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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第一部 第一章 教会都市サスデルセル編 『龍の少女と悪魔の噂』
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噂の真相

 降臨祭開始五分前のこと。

 建物全体が震えるほどの轟音が、大ホールの外から響いてきた。

 突然の衝撃に、一般信者達も何事かとざわつき始める。


「フレスの奴、見つけたか。しかし本当に派手な合図だ」


 響き渡る轟音に、ウェイルを監視していた男二人も途端に動き始めた。


「おい、今の音! どこからだ!?」

「例の部屋だとしたらまずいぞ!」

「――何がまずいんだ?」


 監視の一人が声のする方へと振り返った時には、既にウェイルの拳が顔面目前へと迫っていた。

 避けることすら出来ず、彼の顔には拳がめり込む。


「き、貴様!」

「黙ってろ。騒がれたら面倒だ」


 突然仲間が倒されたことに狼狽えるもう一人も、同様にぶん殴ってやる。

 一人目に重なるようにして、そのまま崩れ落ちた。


「さて、音がしたのはあっちの方だったな……」


 倒れた二人を後にして、ウェイルは大ホールから廊下に出た。

 音のした方へ進もうとした時、そちらから凄まじい形相を浮かべた信者らが現われ、ウェイルの行く手を阻む。


「通さんぞ、この先には……!!」


 彼らの手には、神に仕えるものには必要のないはずの、短剣を持っていた。


「おいおい、物騒だな。俺は来賓だぞ?」

「黙れ! お前らがバルハー様を嵌めようとしているのは知っている!」

「一体何のことだ?」

「しらばっくれるな、鑑定士! 我々の仲間がオークションハウスでお前達の話を聞いたのだ。ラルガポットが贋作だというデマを流そうとしてたんだろ!」

「デマも何も、今日はそれを確かめようと思っていたところなんだけどな。しかし監視がついていたのか。ルークの奴、無事だろうな」


 参ったなと頭を掻くウェイル。

 だが相手からすれば、その仕草は挑発に見えたらしい。

 怒りに染まった瞳の色をさらに濃くして、剣を振るい切り掛かってきた。


「ま、あいつなら無事か」


 ウェイルは迫り来る剣を全て紙一重で交わし、お返しにと鳩尾目掛けてカウンターを打ち込んだ。


「つ、強い……!! ……ふぐっ!?」


 鑑定士は強くなければならない。

 鑑定結果に不服を持った依頼人に襲われることだって少なくはないからだ。


「プロ鑑定士を舐めるなよ? 強くなきゃ生き残れない世界なんだ」

 

 ウェイルの言葉を聞いた者はいなかった。

 すでに全員気を失っていたのだから。


「無駄に時間を食っちまったな……」


 ウェイルは急いでフレスの元へ向かった。



 


 ――●○●○●○――





「――ここか……!」


 轟音の根源。

 その場所はすぐに見つかった。

 粉々に粉砕された扉の破片が、そこら中に散乱していたからだ。

 その部屋は吹き抜けの二階構造になっており、二階からは下の階を見下ろせるようになっていた。

 もっとも二階へ繋がる階段はこの部屋には設置されていないようだ。

 中は薄暗く、倉庫のような部屋である。


(……グルルルルルルル…………)


 部屋は広かったが、フレスの姿はすぐに見つけることが出来た。


「フレス、見つけたか?」

「あ、ウェイル。うん、見つけたよ! これだよね!」


 フレスが指差したその先。

 そこには――


「ああ、これだ。これで関連証拠も全て揃ったな」


 ――巨大な円陣と、それを囲むように配置された五本の杖があった。


「転移系神器と、その術式陣に間違いないようだ。ここからデーモンを外に転移させていたってことだ」


(……グルルルルルル…………)


「フレス、さっきから何か変な音が聞こえないか?」

「あ、ウェイルも? 実はボク、さっきからずっと気になってたんだ」

「だよなぁ、気配の大きさが尋常じゃないもんなぁ……」

「だよねぇ」

「この音の根源こそが噂の真相だろうな」


「――その通りですよ、ウェイル殿!」


 ウェイルは声のした方へと視線を向ける。

 声の主は吹き抜けから下を見下ろしていた。


「いやはや、まさかこんなところでお会いするとは思いませんでした。いかがなされたのかな? 降臨祭はもう始まっておりますぞ?」


 黒い笑みを浮かべたバルハーが、部下の信者を引き連れて姿を現した。


「そうだな。仕事が終わったら参加させてもらうよ」

「仕事ですか? 鑑定なら昨日全て終わらせたのでは?」

「今日は別件だよ。この都市の悪魔の噂についてだ。お前らだろ? デーモンを転移させていた犯人は」

「そんなことをして我々になんの得があるのです?」


 白々しく答えるバルハー。

 その間にもウェイルらの周りには続々と信者らが集まってきた。


「贋作のラルガポットが高く売れるじゃないか」

「誰から聞いたのです?」


 バルハーの目が光る。

 後で何かしらの報復をするつもりなのが、その目で判る。


「この都市のオークションハウスのマスター、ルークさんからだよ」


 フレスが正直に答える。

 元々隠すつもりなど毛頭なかった。

 これは被害者とはいえ利用されたルークの責任でもある。

 ここはダシに使わせて貰おう。

 それを聞いたバルハーは、醜い高笑いを上げた。


「はははははは、そうです。その通りですよ! 噂の悪魔というものはここから転移したデーモンのことですよ!! 人間というものは本当に愚かだ。少し噂が広まるだけですぐにラルガポットを高値で買ってくれる! それがいくら法外な値段になろうとも、噂がある限り売れ続けるのです! おかげでかなり儲けさせていただきましたよ! 売り上げでコレクションも増えましたしなぁ!」

