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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第一部 第一章 教会都市サスデルセル編 『龍の少女と悪魔の噂』
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キメラ型魔獣、ダイダロス


 ――魔獣『ダイダロス』。


 その姿は巨大で禍々しく曲がりくねった角を六本も生やした、ライオンとデーモンを合成したかのようなキメラ型の魔獣である。


「ダイダロスか。贋作の素材が腐銀だったから予想はしていたが、中々厄介だな」


 ウェイルは護身用のナイフを抜くと、それをダイダロスの方へ向けた。


「何してるの? ウェイル」

「こいつは氷の剣を生成する短剣型神器『氷龍王の牙(ベルグファング)』といってな。俺の愛用の神器だ」

「『氷龍王の牙(ベルグファング)』!?」


 ウェイルの神器を見た瞬間、フレスは顔を真っ青にして凍り付いていた。

 少し息も荒くなっているように見える。


「お、おい、どうかしたのか?」

「……う、うん……!! だ、大丈夫だよ……!! えっと、それ、本当に『氷龍王の牙』なの……!?」

「ああ、そうだ。なんだフレス、こいつを知っているのか」

「……知っているも何も……。それはボクが昔……! あれ……? ボク、少し記憶が……!」

「とりあえず話は後だ。さっさと片付けてシュクリアを助けにいくぞ」


 フレスが何か呟いていたが、今は目の前の敵に集中しなければ、簡単に勝てる相手ではない。


「凍り付かせてやる……!!」


 ウェイルはナイフへ込める力を強め、身体の魔力を集結させるように意識を強めた。

 集まった魔力に呼応するようにナイフは蒼い光と冷気を放つと、ピキピキと音を立ててウェイルの腕を凍らせていく。

 ウェイルの腕が完全に氷に覆われたと同時に、氷は割れると、後には平らなツララのような鋭い剣が現れた。

 まるで腕自体が氷の剣になったかのようである。


「師匠譲りの氷の剣技。見せてやるよ!!」

「グルオオオオオオオオオオオオオッ!!」


 ダラダラと涎を垂らして床を溶かしていたダイダロスは、ウェイルが氷の剣を生成したと同時に、一気に突進してくる。

 だがウェイルは避けようとはしなかった。


「――受け止めてやる!」


 氷山が崩れたかのような激しい衝突音。


 氷の剣とダイダロスの角がぶつかり合うと、衝撃波が部屋中を走る。

 突進するダイダロスを受け止めたウェイルにも、凄まじい衝撃が襲い掛かった。


「流石にダイダロスともなれば、凄まじい力だ……!! こいつが神器じゃなきゃ俺は死んでたな……ッ!! うおおおおおおおおおおおおおッ!!」



 ウェイルは気合を入れて、さらに剣に魔力を込める。

 さらに力を増した剣の力に耐えきれず、ダイダロスの体勢を崩すと、バランスを失い、後ろの方へと突っ込んでいく。

 しかしダイダロスが突っ込んだ先には、何故かフレスが立ち竦んでいた。


「ボク、『氷龍王の牙(ベルグファング)』は王様にあげたんだよ……! それを持ってるってことは……! おかしいと思ったんだよ……! だって名前が『フェルタリア』そのままなんだから……!!」

