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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第一部 第一章 教会都市サスデルセル編 『龍の少女と悪魔の噂』
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チェックメイト

 教会内にある書斎にて、バルハーは次なる計画を練っていた。

 部屋の隅には、気を失っているシュクリアを縄で縛って監禁している。


「このままラルガポットが高値で売れ続ければ、本部司祭へ送る賄賂も増えるというもの。そうなると私の最高司祭への道はかなり近くなる……!! 今に私はラルガ教会の全てを手に入れてみせる……!!」


「――随分と強欲な神父様だ。ご機嫌そうで何よりだがな」


 自分とシュクリア以外誰もいないはずの部屋に、低い声が響く。

 すると部屋の影からスーッと、人影が現れた。


「おお、ルシャブテ様!! おかげ様でたんまりと儲けさせていただいております。積み上がっていく札束の山を見るだけで機嫌も良くなるというもの」


 影から現れたのは、ルシャブテと呼ばれた男。

 血のように赤い髪が肩まで伸びていて、体型は細身だ。

 だが弱々しさを感じることはない。

 全ての無駄を削った、そんな表現にふさわしい容姿をしていた。

 目が据わっていて何を考えているか分からない。

 それがルシャブテを見ていて、バルハーの感じた印象だ。


「そうか、それは良かった。追加注文の贋作ラルガポットを持ってきた」


 部屋の隅に置かれた木箱の山。

 その全てが『不完全』の製作した贋作ラルガポットだ。


「おお! またも大量! いやはや、流石は大陸一の贋作士集団。仕事が速い!」

「公式鑑定書分の代金はオマケしといてやる。報酬は明日、一括して払ってもらう」

「承知いたしました。ちょっと拝見しますぞ……。おおっ! これはまた見事な出来ですなぁ。本部の者でさえ間違いかねませんよ」

「これで我々は仕事は完了したが、契約は完了していない。判っているな?」

「重々承知の上にございます。報酬は明日、必ず一括でお支払いいたします」


 バルハーは気を失っているシュクリアに視線を向けた。


「判っているなら、いい」


 素っ気のない返事。

 だがその声は聞く者を凍りつかせるかのような威圧感が存在した。


「しかし、何故あのようなものを報酬にしたのですか? 報酬が――妊婦だなんて」


 バルハーはどうしても気になっていたことを、恐る恐るルシャブテに尋ねてみた。


「その問いに答える必要はない。お前はただ黙って報酬を払えばいいんだ。理解したか?」


 圧倒的な威圧感がバルハーを襲った。

 深入りすれば命はない。

 そう感じさせる声だった。

 バルハーはその迫力に、無言でコクコクと首を縦に振るのみ。


「明日、もう一度ここに来る」


 それだけ言い残して、ルシャブテは影の中に溶け込むと、瞬きする間に姿を消していた。


「……不気味な男ですね。まあ仕事が完璧だから文句はないのですが……」


 ルシャブテの姿が消え、バルハーの緊張がほぐれる。

 ホッと安堵すると同時に、次のことを考えた。


「そうだ。あのオークションハウスをどうにかしませんと」


 ――我々の計画全てを掴んでいるあろうオークションハウスを、このまま野放しには出来ない。


 ルークのオークションハウスには見張りをつけてある。

 後で部下に、彼へ圧力を掛ける様に指示を送ればいい。

 彼のオークションハウスは金になる。

 だから命まで取るつもりはないが、もし仮にこちらの要求と口止めを断った場合にはその限りではない。

 いざとなったらまた『不完全』に頼めばいい。

 とにかくこの贋作を早めにオークションハウスから流してしまおう。

 そこまで考えると、次はウェイル達のことを思い出す。


「あの鑑定士は今頃ダイダロスの胃の中ですか。私の絵に付けられた公式鑑定は無価値になるのは残念ですが、まあ別の鑑定士にでも頼めばよいでしょう」


 ――公式鑑定書とは、鑑定結果をプロ鑑定士協会に申請して初めて価値を持つ。


 申請する前に鑑定を行った鑑定士が死亡した場合、その鑑定結果は全て無効となるのだ。

 降臨祭の儀式に参加する為に、バルハーは部屋を出て大ホールへと足を向けた。

 その途中、ダイダロスを放った部屋の近くを通りかかったのだが、そこでとある違和感を覚えた。


「やけに静かですね……」


 ――バルハーの覚えた違和感。


 それは静寂だった。

 ダイダロスの呼吸音一つ聞こえない、不気味なほどに静かだったのだ。


「奴らが死んでいても、ダイダロスは呻き声でうるさいはずなのですが……――――もしや……!?」

 

 嫌な予感が脳裏をよぎる。

 冷や汗すら垂らしながら、バルハーは壊れた扉から部屋の中に入った。

 部屋の中は途方もなく静かで、そして何故か寒さを感じる。


「な、なんなんだ……!? な、何もない!! 何もないじゃないか!?」


 当然部屋の中にいるはずのダイダロスが、忽然とその巨体を消していた。

 

「奴らは……、奴らは一体どこに……」


 鑑定士達二人の死体も、どこにも見当たらない。


「すでに食われたか、それとも逃げたか? いや、どちらにしてもそれならダイダロスがここにいないのはおかしい! ダイダロスはこの部屋から出られないのだから……!!)