「……正直な話、俺にとってお前の儲け話なんて、どうでもいいんだ。それよりもお前はどうやって『不完全』と接触した?」 


 ウェイルの瞳が鈍く光る。

 憎悪に震えそうになる拳を抑えて、バルハーを睨みつけた。


「おやおや、そこまでお知りになっているのですか? どうやら私はプロ鑑定士を甘く見ていたようだ。実は彼らに『偽ラルガポット』を作って頂いたのですよ! 流石『不完全』の贋作士ですね~、私だって見分けがつかないほど、精巧な出来栄えでしたよ。偽の公式鑑定書も彼らが作ったのですよ? 本当に素晴らしい仕事しますよねぇ」

「何がいい仕事だ。お前らのせいで、実際に人が死んでいるんだぞ!」

「別に構いませんよ。被害者にはラルガン神の御加護がなかったただそれだけのことです」


 バルハーの目と声には、狂気が孕んでいる。

 それはフレスが不気味だと思うほどに。

 その時、ウェイルの背後からガタッと音がした。


「どなたです?」


 扉が開き、入って来たのは――



「し、神父様……、今の話は本当なのですか……?」



 ――信じられないといった表情を浮かべるシュクリアが、震えながら立っていた。


「おや、シュクリアですか。良いタイミングで来てくれました。こちらから迎えに行こうと思っていたのですよ。ちなみに今の話は全部本当のことですよ? 貴方以外は皆知っていたことです」

「な、何故です……? どうして私には何も!?」

「貴方に知ってもらう訳にはいかなかったのですよ。貴方は正義感が強く慈悲深い。計画を知れば反抗したり逃げ出したりするでしょうから。それは非常に困るのです。何せ貴方は大切な代金なのですからね」

「だ、代金、ですか……?」

「そうですよ。貴方はこれから『不完全』に贋作製作の報酬として支払う代金なのです。そのためにわざわざ、夫に逃げられて傷心している貴方をラルガ教会に迎えたのですから」

「そんな、嘘です! 神父様!」

「嘘じゃありませんよ? 妊娠している女を神官にだなんて、本来有り得るはずないでしょう? いわば貴方は神官の『贋作』といったところですよ」

「……あ……ああああ……」


 シュクリアは目を見開き、口元を手で塞いでいた。

 ショックの余り、身体を抱いて、その場に立ち竦んでいる。


「諸君、彼女を連れてきてくれたまえ」


 ウェイルを囲んでいた信者らは、一斉にシュクリアを取り囲んだ。


「おい、彼女に何をする気だ?」

「だから言ったでしょう? 代金ですよ。『不完全』へのね。おっと、動かないで下さい。貴方達が動くならシュクリアの命は取らないまでにしても、どんなことをするか判りませんよ?」


 信徒の一人がシュクリアに剣を突きつけた。

 シュクリアもショックのあまり呆然と立ち竦むだけで逃げようとも抵抗しようともしない。

 これでは彼女を助けようにも、迂闊には動けない。


「さあ、急いで彼女を」


 シュクリアは信徒達に抱えられて出て行った。

 ウェイル達は、ただそれを見守ることしか出来ない。

 そんなウェイルをあざ笑うかのように、バルハーは言葉を続けた。


「貴方も素晴らしい才能です。まさか『不完全』の贋作を見破るとは! しかしそのことで命を失う訳ですので、才能が有りすぎるのも困りものですなぁ!!」

「ボク達、命を無くすの?」


 フレスが平然と、人事みたいに尋ねた。


「そうですよ、お嬢さん。貴方達は知ってはならぬ事を知ってしまったのですから。生かしておく訳にはいきません」


 信者を率い、圧倒的有利な状況に満足しているバルハーは、ご機嫌そうにウェイル達を見下していた。


(今なら何でも喋ってくれそうだ)


 ウェイルはこのチャンスを生かすことにした。


「デーモンはどうやって手に入れた?」

「勿論『不完全』の方から頂戴いたしました。ご存知の通り、私達は召喚術が使えませんもので。代金さえ渡せば何だってやってくれる。それを利用して私も更に稼ぐことが出来るのですから、『不完全』という連中は、なんと素晴らしい組織なのでしょうか」

「素晴らしい、だと……!!」

「ええ、素晴らしいですねぇ!!」


 ウェイルはいい加減苛立ちを隠すことは出来なかった。

 シュクリアのこともあるが、ウェイルにとって『不完全』という集団は、この世界で最も憎むべき宿敵だ。

 その宿敵を肯定し、素晴らしいと連呼する言葉は聞くに堪えない。


「もうよろしいでしょうか? 私もいい加減お喋りに疲れてしまいました。これから降臨祭のメインイベントもございますし、オークションハウス、とりわけルーク氏には制裁を加えないとなりません。何より下にいる私の可愛い魔獣が、貴方達を食べたくて仕方がないようで。では御機嫌よう」


 バルハーが笑いながら姿を消したとき、部屋の奥の扉が開く。

 そこからは先程から感じていた気配が現れたのだ。


「ウェイル、あの魔獣って……!」

「ああ。腐銀の材料を考えたら、奴しかいない」


 その魔獣の胃酸は石をも溶かし、腐銀を抽出するのに用いられる、非常に凶暴なキメラ型の魔獣。


「魔獣『ダイダロス』だ……!!」



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