないということを知っていたからだ。

 新リベア社による王とヴェクトルビア買収事件の影響は未だ根深く残っており、クルパーカー発行の貨幣『カラドナ』も、未だその価値を下げたままだ。

 これからのクルパーカーのことを考えれば、一日でも早くカラドナの貨幣価値を元に戻すことが、イレイズにとっての最優先事項である。

 ここで下手に戦争に巻き込まれ、怪我を負う、まして命を落とすわけにもいかないのだ。

 フレスはサラーと共に行動できないことを聞くと、少しばかり肩を落としていたが、現状を考慮すると仕方がないと諦めてくれた。

 




  ――●○●○●○――





 テメレイアは、医療都市ソクソマハーツへと帰還した。

 ウェイル達との再会予定は、四日後の深夜。

 だが再会場所は定めなかった。

 その四日という期間を設けたのは、ウェイルはステイリィや、その他の治安局員とも連絡を取り合い、アルカディアル教会の襲撃に備えることに専念するためだ。




 ――テメレイアがウェイルの元へ訪れた夜、サグマール達が帰った後。


「ミルを縛っている神器は、間違いなくイルガリの管理下にある。だけど彼がその手に持っているところを僕は見たことがない。ということはアルカディアル教会本部のどこかに、その神器は隠されているはずだ」

「俺達はそれを探せばいいのか?」

「その通りさ。探して破壊してもらいたい。といっても神器の形状が分からない以上、闇雲に探し回っても時間が無駄になるだけさ。そこでフレスちゃん。君にお願いしたい」

「うん。ボク、神器には詳しいから、拘束系(バインドクラス)の神器があればすぐに分かるよ」

「一応、僕が『創生楽器アテナ』を使って周囲の神器に魔力を送る。もしかしたらミルが少し苦しむことになるかも知れないけど、神器が発動していれば君も神器の魔力を探りやすくなるはずさ」

「魔力を探るのは苦手だけど、多分出来る。任せて」


 つまりウェイル達は、ミルを拘束しているであろう神器を探すため、ソクソマハーツのアルカディアル教会に潜入することとなったわけだ。

 テメレイアはいくつかの鍵をウェイルに手渡してきた。


「これはソクソマハーツのアルカディアル教会であれば、どの扉でも開くことが出来る(マスターキー)だ。そしてこれが『オライオン』の鍵。この二つが僕が入場権限を持つ場所全ての鍵だ。君がどう使うかは任せる」

「どこで落ち合う?」

「残念だが、僕は教会内では顔を知られすぎていてね。下手に教会内をうろつくことを不審に思う連中もいるはずだし、すでに僕をマークしている連中もいるからね。だからミルの拘束神器を探す作業は手伝えない。それにその頃には僕はもうオライオンに乗船し、アルクエティアマインへと向かっている頃だろう」

「……『アテナ』はまだ封印しなくてもいいんだな……?」

「今はね。あの強大な力は、今はまだ僕の武器となっているから。全てが終った後で、『アテナ』は僕自身で処分しようと思ってる。勿論、プロ鑑定士協会の判断を仰いでからだけどね。だから信じて欲しい」


 『創生楽器アテナ』の処分は自分自身で行う、信じてくれとテメレイアは言う。

 そのセリフを聞いて、ウェイルは鼻で笑ってやった。


「今更信じろってか。馬鹿言うな。信じる(・・・)に決まってるだろ。わざわざ聞くな」

「君はそう言ってくれると確信していてね。わざと聞いてみたんだ」

「……悪趣味な奴だ」

「君の言葉で直接聞きたかっただけさ。今の言葉、一生忘れられそうにない」

「……意地悪な奴だ」


 なんて言い合う二人の表情は、最高に互いを信頼しているという雰囲気だった。

 そのことがフレスには、無性にもどかしく、そして羨ましいと嫉妬してしまっていた。


「三日後、僕は何があってもオライオンを止める。次に君と僕が出会う時、全てが終っていて、互いに笑いあえるようにするために」

「ああ」


 ウェイルも頷きはしたが、一つだけ言葉を付け加えた。


「俺はお前の命を必ず守る。安心してオライオンを墜落させろ。俺とフレスが、何があっても救い出す。だから三日後、必ず生きて会おう」

「ウェイル……」


 テメレイアは言った。

 神器を操れば助かることなどわけないと。

 でも、それは真っ赤なウソ。

 あれは『天候風律(ウルトラファン)』が設置されていたシルヴァンだからこそ出来た芸当だ。

 当然、アルクエティアマイン周辺に『天候風律』のような自然環境系(ナチュラルクラス)神器は存在しない。

 そんな状態で上空に浮かぶ軍艦を墜落させれば、どのような目に合うか想像に容易い。

 テメレイアは、たとえ自分の命を失ってでも、オライオンの墜落に固執するつもりだ。

 それが事件を起こした自分の責任だし、当然の報いだとも思っていた。

 次の再会の時は、もしかすれば自分は躯となっているかも知れない。いや、そっちの方が可能性が高いと、そこまで考えていた。

 それが目の前の最愛の人によって否定された。


「そう、だね……」


 ――不思議な気持ちだった。

 命を賭けるつもりだったのに、この男の言葉一つで途端に命が惜しくなる。


「……助けてもらうよ。うん」


 そしてテメレイアは心に誓った。

 もし、仮に命が助かるのであれば。

 彼に助けられた自分の命を、全て彼に捧げようと。

 いや、それはおこがましい考えだ。

 だって、自分自身がそれを望んでいるのだから。

 ついウェイルと初めて出会った時のことを思い出す。


「任せておけ」


 あの時とセリフこそ違うものの、同じような雰囲気に、懐かしさと頼もしさを覚えたのだった。


「えっとー、ウェイル? 任せろって言っても、多分助けるのはボクになりそうなんだけど?」

「まあいいじゃないか。お前は俺の弟子なんだから」


 ジーッと目を細めるフレスの肩を、ウェイルは笑いながら叩いた。


「ハハハ、本当にそうなりそうだね」


 フレスの絶妙な突っ込みに、思わずクスリと笑ってしまった。


「その時はよろしくね、フレスちゃん」

「うん! 任せてよ!」

「ウェイルもね」

「ああ」


 再会場所すら決めていない約束だが、二人はおそらく落ち合うことができるだろう。

 この二人の約束が破られたことなど、かつて一度もなかったのだから。


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