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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第三部 第十章 貿易都市ラングルポート編 『暴走!! 超弩級戦艦!!』
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譲れぬ線

「一言でよかったんだ。――『助けてくれ』――ってな」


 それを聞いたテメレイアは、目を丸くして呆気にとられていた。

 しばらくすると唐突に笑い始める。


「ハハハ、僕が君に!? 助けを求めるって!?」

「そうさ。そしたらこんな所で対峙することもなかった。俺は全力でお前のサポートをしたはずだ」

「どうしてそんなことが言える!? 君に一体何が出来るんだ!?」

「何だって出来るさ。『親友』がこれほどまでに悩んでいるんだからな。お前だって同じだろう?」

「――――!!」


 高笑いの声は突如止んだ。

 テメレイアの顔から狂気が消えている。

 代わりにあったのは、優しい笑み。


「そうだね。――『親友』だもんね」


 思えばテメレイア自身も『親友』の為にここまで行動していたのだ。

 もしテメレイアが今のウェイルの立場になったら。それはとても――。


「レイアさぁ。なんていうか――寂しいじゃないか」


 ――とても寂しいと思うに違いない。


「そうだね。もっと早くその一言が言えればよかった」

「レイア……」

「だけど、生憎その一言を言える勇気は僕にはなかった。だからこうやって遠回りな戦略を取っている」


 テメレイアの瞳に、先程までの決意の光が戻る。


「計画に変更は?」

「寂しい答えだけど、ないよ。賽は投げられたんだ」


 テメレイアは本を開き、楽譜を呼び起こす。


「ウェイル。邪魔をするな。出来る限り被害を抑える為、歌に集中したい」

「でも攻撃はするんだよな」

「何度も言わせるな」

「俺が止めないと思っているのか? 俺がその本を奪ってしまえば、もう『アテナ』の力は行使できない。そうだろう?」

「違うね。確かに『アテナ』のコントロールは難しくなる。だが一度魔力を暴走させた神器は、もう後は魔力が切れるまで使用者の意のままだ。このオライオンも、周りにある弩級戦艦(ドレッドノートクラス)も、すでに魔力の注入を終えている。後はもう、魔力が尽きるまで暴走するだけさ」

「……もう手遅れってことか」


 てっきり発動の術者たるテメレイアを止めれば、全ての軍艦は機能を停止すると思っていた。


「これから歌うのは、弩級戦艦に備わっている対都市攻撃用の大砲系神器の為の歌だ。少しでも被害を減らしたいなら邪魔をしないことだ」

「バカ言うな。お前を止めて術を止めた方が、被害は少なくなるに決まっているだろう!?」


 もう、ここから先は互いに譲れない線だ。

 一歩の譲歩も出来ぬ線。

 これ以上になると、後は戦うしか方法はない。

 ウェイルは神器『氷龍王の牙(ベルグファング)』を抜く。

 片手で構え、刃先を親友へと向けた。


「勝てるとでも?」

「さてな。だが勝機はある。その本を奪えば俺の勝ちなんだからな――!!」


 ウェイルは体勢を低くして、一気に走り始めた。

 対するテメレイアは、ポケットからガラス玉を取り出して、ウェイルの移動する先を予測して投げつけてくる。


『――――――――』


 歌が響き渡ると、爆発が起きていく。

 だが先程見た爆発と比べると、相当規模は小さい。

 避けることもさほど難しくはなかった。


(予想通り、大爆発は起こせないよな。自分も巻き込まれるわけだから)


 ガラス玉での攻撃には弱点がある。

 それは術者の近くでは自分自身を巻き込む可能性があるという事。

 よって近づいて戦えば恐れるに足りない。

 ウェイルは一気にテメレイアへと詰め寄っていく。

 無論、テメレイアだってウェイルの狙いくらい百も承知していた。

 素早い身のこなしで、本を守りながら、ウェイルの攻撃を避けていく。


「レイア! 本を捨てろ!」

「出来るわけがないだろう!!」


 自爆覚悟だろうか。

 テメレイアは唐突にガラス玉を床に投げつける。


『――――――――』


 至近距離での爆発。

 咄嗟のことに避けることが出来なかった。


「ぐはっ……!!」


 爆風によりウェイルは、甲板の先端まで吹き飛ばされ、壁に背中をぶつけた。

 当然、爆発を引き起こしたテメレイアとて無事ではなかった。

 本を守った腕の方は、見た目でも判るほどの火傷(やけど)を負っている。


「はぁ、はぁ……、君は本当に強いね……!!」


 息を整えながら、テメレイアは更なるガラス玉を手にしている。

 火傷が痛むのか、微かに手が震えていた。


「止めろ、レイア!! 火傷の手当てをした方がいい!!」

「それは君だって同じだろう? それにこの程度の火傷くらいどうってことない。責任の先払いってことでいいのさ。それだけのことをしようとしているのだから」

「レイア……!!」


 ガラス玉はウェイルへ向かって投げられた。

 避けようと立ち上がるものの、爆発の威力は先程よりも大きい。


『――――――――』


(くそ、無理か……!?)


 一度目は何とか避けることが出来たが、テメレイアは詰めの甘い奴じゃない。

 今度はウェイルの逃げ道になりそうな場所全てに、間髪入れずガラス玉を投げつけてくる。

 チラリと船の下が見える。

 ここは港の都市。つまり下は海だった。


「くそっ……!! 仕方ない、何とかなるだろう……!!」


 ガラス玉を避けるため、ウェイルは手すりに捕まると、一気に身を翻した。

 オライオンから脱出するしか、もう助かる道はないと踏んだからだ。

 ふわりと体が宙に浮き、重力に従い下に落下していく。

 甲板から脱出するとき、一瞬だが爆発の煙が途切れてテメレイアの顔が見えた。

 その顔はとても悔しげで、そして涙が溢れていた。

 僅かに唇が動いているのも確認できる。

 当然何を言っているのかは判らなかったが、不思議とウェイルには『ごめんね』と言っている風に見えたのだ。

 頭上に広がる、空に浮かぶ大艦隊。


(――凄まじい光景だよ、まったく)


 そう思いながら、海に落ちることを祈りつつ、ウェイルは重力に従っていった。


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