最後の希望
「なんなんだ!? この光景は!?」
「空に軍艦が浮いている!?」
その日、貿易都市ラングルポートの住人達は、皆自分の頬をつねったことに違いない。
誰が軍艦が宙に浮き、その砲台が自分達を狙っているだなんて考えるだろうか。
「社長、あれは……!!」
「我が社の軍艦に違いない……!!」
その異様な光景は、デイルーラ本社からもよく見える。
超弩級戦艦『オライオン』を中心とした総勢十三隻の大艦隊が、ラングルポート都市中央部へ向けて進攻して来たのだ。
「イザナ! 緊急指令を出せ! 社員全員を本社内へ退避させろ! 治安局にも連絡を! ラングルポートの住民の避難にデイルーラの全地下倉庫の使用を許可を出すと伝えろ!」
「はい、直ちに!」
「……どうか無事でいろよ、ウェイル……!!」
見る見るうちに姿が大きくなる大艦隊を前に、そう祈る事しか出来ないユースベクスだった。
――●○●○●○――
「り、リルさん……! あ、あれを見てよ……! 大変だよ……!!」
ギルパーニャが、空に浮かぶ大艦隊を指差した。
その顔は酷く青ざめている。
「えっと、あの、私、見えないんですけど」
「そうだった!」
「一体何が起きているんです? 周りの人の話だと、空に船が浮かんでいるとか」
類稀なる聴覚で、周囲の噂話から状況だけは伝わってくる。
だがこの壮観な光景は、イルアリルマの脳内で再生するには想像力が足りないほどの凄まじいものであり、ギルパーニャの焦りはイルアリルマには伝わり辛い。
「そうなんだよ! 軍艦が空に一杯!」
「……神器暴走の一件と関係しているんでしょうか……」
周囲をさらに注意深く窺うと、プロ鑑定士協会のスタッフ達が慌て騒いでいる。
状況の異変を察してか、受験者達にも動揺が広がった。
神器暴走事件については、各受験者達も知っていることなのだろう。
先程サスデルセルで事件があったばかりで、その被害は甚大だと聞く。
もしこれがアルカディアル教会の手によるものならば、このラングルポートもサスデルセルの二の舞に、いや、武力面でみれば圧倒的に今回の方が上なのだから、被害はサスデルセルを上回る可能性が高い。
「プロ鑑定士は神器を持て! あれは治安局やデイルーラ社の軍艦だ。あれに搭載されている大砲はかなりの威力を持つ。防御系の神器をデイルーラから借りて住民の被害を最小限にするのだ!」
サグマールの指示により、プロ鑑定士達はそれぞれ行動を開始した。
前代未聞の、宙に浮かぶ大艦隊だ。
それにあれは他大陸を相手にするために製造された巨大軍事兵器である。
当然、軍艦に積み込まれた大砲や神器は、人を殺傷するに十分な威力を持ち合わせている。
艦隊は上空にある。故にこちらから積極的に攻撃をすることは難しい。
ならば防御に徹し、ラングルポートを守るしかない。
「サグマールさん、デイルーラ社からの連絡です。軍艦は破壊してくれて構わないと、被害を最小限にするための努力を双方していこうとのことです」
「許可が出なくてもぶっ壊してやる――と言いたいところだが、生憎その方法がない」
「治安局からも連絡が来ております。ここガングートポートにある軍艦の内、乗っ取られたのは弩級戦艦は十二隻。他の任務やポートに出航していた残りの軍艦を使って、対空砲の準備を進めるように指示が回ったそうです」
「……そうか」
しかし、サグマールはその報告をそれほどあてにはしていなかった。
上空からの砲撃と、地上からの砲撃。
どちらが有利かと問われれば、その答えはあまりにも明白であるからだ。
このラングルポートで、あの大艦隊に唯一対抗出来そうな武力。
それはもう、この都市にいるであろう一人の鑑定士とその弟子である少女。
それしかないとさえ考えていた。
(我々はもう、ウェイルやフレスに全てを託すしかないのかも知れん)
フレスが龍であること。
それこそがプロ鑑定士協会にとって、最後の希望であるのかも知れない。
そんなことを考えている最中。
『――――――――』
「なに? この歌」
「綺麗な歌声ですね」
唐突に、どこからともなく美しい歌が響いてくる。
心にスッと入ってくるように、澄んだ綺麗な歌声だった。
誰もがその歌に聞き惚れる中、サグマールだけは冷や汗が止まらないほどの恐怖を覚えていた。
次の瞬間、大艦隊が輝き始める。
「光ってる……!?」
「――ギルさん、皆さん!! 伏せて下さい!!」
危険性を感じ取ったイルアリルマが大声を上げた。