 ダイダロスにも支配系の神器を装着してあり、転移の術式陣を守るように命令してある。

 部屋から勝手に出て行くということはありえない。


「どういうことだ……!? ――――誰だ!?」


 咄嗟に感じた、背後からの殺気。

 ダイダロスもいない。奴らもいない。

 バルハーはただただ恐怖を覚えた。


「……クソッ!!」


 バルハーは急いで自分の書斎に戻ると、誰にも入られないように二重に鍵を掛けた。


「一体どうなって……――はっ!?」


 部屋で感じた殺気が、書斎の前にまで来ていることに気づいた。


「だ、誰だ!?」


 バルハーは書斎に置いてあった護身用ナイフを手に取ると、震えながら叫んだ。


「――邪魔するぞ」

「――するよー!」


 聞き覚えのある声が返ってきたと思うと、固く閉じたはずの扉は凍りつき始め、そして巨大な力に押しつぶされるように、扉はみしみしと音を立てて崩れていった。

 扉から入ってきたその訪問者を見て、バルハーは驚愕することになる。


「これはこれは、バルハーさん。また会ったな。シュクリアは無事か?」

「ウェイル、シュクリアさんは無事だよ! あそこにいる!」


 フレスが指差す先に、気絶したシュクリアを発見した。


「無事か。良かった」

「な、何故お前がここにいる!? ダイダロスはどうした!?」


 バルハーは震える身体を押さえながら、ナイフを片手に叫んでいた。


「あれ、倒しちゃった!」


 そんなバルハーの様子がおかしかったのか、フレスは笑いながら返答する。


「ダ、ダイダロスを倒すだと!? 貴様ら一体何者なんだ!? プロ鑑定士とはこれほどまでに……!?」

「さてと、バルハーさん。いくつか聞きたいことがある――」

「聞きたいことだと!? ふざけるな!! お前達はラルガ教会の神父である私に手を上げようとしているのだ。ラルガ教会本部にこの事を報告すれば、お前達は明日から教会から追われる身になるんだ!! それを判っているのか!?」


 バルハーはウェイルを言葉を遮って言葉を綴った。

 だがウェイル達に脅しは通用しない。


「おい、話を逸らすな。それに俺達に対して余計な心配はしなくていい。明日から俺達が教会に追われる、ということは絶対にないのだからな」

「どっちかというと神父さんが追われる立場だよ?」

「ど、どういうことだ!?」


 バルハーは知る由も無かった。

 ウェイル達は、すでに手を打っているということを。


「お前がこの都市でしでかしたこと、何から何まで全部、ラルガ教会本部と治安局に通報したからだ」

「ふん、そんなどこの馬の骨とも分からん奴の通報を教会本部が信じるはず……――――ああっ!!」


 バルハーはようやく気がつく。

 自分が相手をしているのは『プロ鑑定士(プロアプレイザー)』であることを。


「理解したか? 俺は『プロ鑑定士』だ。今回の通報は、『公式鑑定書』扱いでお前のしでかした全てのことを記した。知っているよな? プロ鑑定士の『公式鑑定書』が、このアレクアテナ大陸においてどれほど信用されているかを」

「そ……そんな……!!」


 そこまで聞いたバルハーは、全てが終わったと悟ったのか、膝を曲げて地面に手をついた。


「ついでに『物的証拠』、『関連証拠』についても全て抑えた上での通報だ。もうじき治安局がここに来たとき、転移用神器も押収されるだろう。チェックメイトって奴だ」

「悪いことしちゃったんだから逮捕されて当然だよ。しっかり反省しなさい!」

「さあ、顔を上げろ。聞きたいことがあると言っただろう?」


 ウェイルの本番はここからだ。

 こいつには『不完全』についての情報を話してもらわなければならない。

 悔しさでしばらく地に伏せていたバルハーだが、突如として笑い声を上げ始めた。


「フハ、フハハ、フハハハハハハッ!! そうか! それならば私は今日明日には教会本部に連行され、やがて死罪になるだろう!! だが私一人が死ぬのは馬鹿らしい!! 貴様らも道連れだ!! 貴様らだけは絶対に許さん!! 死ねぇえええええええええええええええ!!!」


 追い詰められたバルハーは、狂乱し奇声を上げて、ナイフでフレスに切りかかった。


 ――キィィィィィンッ!!


 刃と刃のぶつかる金属音が部屋に響く。


「――な……!!」

「俺の弟子に手を出すとはいい度胸だな!!」


 バルハーのナイフは、手からすり抜け宙を舞う。

 ウェイルがバルハーのナイフを、氷の刃で弾き飛ばしていたのだ。


「さて、もう武器もないだろう。じっくりと聞かせてもらう」

「ヒィィィィィッ!」


 ウェイルが凄みを利かせて睨むと、バルハーは恐怖で顔が歪ませた。

 それほどまでに今のウェイルの顔には、怒りが浮き出ている。


「『不完全』とはどうやって接触した?」


 ウェイルはバルハーの胸倉を掴んで尋問を始めたのだった。



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