プロの世界へ
「ウェイル! ボク、合格していたよ!?」
「だから言っただろ。万が一にもってな」
「ウェイルにぃ! 私も合格しちゃった!!」
「はは、師匠は弟子二人をプロ鑑定士にしたわけだ。あの人は鑑定士としても、師匠としても天才だったってわけだ」
合否発表を陰ながら見守っていたウェイルに、喜びで勢い余ったフレス達が飛び掛かる。
最後に歩いてきたのはイルアリルマ。
「ウェイルさん。これで私、ようやく『不完全』を追うスタートラインに立てました」
「そうだな。おめでとう」
「これからは同じ立場の同胞として、協力していただけますか?」
「無論だ。奴らを追うのは俺の使命だ」
「あの時の約束、絶対に守ります。私は出来る限りのサポートをします。そして貴方は前線に立つ。共に奴らを倒す為に」
「ああ。約束だ。守るよ」
「これからはプロとして、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく。プロの世界へようこそ、イルアリルマ、ギルパーニャ、そして――フレス」
「うん!」
「よろしくね、ウェイル!」
同じ目的を目指す同志として、そして同じ世界に生きるライバルとして、ゆっくりと握手を交わした。
――●○●○●○――
ラングルポートの事件や合否発表から、すでに二週間が過ぎようとしていた。
治安局の捜査も空しく、オライオンの行き先は不明のままだ。
あれほどの巨大な戦艦が空に浮いているのだから見つかりそうなものだが、その辺はアルカディアル教会の隠匿術の方が上手だったようだ。
とはいえ、オライオンは在処の見当はついている。アルカディアル教会本部がある『医療都市ソクソマハーツ』だ。
治安局は着々とソクソマハーツへ向けて進攻の準備を整えているらしい。
しかも対テロリスト専門のエリートを集めた魔術部隊まで用意しているという。
自分も前線に送り込まれるかも知れないから、しばらく身を隠す予定だと自慢げに語るステイリィが何とも憎らしいこと。
「そういえば最近部下の視線が冷たいんですよ。何かあったんですかねぇ?」
堂々とついていた『結婚する』という嘘が、すでにバレていることを彼女はまだ知らない。
嵐の前の静けさとはよく言ったものだ。
本当にこの二週間は平和そのものと言えた。
しかし、着実に武力衝突の日は近づいている。
プロ鑑定士協会も、来るべきその日に向けて、出来る限りの準備を行ってきた。
――そして事件は唐突に、雪の舞う夜にウェイルの部屋にて発生した。
「ウェイル、話があるんだ。少しいいかい?」
「……あ……? フレスか……? ちょっと今日は疲れててどうしても眠いんだ。明日にしてくれ」
「僕だ、ウェイル。起きないとキスするよ?」
「……バカ、何を言って……、――はっ!?」
目を開けると、そこにドアップで写り込んでいたのは、妙に整った艶のある顔。
「レイア!? どうしてこんなところに!?」
「何って、僕もプロ鑑定士だからね。たまには協会に顔を出さなきゃと思って」
「お前、どの面下げてここに来てるんだ!?」
「どの面って。僕の顔では不満かな? かなり失礼だよ、それ」
「いや、そういうことじゃなくてだな……!!」
なんとも調子の狂う奴だ。
ふとテメレイアの右腕を見る。
「火傷は大丈夫なのか?」
「え? ああ、大丈夫だよ。便利だよね、龍の魔力ってさ」
「…………お前、まさか……」
「フレスちゃん、いる? 出来れば彼女にも聞いて欲しいかな」
「一体何を……?」
「アルカディアル教会が捕えている龍――ミルのことを――」
アレクアテナ大陸史上最大となる戦争の幕は、今まさに開かれようとしていた。




