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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第三部 第十章 貿易都市ラングルポート編 『暴走!! 超弩級戦艦!!』
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テメレイアの覚悟


「気が進まないね」


 つい独り言がぽつりと漏れる。

 もう深夜だというのに、活気盛んな港の都市、ラングルポート。

 人々の宴会の音、漁へと向かう音、恋人との愛を確かめ合う音。

 この都市は、一日中色んな音が飛び交っている。

 テメレイアは一度目を閉じて、その音を体に染み込ませるように深呼吸した。


「僕には僕の使命がある。躊躇している場合じゃないか」


 左手に持った本を胸に抱えると、テメレイアは窓を閉めてベッドに横たわった。


「これも全部ミルの為だ。でなきゃウェイルと互い違いになるなんてお断りだよ」


 目を閉じると浮かぶウェイルの顔。

 正直シルヴァンで彼と別れることになった時は、胸が張り裂けそうな思いだった。

 彼のあの複雑そうな顔を思い浮かべるたびに、目に涙が浮かぶし、後悔の念が心を責め立てる。

 ミルの為にと、そう自分に言い聞かせなければ、とてもこの苦しい任務に耐えれそうにない。

 全てを投げ出して、己の持てる全ての力を用いて、ウェイルを拘束して自分だけのものにしたくなる。


「苦しいよ、ウェイル……、助けてよ……!!」


 久々に漏らした弱音に、答えてくれる者などいない。

 手に持った本を抱きしめて、刻々と運命の時を待った。

 私の出番はもう少し後。

 先に行動を始めた彼らからの報告を待つだけだ。


 宿の一階から騒がしい音が二階へと上がってくる。

 その音でテメレイアは全てを悟った。

 決行の時は近いと。

 目の涙を拭い、騒々しい訪問者を迎える。

 部屋を訪れたのは部下のテルワナだった。


「レイア様。サスデルセルでの準備が終わりました。後は時を待つだけです」

「そうかい。了解したよ」

「……しかしレイア様。本当によろしいのですか?」

「……仕方ない。これも僕の任務の内だ。全てはミルの為……というのは余りにも酷い論理だね。責任をミルに擦り付けて放棄している気がするよ」

「レイア様。私は正直、これより他に良い手段があったと思います。ましてウェイル様にまであのようなことをすることは……」


 テルワナとて、バカじゃない。

 テメレイアがどれほど悩んでこの任務を遂行しているか十分承知だ。

 それでも、もう少し楽な道はあったのではないか。

 偏に主であるテメレイアを心配しての、余計なお世話だと分かりつつのセリフだった。

 テメレイアとしてもテルワナの気持ちはありがたい。

 だからこそ、こう切り返した。


「僕はね。責任ってのは重いほどいいと思っているのさ。責任を取るってことは痛い目をみることだ。例えば人の物を壊したら、それ以上の価値のある物を買って返さなきゃならない。それが責任を取るということさ。だから今のこの状況は、ある意味僕にとっては責任を取っている時間なんじゃないかなと思っている」

「レイア様……」


 テメレイアの覚悟。

 主がここまで腹を括っているのだ。

 テルワナはもう何も言わなかった。

 ただ、テメレイアに最後までついていくだけ。


「レイア様。本番はこれからです。大事なお身体です。もうお休みください」

「ありがとう。休ませてもらうよ」

「アルカディアル教会ではこう言うのでしたね。――全ては龍姫様のために」

「……ああ。全ては龍姫様のために」


 テルワナが深々と頭を下げて去ると、閉じた扉にもたれ掛かって、手元の本を見た。


「全ては龍姫様のために、だって。ミルはそんな酷いこと、出来る子じゃないのにね」


 封印から解放された場所が悪かった。 

 ただそれだけのことで、ミルは現代でも酷い扱いを受けている。

 別にミルは苦しんではいない。

 寧ろ何でも与えられる生活を送っている。

 しかし、それはただ飼われているだけだ。

 結局のところ、ミルは籠の中の鳥だ。


「ミルを自由にしてあげたい。ただそれだけなんだけどな……」


 ウェイルのことにミルのこと。

 どちらも譲れぬ厄介な葛藤。

 そんな葛藤の中、ウェイルとミルが脳裏を過った後、唐突に浮かぶ一人の少女。


「もしかして、フレスちゃんって……!!」



 その考えに至った瞬間、答えにたどり着けたような気がした。

 脳裏には、フレスと出会ってからの行動が綿密に映し出される。


「そうか。だとすれば全て説明がつく」


 テメレイアは一つ、フレスに嘘をついていた。

 私は龍を見たことがないと。

 ミルの存在を隠すための仕方のない嘘であり、その嘘を付くという申し訳なさから、つい重要なことを見落としてしまっていたようだ。

 彼女が龍であるという可能性について、たった今まで考えもしなかったのだから。

 フレスが上空で暴風に吹き飛ばされても無事でいて、そして複数人に囲まれても余裕を見せるウェイルの表情。


「なんだ、ウェイルも僕と同じ嘘をついていたのか」


 こんなところでも気が合うとは、本当に僕等は相性が良い。

 妙な謎が突然解けて、変にすっきりしたテメレイアは、これからの行動の算段を整えつつ、全てが万事うまくいくように祈って、部屋を出た。

 寝てしまう前に電信を打ってしまいたかったのだ。


 宛先は――プロ鑑定士協会。


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