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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第三部 第十章 貿易都市ラングルポート編 『暴走!! 超弩級戦艦!!』
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楽しい時間

 ――そして甲板には、願ってもない人物がいた。


「やあ、ウェイル。久しぶりだね。と言ってもそんなに時間は経ってないけどさ」

「レイア……!!」


 優雅に、そして気品ある笑みを浮かべて、甲板に立っていたのは、ウェイルに警告を送ってきたテメレイア張本人であった。


「ここで何をしている!?」

「何、か。自分で推理しなよ。君はプロの鑑定士なんだからさ。もっとも、おおよその見当は付いているんだろう?」


 見下すような口調に、内心腹立たしかったが、それ以上に違和感が強かった。


「お前、これから何をする気だ?」

「言っただろう? 自分で推理しろって」

「そういう意味じゃない。俺が尋ねているのは最終目的のことだ。本当のな」

「……本当の? さてね」

「当然話す気はないってか」

「……時が来れば伝えるさ」


 これだけの返答で十分だった。

 ウェイルはテメレイアのことを、今でも信用しているわけだから。

 奴には奴の目的がある。

 テメレイアのことだ。例え親友であろうとも、その親友が危険なことに巻き込まれる可能性が少しでもあるのならば、何があっても話さないだろう。


「質問の仕方を変えようか。イエスかノーで答えるだけでいい。嫌なら答えなくても構わない。いいか?」


 だからこそウェイルは短い問答だけをすることにした。


「イエス♪」


 ありがたいと言わんばかりに笑顔で返してきたテメレイア。


「アルカディアル教会は、すでにここにいるのか?」

「……イエス」


 その顔は驚いている風にも見えたし、「やっぱりばれてるかぁ」という苦笑いにも見えた。


「すでにガングートポートには侵入しているのか?」

「イエス」

「目的は神器か?」

「イエス」

「『創世楽器アテナ』の使い心地はいいか?」

「…………ノー」


 最後の質問だけは、テメレイアの瞳に影が差したように見えた。


「判った。もういい」


 ここまで聞けば、アルカディアル教会の目的も簡単に推理できるというもの。


「本当に『三種の神器』ってのは存在したんだな……」


 まずそのことに驚き、そのうちの一つが敵の手中にあることが何よりも恐ろしい。

 ある程度状況は推測できたし、急いでユースベクスや治安局と連絡を取った方がいい。

 そう思い、電信を打ちに行こうとするウェイルの前に、テメレイアは立ち塞がった。


「ねぇ、ウェイル。僕はね。アレクアテナ大陸で最高の鑑定士とは、君のことだと思っているんだ」

「……どうしたよ、唐突に」

「僕なんて、君と比べたら月とすっぽんさ。それほど君の器は大きい」

「……何が言いたいんだ?」

「簡単な話さ。優秀な君をここで止めておかないと、これからの計画に支障が出る。そう言いたいのさ」


 テメレイアが本を広げると、本は魔力光で輝き始め、その上に楽譜が浮かぶ。


「君の弟子であり相棒のフレスちゃんがいない今しか、君を止めることは出来ない。龍の相手は御免だからね」

「どうしてフレスが龍だと知っている!?」


 テメレイアの口から出た龍という言葉に、ウェイルは酷く驚いた。

 まさかフレスが、テメレイアに自分は龍だと打ち明けたのか。

 いや、それは恐らくないはずだ。

 とすれば、フレスの力を目の当たりにしての推理か。

 しかし、そう推理するためには、龍と言う存在を認識していないと出来ない。

 すなわち、テメレイアは元々龍の存在を知っていたことになる。


「龍の力は厄介だ。君のことだ。龍の真の力を引き出す方法も知っているんだろう?」


 つまり少女の姿ではなく、本来の姿の話。


「フレスちゃんがいたら僕に勝ち目はない。だからこそプロ鑑定士試験の日を狙った」

「……そこまで計算済みか。つくづく敵に回すと厄介な奴だ」

「嬉しいね。最高の誉め言葉だよ、それ」


 テメレイアは空いた方の手をポケットに突っ込むと、そこからいくつかガラスの玉を取り出した。

 そのガラス玉は、どれも艶めかしく輝いている。 


「これ、知ってるよね?」

「魔力を含ませたガラス玉だな。ガングートポートの軍艦を動かす燃料になるものだ」

「そうそう。これをいくらか拝借してね。こういう使い方が出来るんだ」


 手に持ったガラス玉を全て、甲板から0番ドッグの天井めがけてへ放り投げた。



『――――――――』



 そしてすぐにテメレイアは歌いだす。

 歌が始まると同時に、投げられたガラス玉は強烈に輝きを放ち――そして。



 ――ズドガァァァアアアアンン……!!



 0番ドッグ全体を揺るがすほどの大爆発を引き起こした。

 爆発の衝撃で天井の一部が崩れ落ちる。

 大きな破片は全て船外に落ちたので、『オライオン』自体に被害が出ることはなかったが、ぽっかりと空いた天井の穴を見て、その威力を思い知らされた。


「……えげつないぞ……!!」

「だよね。これが三種の神器の一つ『アテナ』の力なのさ」


 おそらくはガラス玉内に封じた魔力を暴走させて大爆発を引き起こしたのだろう。

 なるほど、『創世楽器アテナ』の能力は、やはり魔力制御であった。

 これを用いれば『もう一つの原始太陽(ソラリス・モノリス)』の不可解な破壊も可能に違いない。


「ウェイル。僕は君を止めたいと言った。君は今の力を見て、おとなしくしていてくれるのかな?」


 突き付けられた酷く純粋な脅迫。

 今のテメレイアから逃げ延びる方法など、ウェイルは持ち合わせていない。


「君には忠告したよね。ここへ来るなと」

「悪いね。その電信、さっき見たんだ」

「タイムラグがあるのが電信の悪いところだね。一度プロ鑑定士協会に送っているのだから、そうなるのも無理はないかな」


 そう言って、またもポケットからガラス玉を取り出した。


「計画の進行まで、ここで待っていてくれないか? 勿論武器や神器を出すのは御法度。久し振りの再会なんだ。会話でも楽しまないかい?」

「……そうだな。どうせ何もできないなら、そう洒落込んでやるよ」

「良い返事。だからウェイルはいいね」


 テメレイアの目的は時間を稼ぐことだろう。

 しかし、これはウェイルにとってもありがたいことだ。

 確かにウェイルには、圧倒的な力を持つテメレイアを倒すことは出来ない。

 だが、今の爆発を治安局やデイルーラ社が聞きつけたなら。

 そしてあわよくばフレスが、駆けつけてくれたなら。


「俺は別に何もしない。座って話すとしようか」

「だね。僕もこんなガラス玉はしまっておくよ。本は出させてもらうけどね」


 お互いに座り、ある程度距離はとってはいるが、向かい合う。

 それから二人は、本当にいつものペースで会話に興じ始めた。


 思い出話や経験談。


 そして一部インペリアル手稿についても。

 二人がシルヴァンで出会ったのも、四年振りなのだ。

 まるで共有できなかった時間の分も埋め合わせるかのように。


 とても短い時間ではあったが、笑いの飛び交う楽しい時間を過ごしたのだった。


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