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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第三部 第十章 貿易都市ラングルポート編 『暴走!! 超弩級戦艦!!』
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龍姫の奇跡


「相変わらず凄い音だね」

 

 ここは暗い秘密の地下道の奥。

 手に入れたばかりの禁書を手に、テメレイアはとある作業現場へと足を運んでいた。

 そこでは多くの人々が発掘作業に従事している。

 神器を用いて轟音を上げながら、危険も承知で次々と岩を切り崩し、散乱した岩の破片を運搬している。

 そこで作業の陣頭指揮にあたっていた男に声を掛けた。


「発掘作業は順調かい?」

「おお、これはテメレイア殿! それは勿論順調でございます。いや、しかしまさか本当にハンダウクルクスの地下にこれ(・・)が隠されていただなんて、正直驚きましたぞ。テメレイア殿の情報収集能力には頭が上がりませんな」

「ハンダウクルクスの地下に広がる迷路のような通路は、実はこの神器を封印するために掘られたものなのさ。正しい道筋を辿らなければ、ここまで来ることは絶対に出来ないようになっている」


 テメレイアの見上げた先にあったのは、巨大な彫像であった。

 その姿はまるで女神。

 長年地下に埋もれていたにも関わらず、傷ついたり朽ちた様子は一切なく、禍々しくも神々しい輝きを放っていた。


「これがあの三種の神器の一つ『創世楽器アテナ』の一部なんだね?」

「その通りでございます。いや~、まさか今ここに伝説の神器の一部が蘇ろうとは! これはさぞかしラルガの連中も驚くことでしょうな。龍姫様も『アテナ』の発見に歓喜しておられたことですし」

「……龍姫様、ね」


 その言葉に、思わず唇を噛みしめるテメレイア。

 無論、その様子は表には出せない。

 今はまだ、彼女を助ける時ではないから。


「リューズレイド、引き続き発掘作業を任せるよ。僕は他のパーツを探すから」

「どこにあるかご存じで?」

「無論さ。しっかりと暗記してきたよ」

 

 人差し指でポンポンと頭を差す。

 内容は全て完璧に暗記してある。


「もう場所は突き止めて発掘作業を命じてある。全て揃うのは時間の問題さ」

「流石です。ではパーツ集めの方、よろしくお願いします」


 深々と頭を垂れるリューズレイドを背に、テメレイアは軽く手を挙げて答え、そのまま姿を消した。





――●○●○●○――





「ごほ、ごほ……」


 ここは医療都市ソクソマハーツ。

 医療の最先端を行くこの都市では今、謎の病が蔓延していた。

 都市各地から咳をする音が響き、病院や診療所は、どこもかしこも人で溢れる事態に。

 原因は不明であるが、人々は口を揃えてこう噂した。


 ――『新しい金脈から流れ出た鉱毒が原因だ』と。


 溢れかえる患者のため、病院や診療所も許容量の限界を超え、人々は満足に治療を受けられない状態にまでなっていた。

 性質(タチ)が悪いのはその病、死に至るほどの病ではないという点。

 苦しいことは苦しいのだが、その症状はというと咳が多く出て、症状の重い者は発熱する程度で、未だ死人は誰一人として出ていない。

 そのせいとでもいうのか。

 なまじ中途半端に身体が悪いだけに、溜まっていくのは極度のストレス。

 そのストレスによる苛立ちの矛先は噂の元凶、つまり金脈の鉱毒を産出した、ソクソマハーツに隣接する都市である『鉱山都市アルクエティアマイン』へと向かうのに、あまり時間は掛からなかった。

 元々この両都市は、ラルガ教会とアルカディアル教会という、思想が相反する教会の本部がある都市であるため、その仲は芳しくなかった。

 片や金の算出で都市が潤い、片や病に侵され苦しむこの現状に、ソクソマハーツの住民達の怒りは限界まで達しつつあった。

 そんな時、ソクソマハーツの住民に光をもたらしたのは、やはりというべきかアルカディアル教会であった。

 アルカディアル教会は、とある幼女を神として祭り上げ、人々の前に立たせたのである。

 そしてその少女は奇跡を起こした。

 人にはない、大きな翼を背中に生やすと、緑色の光で人々を包んだ。

 光を見た人は口々に言った。


 ――『心と身体が洗われるようだ』と。


 それはただの感想なんかではなかった。

 彼女が人々の前で翼を披露した次の日から、病院や診療所から患者の姿は一切いなくなった。

 病が完治したのである。

 アルカディアル教は、これを『龍姫の奇跡』と称し、彼女を神の座へと祭り立てた。

 それからである。

 アルカディアル教の信者は猛烈な勢いで数を増やし、誰も彼も熱心に信仰を始めた。

 全ては龍姫の奇跡を目の当たりにして。

 病から救ってくれた龍姫に感謝して。

 人々は口々に祈った。

 そして求めた。

 彼女がもう一度姿を見せてくれることを。


「龍姫様~! 是非お姿を~!!」

「我々は龍姫様にお礼がしたいのです~!!」


 人々は口々に声を上げた。

 龍姫の為なら――なんだってすると。





 ――●○●○●○――





 芸術大陸――『アレクアテナ』。


 そこに住まう人々は、芸術や美術を嗜好品として楽しみ、豊かな文化を築いてきた。


 そしてそれら芸術品を鑑定する専門家をプロ鑑定士という。


 彼らの付ける鑑定結果は市場を形成、流通させるのに非常に重要な役割を果たしている。


 アレクアテナにおいてプロ鑑定士とは必要不可欠な存在なのである。


 そのプロ鑑定士の一人、ウェイル・フェルタリアは、相棒である龍の少女フレスと共に、大陸中を旅していた。


 図書館都市シルヴァンにて再開した、ウェイルの親友テメレイア。


 テメレイアからの手紙には、これから始まる事件の予兆を知らせる内容が書かれていた。


 立て続けに発生する教会闘争に、神器暴走事件。


 それら連続する大事件の影は、確実にウェイル達に迫っていたのだった。



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