神器『魔王の足枷―サタン・チェーン―』
「イルガリ様。うまくいきましたね」
「ああ。龍姫を拘束している神器『魔王の足枷』を使わずに済んでよかった。そろそろ燃料が切れるとこだったからな。奴に本気で暴れられたら抑えきれなかったかも知れん」
「新しい燃料を用意してきました。ここで変えておきましょう」
「それが良さそうだな」
アルカディアル教会の秘密地下室。
イルガリが見下す先には、一人の女性信者がいた。
彼女は一糸纏わぬ裸で、意識も朦朧として横たわっている。
その白い肌には、まるで悪魔が両手で彼女を掴んでいるかのような、黒い痣が全身に出来ていた。
「あ……、あ……、りゅ、りゅうひめ……さ……ま……」
かろうじて漏れ出す、龍姫を呼ぶ言葉。
衰弱しきり、今にも命を失いそうな彼女を、イルガリは興味もなさげに見下した。
「もう使えなさそうだな」
「極限まで魔力を吸い上げましたからね。新たな燃料を用意しましょう」
イルガリの部下が、彼女に付けられた首輪の形をした神器を触る。
その瞬間、首輪は闇を排出した後、小さな銀色の指輪へと変わる。
後に残った彼女は、すでにこと切れていた。
「連れてこい」
「は、離してください! 一体何をするんですか!?」
裸にされて拘束された新たな女性がイルガリの前に現れる。
「し、神父様、これは一体!?」
「安心してください。貴方は龍姫様と共にあります。怖がることはありません。この指輪をつけるのです」
「これを……?」
「ええ。これをつけるとですね。貴方は命を龍姫様に捧げることになります。これは大変に名誉なことです」
それを聞いて、女性の顔は真っ青になる。
「ちょっと、どういうことですか!? 私、命を失うに値する罪を犯しましたか!?」
「いえいえ、そうではありません。ですが龍姫様は貴方をお望みです。これ以上の理由は必要ですか?」
「当然です! どうしてこんな格好にされて、その上命まで――」
そこまで叫ぶと、女性は唐突に俯き、静かとなる。
顔を上げた時、彼女の目から光が消えていた。
「いいですね? 龍姫様に命を捧げるのです」
「……わかり……ました……」
うなだれるようにそう呟いた彼女は、躊躇うことなく指輪をつける。
神器は発動した。
激しい闇が彼女を包み、命を奪わんと拘束する。
「この『魔王の足枷』は龍を封じることすら出来る強力な神器。しかし強力が故に燃費が悪くてね。能力の維持には人間の持つ魔力を神器に注いでやらんとならん。だがこれで当分は持つだろう。これからしばらくアルクエティアマインへの進攻に忙しいからな。次の生贄も急いで用意しておけ」
「了解しました。しかしイルガリ様。その神器は本当に強力ですね……」
「だろう? この精神介入系神器『催眠汚染針』は秘蔵の神器でね。人間であれば簡単に洗脳出来る。実に素晴らしいものだ」
「どうして龍姫に使わないのですか?」
「言ったろう? 人間であれば、と。あれは人間じゃない。化け物だ」
イルガリは怪しい光を放つ『催眠汚染針』を懐にしまうと、その場を後にした。
事件が起こったのは、この二日後。
教会都市サスデルセルは大混乱に陥ることになる。




