インペリアル手稿の内容
夜も更け、宴会改め報告会を切り上げたウェイルは、ユースベクスが用意してくれた宿の一室にて、深く溜息をついていた。
ベッドに横になって、最近の出来事を思い返してみる。
(神器に教会か)
そして思うのは、やはりテメレイアのこと。
(あいつはどうして本を盗むなんて荒業をしたんだ……?)
しかも盗み出したのはただの本じゃない。
アレクアテナ大陸最高峰の機密保管場所であるシルヴァニア・ライブラリーの、第一種閲覧規制書物なのだ。
本の情報が欲しいのであれば、全てを暗記すればよい。
テメレイアならそれくらい出来るはず。
内容を他人に伝えたいなら、内容をそっくりそのまま紙に書き写してやればよい。
それをしなかったのには、当然理由があるはず。
(本自体が必要だと、そう言っていたな)
例えば本自体が神器であるとか、実は何かの鍵になっているとか。
内容よりも本そのものにしか出来ないことがあると考えるのが妥当なところ。
(インペリアル手稿、か)
インペリアル手稿の解読法をテメレイアの手紙より知ったウェイルは、すぐさま解読に取り掛かった。
そして見えてきた内容とは。
(まさか『三種の神器』の存在場所が書かれていたとはな……)
インペリアル手稿に書かれていた真実。
それは伝説の神器として名高い『三種の神器』のありかを示した情報であった。
著者のインペリアルが、一体どのような手段を用いて三種の神器の存在を知り、暗号として記したかは謎であるが、これによって三種の神器の存在が現実味を帯びてきた。
元々伝説上の存在だと考えられていたし、ウェイルですら実在を疑っていた代物だ。
フレスというイレギュラーな存在と出会ったからこそ、最近では並大抵のことでは驚かなかったが、流石にこれには驚かざるを得ない。
(しかもレイアが関わっているんだからな……)
テメレイアは基本的に無駄な行動はしない。
全ての行動に意味があり、利がなければ動かない。
それが判っているからこそ、ウェイルは懸念したわけだ。
実はインペリアル手稿の解読とテメレイアのヒントにより、なんとなくだが陰謀の匂いを嗅ぎ取っていた。
(レイアのヒントは、間違いなく教会争いのことを言っているはずだ)
ひとまず情報と状況を整理してみよう。
まずテメレイアのヒントは金の値段についてであった。
そもそも金は、鉱山都市アルクエティアマインと、その隣接する都市である医療都市ソクソマハーツの動向によって値段が左右されることが多い。
何故なら、この二つの都市から採掘できる金の量は、他都市を圧倒しているからだ。
すなわち『金』という単語が出てくる時点で、この両都市が関係していることが判るし、『値段』という単語から、数字が上下するきっかけが起きると示唆しているわけだ。
(金の値段が変動するとすれば、教会争いしかない)
アルクエティアマイン以外から広大な鉱脈が発見されたとなれば話は変わってくるが、そんな報告は誰からも受けていないし、実際にそんな事実はない。
アルクエティアマインとソクソマハーツは、それぞれラルガ教会、アルカディアル教会の本部を構えており、両者の関係は非常に悪いため、小さな争いが絶えないと聞く。
もう教会争い以外に金の値段が変わる条件など存在しない。
(そしてインペリアル手稿のことだろ。全てが噛み合ってるじゃないか)
インペリアル手稿の書かれていた三種の神器。
そのどれもこれも人の手に余る代物で、具体的な使用法や、実際の効果などは書かれていなかったものの、名称と概要だけは書かれてあった。
一つは『異次元反響砲フェルタクス』
描かれた簡単なイラストから察するに、巨大な大砲のような神器だ。
大砲というからには用途は当然武器だろう。
一つは『心破剣ケルキューレ』
聖剣の伝説というのはどこの都市にもあるものだが、この名前に聞き覚えはなかった。
先程の大砲のように巨大なのか、それとも人が持てるのか。
それすらも判らぬ、謎多き剣である。
一つは『創世楽器アテナ』。
複数のパーツからなるその楽器系神器は、芸術の神『アテナ』の姿を模した巨大な彫像で、全ての神器の母なる存在で、その力を用いれば如何なる神器も操ることが出来るのだという。
テメレイアはウェイルに解読法を残した。
つまり三種の神器のうちのどれかが、テメレイアの陰謀に関係があるということだ。
(どれも暴走すれば甚大な被害が出そうな神器だな……)
神器の暴走が止まらぬ現状は、三種の神器の存在を考えれば非常事態なのかも知れない。
「『フェルタクス』、『ケルキューレ』、そして『アテナ』か」
三種の神器の能力は全てが未知数だが、神器暴走事件と関わっているのであれば、これしかない。
「……『アテナ』、か」
芸術の神『アテナ』の名を持つ神器。否応にも気にはなる。
「……ホント、あいつは今、何をしてるんだろうな……」
ふと親友の顔を思い浮かべる度に、心配せずにはいられないウェイルであった。