「フレス、何をボーっとしているんだ!! 避けろ!」

「……ウェイルは、本当に……、――――あっ!」


 フレスはなんとか咄嗟に避けたようだ。

 だが身体のバランスを失い、転んで尻餅をついている。


「何を考えているんだ、フレス! 危ないだろ!!」

「あ、ごめん! ……そうだよね、今はこっちに集中だよね!」


 フレスはこんな時に何かを考えていたようだ。

 なにやら呟いてもいたようで、その内容が気にはなったが、今はダイダロスの方へ意識を集中すべきだ。

 ダイダロスは勢いのまま壁に突っ込んだが、このまま倒れてくれるとは考えにくい。

 ウェイルは油断せずに剣を構えなおした。


「グルルルルルル…………!!」


 やはりというべきか、ダイダロスは立ち上がる。

 その目は爛々と赤く輝き、口元をくちゃくちゃと動かしていた。


「ウェイル! 胃液が飛んで来るよ!! 絶対に当たっちゃダメだ!」


 フレスがそう叫んだのと同時に、ダイダロスは勢いよく胃液を吐き出した。

 フレスのおかげで何とか避けることが出来たが、ダイダロスも攻撃の手を緩める気はないらしい。

 息つく暇もなく胃液を吐き続けてきた。

 ウェイル達が避けた胃液は、音を立てながら当たったものを溶かしている。

 ウェイルは前後左右へと、フットワークよく攻撃を躱していく。

 だが、ここで誤算が一つ。

 ウェイルが胃液を避けた時、次の移動先した場所が、すでに胃液でドロドロに溶けていたのだ。

 溶けた床に足を滑らせ、ふいにバランスを崩して身体が宙に浮いてしまった。

 そのタイミングを計ってか、ダイダロスが真っすぐ突進してくる。

 このままでは避けることは出来ず、直撃をもらってしまう。


「くっ……! まずい……!!」

「全く世話の焼ける師匠だよね! 弟子のボクに任せてよ!」


 フレスはウェイルの盾となる形で、ダイダロスとの間に入ってきた。


「ボクの師匠に傷つける奴は許さないよ!!」


 以前デーモンを倒したときのように、手が青白く光りだす。


「――えいっ!!」


 フレスは手から巨大な氷の刃を出現し、ダイダロスに撃ち放った。


 氷の刃はダイダロスに直撃、全身を貫いた。


「――グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!!!!!!」


 ダイダロスは今の一撃で、耳を焼き尽くすような忌まわしき咆哮を上げた。


「油断しちゃダメだよ、ウェイル!」

「お前が言うな。それで()ったのか!?」

「いや、まだ生きてるよ」


 フレスの言う通り、ダイダロスにはまだ息があった。


「ダイダロスは一撃で倒さない限り、どんなに傷ついても超スピードで回復しちゃうんだ。今の攻撃だって急いで次の攻撃をしないと完全に回復されちゃうよ」

「俺がトドメを刺す!」


 体制を整えたウェイルがダイダロスに詰め寄り、氷の剣で喉を掻っ切った。

 渾身の一撃であったが、ダイダロスはドス黒い体液を撒き散らしながらも、ジタバタと悶えるばかり。


「まだ死なないのか!? 異常なまでの生命力だ……!!」


 普通の魔獣ならすでに死んでいるほどの重傷だ。

 そんな傷を負っていて尚、ダイダロスは鞭のように尻尾をしならせ、ウェイルへ攻撃してきた。

 ウェイルは渾身の一撃で仕留められなかったことに驚き、一瞬反応が遅れる。


「ちっ……!」


 避ける時間は無く、氷の剣で受け止めた。


「ぐ……っ!」


 凄まじい衝撃がまたも体を走る。

 何とか耐えることは出来たが、次の衝撃で腕が痺れ始めた。

 ダイダロスの生命力がこれ程までにあるとは、少々敵を甘く見ていたと言わざるを得ない。

 ウェイルがもう一度切り付けようとダイダロスに近づいた時――


「――ウェイル、下がって!!」


 フレスの警告が耳を入る。

 同時にダイダロスの尻尾がウェイルへと振り下ろされた。


 氷の剣で受け止めはしたが、今度は腕の痺れの影響で吹き飛ばされてしまった。


「大丈夫!? ウェイル!」

「……ああ、大したことはない」

「良かった。もう、次はボクがやるからね」


 フレスが安堵した、次の瞬間である。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!!!!」


 部屋全体を揺るがすほどの、ダイダロスの超咆哮。


「――くそっ、鼓膜が破裂しそうだ……!!」


 必死で耳を塞ぐも、その咆哮は身体が硬直するほどの威力だった。


「ウェイル! 床が光ってる!!」

「まさか――」


 咆哮が終わり地獄は去ったと思いきや、どうやらこれが地獄の始まりのようだった。

 地面から白い光が立ち上がっていく。

 それも部屋中の至る所から。


「――召喚術まで使うのか!?」


 ――白い光。


 赤い光を放つ転移術に対して、その白い光は召喚術を使用する際に発生する魔力光だ。

 白い光が消えた場所には、体躯の小さいデーモンが十体程召喚されていた。


「下級デーモンを召喚しただと!? そうか、外で出現したデーモンを召喚したのはこいつということか……!!」

「あのダイダロス、腕に何か神器が付いてる! あれで召喚したんだよ!」


 ダイダロスのライオンの足部分に、きらりと光るものがある。

 白い残光が見えるあたり、あれが神器で間違いなさそうだ。


「ダイダロス自体が召喚士ってことか……! もはや反則だぞ……!!」


 贋作の材料調達+デーモンの召喚を同時に行うという、一石二鳥の方法だ。

 召喚された下級デーモンは容赦なく、途切れることなく二人に襲い掛かってくる。

 今は何とか凌げているが、何しろ数が多すぎる。

 いつか限界が来るだろう。


「くそ、そっちは後何体いる!?」

「後2体だよ! それにしても、キリが無いなぁ!!」


 フレスは軽々といなしてはいたが、その数の多さにうんざりといった表情だ。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!!!!」


 またもダイダロスが吼える。

 殺人的な大咆哮に、二人は耳を塞ぐだけで精一杯だ。

 咆哮している間にも、召喚されたデーモンは容赦なく襲ってくる。

 この間はとにかく逃げるしかない。

 吼えた後には、やはりというべきか、デーモンが召喚されていた。

 いくら倒しても、これでは意味がない。


「フレス、あの腕のところにある神器、破壊できるか!?」

「それは出来ると思うけど……、ウェイル、ちょっとこっちに来て!!」


 フレスがウェイルを呼び付けた。

 何事かと思いつつも、襲ってくるデーモンを避けながらフレスの元へ駆けつける。


「どうした、フレス」

「流石にキリが無いよ。あの神器だって、ダイダロスに逃げに回られたら簡単には壊せない。その間にウェイルがやられちゃったら元も子もない。だからもう最後の手段を使おうと思って」

「最後の手段だと?」

「うん、昨日ウェイルに見せたよね。ボクが龍であるっていう証拠」

「ああ、それがどうかしたか?」

「実はあれ、途中なんだ。何しろ本当のボクを引き出すためにはある条件があって」

「何だ? その条件ってのは――」


 ――こんな状況だ。奴らを倒すためならどんな条件でも呑んでやる……!!


「あのね……ボクがもう一つの姿になるには、ボク自身がかなりの興奮状態にならないといけないんだ」

「興奮状態?」

「うん。感情の高ぶり次第で、ボクは龍になれるんだ。えっと、だ、だからね……」


 そこまで説明するとフレスは急に黙ってしまった。

 この間にもデーモンは襲ってきている。

 今はなんとか凌いではいるものの、フレスの言葉を待つ時間は、もう余りない。


「おい、フレス! 何が言いたいんだ!?」


 ウェイルが回答を急かすと、フレスは小さな声で呟いた。


「――あのね、ボクとキス、して……?」


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