弩級戦艦の砲撃
「ギルさん、早く伏せて!!」
「え!? ……うわぁあああああ!?」
集約された光は、怒涛の光線となって、地上へと撃ち放たれた。
光と轟音と、そして爆発風が、地上に広がっていく。
察覚に長けたイルアリルマの咄嗟の指示にて、どうにか吹き飛ばされずに済んだ。
「なんなの、今の!?」
「強大な魔力が飛んでくるのを感じたんです! 状況は私にはどうにも!」
見ると港の方から黒い煙が上がっているのが判った。
「セントラルポートが撃たれたらしいぞ!!」
「すげぇ煙だ、セントラルポートは無事なのか!?」
「酷い……!! なんなの、これ……!!」
「今の光線って、後ろの軍艦から発射された奴だろ……!! あんな力を持つものが、十二隻あるとか……」
「一番デカい奴が撃ってきたら、一体どうなっちまうんだ!?」
人々はその威力を目の当たりにして、混乱し収拾がつかなくなる。
「慌てるな! 皆、落ち着いて避難しろ! デイルーラ社の地下倉庫だ!」
慌て怯える受験者に活を入れるサグマール。
しかし本人も内心混乱の極みにあった。
(ナムル殿の話によれば、あれはアルカディアル教会の犯行に違いない。だとすれば、この後は……!!)
段々と都市部へ近づく大艦隊に、恐怖せざるを得なかった。
――●○●○●○――
(急がないと……!!)
しかしどう焦ったところで、ウェイルの行き先は海の上だ。
海から這い上がり、遠ざかっていくオライオンまで、どうやって戻ればよいのか。
(……そんなことより、まず助かるかどうかも判らないがな……!!)
この高さから海に叩きつけられるのだ。
その衝撃は計り知れない。
ウェイルが衝撃に備えて身を丸めようとした、その時だった。
「ウェイルーーーー!!!!」
酷く懐かしく聞こえたその声に、安心感すら覚える。
「フレス!?」
青白く輝いた翼を広げたフレスが、ウェイルを助けるために飛んで来ていた。
「手を伸ばして!!」
「ああ!」
海に叩きつけられる寸前。
間一髪のところでウェイルはフレスの手を掴み、空へと舞い戻った。
「フレス、どうしてここに!?」
「ウェイルを助けに来たんだよ! 後色々と伝えないといけないことも!」
「試験はどうしたんだ!?」
「ヘヘン、試験と師匠の命、どっちに価値があるかなんて、鑑定士じゃなくたって判るよ!」
「フレス……!!」
「ごめんね、本当はもう少し早くウェイルに会いたかったんだけど、道に迷っちゃって。でもカッコいい女の人から借りた手帳のおかげで、なんとかここに辿り着けたよ」
空いた片手に手帳を借りる。
「……イザナの手帳か。あいつ、本当に良い秘書だな……!!」
ちらっと見ただけでイザナのものだとすぐに判る。
何せその手帳には、スヤスヤと社長室で昼寝をかますユースベクスの似顔絵が描かれていたのだから。
「フレス。言わなければならないことがある。この事件を操っているのはテメレイアだ」
「……レイアさんが」
「あいつが詩を詠み、軍艦に魔力が満ちる前に止め――」
セリフを中断させに来たかと疑うタイミングで、戦艦に魔力光が集約し、大砲からは怒涛の光線がセントラルポートへと発射された。
「レイアの奴、早すぎるぞ……!!」
こうなればもう、レイアを止めても意味を為さないことになる。
「ウェイル! もうこの艦隊を全部ぶっ潰した方が早いよ!」
「ああ、それしかないようだ」
十二隻の弩級戦艦から、次々と発射される魔力の光線。
それらを全て止めないことには、ラングルポートは火の海になる。
「オライオンは後回しだ。とにかく先に攻撃を止めさせる」
「ウェイル、ボクを元の姿に戻して!」
「いくぞ、フレス!」
いつ以来だろうか、二人は空の上で唇を交わしたのだった。
――●○●○●○――
「うまく行きましたな」
オライオン上でほくそ笑むのはリューズレイドであった。
「後はオライオンを持っていくだけですか」
顎を手で触りながら、煙の上がる都市を見てそう呟いていた。
「だね。僕等にとってオライオン以外は別にどうでもいい。どの道、船員は誰一人乗っていないんだろう?」
「はい。ドレッドノートは全てレイア殿の歌で制御できるということなので。皆オライオンに乗船しておりますぞ」
「よし、なら引き上げよう。引き続き囮のドレッドノートには攻撃をさせる。怖い存在もいることだし、ささっと引き上げよう」
テメレイアの歌が、空に響き渡る。
シルヴァンの『天候風律』を操ったときと同じように、似たような神器を使って雲を作り、隠れるようにラングルポートを去った。




