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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第三部 第十章 貿易都市ラングルポート編 『暴走!! 超弩級戦艦!!』
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託された秘書の手帳


 勢いのまま飛び出してきたはいいが、どこへ向かえばいいのか判らなかったフレスは、とりあえずデイルーラ社へ向かうことにした。

 デイルーラ本社建物付近にやって来たフレスは、行き交う多くの人々と肩をぶつけながらも、どうにか本社前へと辿りつく。

 急いで本社扉を開けて中に入ろうとした、その時――。


「――おっと」

「うわぁ!」


 扉を開けるため、フレスが手を伸ばした時と同じタイミングで、逆側から扉が開かれた。

 勢い余ったフレスはそのまま中へと倒れ込む。


「いててて……、運悪い……」

「大丈夫かな? 小さなお嬢さん」


 手を差し出してきたのは、少し強面のおじさん。


「う、うん! おじさん、デイルーラの人!?」

「ん? ああ、そうだが」

「ねぇ、ウェイルって知っている!?」

「ウェイル? ああ、知ってるとも」

「今どこにいるの!?」


 ウェイルの手掛かりに、フレスは思わずそのおじさんにしがみついた。


「ちょっとお嬢さん。少し落ち着きなさい」

「落ち着いてなんていられないよ!」

「あのな、君は話の過程をすっとばしすぎだ。まず君は一体誰だ? 見知らぬ誰かに我が友のことを詮索されるのは気持ちが悪い」

「あう……、それもそうだね……」


 慌てすぎて、ことを急ぎ過ぎたフレスは、その通りだと反省した。

 少し落ち着くべく、軽く深呼吸をする。

 二度ほど深呼吸したところで、質問内容をまとめた。


「ボク、フレスって言います。ウェイルの弟子をしているんです」

「ほお、君が噂に聞くウェイルの弟子か」


 これにはどうしてかおじさんの方が驚いていた。


「しかし今はまだ時間的にギリギリ試験の最中ではないかね? どうしてここにいる?」

「それどころじゃない事件が起きたんでしょ!? ガングートポートで爆発が起きたって!」

「何? あの爆発はガングートポートで……!?」


 おじさんはしばらく顎に手を置いて、何やら思慮し始めた。

 急ぎたいフレスも、そのただならぬ様子に、どうしてかウェイルに関係がありそうだと思えた。


「社長!!」


 甲高いその声は秘書のイザナのものだった。

 必死で走ってきたのか、肩で息をしている。


「社長、ガングートポートが、たい、大変な、ことに……!!」

「何があったんだ!?」

「治安局員に聞いた話だと、アルカディアル教会が、ガングートポートを攻めて来たって……!!」


 ウェイルと別れたイザナは、その足で情報収集に回ったという。

 少しでも社長に報告する情報は多い方が良いという判断だ。

 彼女はガングートポートを調べる途中、アルカディアル教会の連中を見つけたという。

 連中の目を盗んで、倒れていた治安局員を応急手当し、何があったかを訊いてきたそうだ。


「イザナ、ウェイルは一緒じゃないのか!?」

「ウェイルさんは、神器の暴走の可能性を考慮してオライオン内に残っています。しかしアルカディアル教会はガングートポート全域を攻めているようなので、もしかしたら最悪の結果になっているかも……!! 私の責任です……!!」


 敵の進攻の真っ只中に一人ウェイルを残してきたことを悔やむイザナ。

 彼女がウェイルと別れた時は、アルカディアル教会がここまで来ているなど想定すらしていなかった。


「もういい、お前は休め」

「しかし!」

「ここで被害を伝えること。それがお前の仕事だったんだろう。後は我らの仕事だ。我が社とラングルポートを守る為、社員一同、全力一丸となってガングートポートの奪還に向かう!」

「おじさん! 今、ウェイルって言ったよね!?」

「あ、ああ。イザナ。ウェイルはガングートポートにいるのだな?」

「はい、無事だといいのですが……」

「おじさん、ガングートポートへの地図ってある?」


 精根尽き果てたイザナに肩を貸すユースベクスに、フレスが地図を要求した。

 ラングルポートの地理を全く知らない故、どうしても地図が必要だったのだ。


「お嬢さん。確かにウェイルのことは心配だろう。だが君はまだ子供だ。危ない橋は渡らせられん」

「関係ない! ボクは誰に何と言われようとウェイルのところへ行かないといけないんだ!」

「しかし!」

「……貴方、お弟子さんなんですね?」


 ユースベクスの言葉を遮ったのはイザナだった。


「そうだよ」

「これ、使ってください」


 イザナがフレスに渡したのは一冊の手帳。


「イザナ!? 子供に何を!?」

「社長は黙ってて下さい! 彼女はプロ鑑定士試験を抜け出してまでここに来ているんですよ!?」


 そう、プロ鑑定士試験は午後三時まである。

 だが今はまだ午後二時五十分。

 フレスがここにいるのは、本来ありえない話だ。

 無論、そのことはユースベクスとて理解している。


「そこまでして師匠の元へ行きたいというのです。この子の気持ちも汲むべきです!」

「う、うむ……」


 激しい剣幕に気圧されたのかユースベクスは言葉を失う。


「これ、借りていいの?」

「ええ。その手帳にはラングルポートの地図やガングートポートの地図を初めとして、我が社の企業秘密、社長のスケジュール、取引相手の連絡先から、社長がどこで飲んだくれていたとか、そのツケはいくらかとか、子供に渡したお駄賃はいくらだとか、昼寝している社長が寝言で何を口走ったとか、その他諸々、あることないこと全て書かれております」

「なぬ!? おいイザナ、なんてものを渡しておる!?」

「早く行ってください、ウェイルはガングートポートの0番ドッグにある一番大きな船の上にいます! 急がないと彼の命が危ないです!」

「……ありがとう!」


 フレスは手帳を片手に、背中に青く輝く翼を出現させた。


「なっ!?」


 驚くユースベクス達を残して、フレスは大空へ舞い上がる。

 優雅に翼をはためかせ、指定されたガングートポート0番ドッグへと向かった。


(ウェイル、無事でいて……!!)


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