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不可解な破壊工作

「真昼間だというのに、こうも暗いと不気味だな」

「だよね……。ウェイル、あまり離れないでよ？」

「離れないよ。離れたらお前は迷子になるだろ？」

「むぅ！　そういうことじゃなくて！」

　闇が支配する昼間の都市を、二人は『もう一つの原始太陽(ソラリス・モノリス)』を目指して進む。

　設置されている場所は昨日確認している。

　小さな灯りに頼りに、二人は無事神器のある場所へやってきていた。

「あれだ」

「全く動いていないね」

　光を発していない今は、ただの鉄塔の様に見える『もう一つの原始太陽(ソラリス・モノリス)』。

　フレスの話によると、仮に神器が発動中であれば、内部の魔力回路から微かな音や熱が発せられているそうだ。

「うん、魔力を全く感じない。完全に機能を停止しているよ」

「フレス、早速鑑定してみてくれ。出来るか？」

「うん。神器のことは任せてよ」

　フレスは『ソラリス・モノリス』の表面に手を置く。

　ひやりとした冷たさを感じながら、ゆっくりと目を閉じた。

「何をしているんだ？」

「ごめん、ウェイル。少し黙ってて」

「…………」

　フレスの真剣な表情に、思わず気圧される。

　しばらくフレスが手を置いていると、その場所が次第に青白く柔らかい光に包まれていく。

　目を瞑ったまま、フレスは小さく呟く。

（……お願い、中を見せて……!!）

　その瞬間だった。

　柔らかく注がれていた光に鋭さが現れる。

「フレスの腕が……!?」

　神器がそれを求めているかのように、フレスの手は冷たい鉄塔の中へと吸い込まれていった。

　あまりにも異様な光景に、目を疑うしかなかった。　

「だ、大丈夫、なのか……？　お前も神器も……？」

「大丈夫だよ。今、神器内の魔力の流れを探っているんだよ。魔力回路のどこかに短絡があるかも知れないから」

　フレスはパッと見ただけで、神器の故障は外部ではなく内部のものだと判断した。

　なまじ人間には不可能な鑑定法に、ウェイルも思わず舌を巻く。

「……ん？」

　フレスの指先が、微かに感じた亀裂。

「原因、判ったよ。神器内部のガラスが割れているんだ」

「ガラスか……」

　ガラスは魔力をよく通すため、もっぱら魔力回路の素材として用いられている。

　ガラスが割れたら、その部分に魔力が流れないため、神器が動かないことは多々ある。

「直せそうか？」

「ガラスがあればね。多分割れた部分に小さなガラスを当ててあげるだけで直せるよ。ボクの魔力でガラスを回路になじませるから。でも、なんだか変なんだよね」

「……変？」

「うん。壊れ方が、なんだか妙なんだよね」

「どういうことだよ」

「壊れ方がね。何だか親切すぎるんだよ」

「親切？　どういう壊れ方をしてるんだ？」

「だからさ、簡単に直せるように壊れているんだよ。まるでわざとこうなるように仕組まれているようにさ」

「仕組めるものなのか？　お前は龍だから例外的な方法で『ソラリス・モノリス』内部に干渉しているが、人間がそのようなことを出来るとは思わない」

「それはボクも思ったけどさ。でも実際に変な壊れ方をしてるんだ。なんだか小さい魔力暴走が起きてるみたい」

「――魔力暴走、か……」

　『もう一つの原始太陽(ソラリス・モノリス)』内に流れる魔力を、誰かが暴走させる。

　どうやって行うかは判らない所だが、それこそ神器を使えば出来ないことはないかも知れない。

「ウェイル、ガラス持ってない？」

「あるぞ。これを使え」

　ウェイルは持っていたガラスの小瓶を一つ取り出して、フレスに渡した。

　ガラスの小瓶は小さな鑑定品を入れるのにうってつけの小道具で、普段からよく持ち歩いている。

「早速使ってみるね」

　ガラスの小瓶を持って、もう一度神器内に手を入れる。

「うん、やっぱり変だ。ガラスを当てただけで魔力が流れ始めた。修復にはもう少し時間が掛かるけど」

　ガラスの魔力をよく通す性質は、金属が電気をよく通す理由に近いという。

　（厳密に言えば大きな違いはあるが、概念はそっくりだそうだ）

　多少神器に詳しい者なら、神器内の魔力回路にはガラスを用いていることが多いということを知っているだろう。

　ガラスは脆い。壊すのは容易だ。

「簡潔に結論を述べてくれ」

「うん。つまりこの神器は、何者かが明確な意図を持って、すぐ直せるように簡単に壊したということだよ」

　簡単に直せるように壊す。

　普通、何らかの意図を持って破壊行為に及ぶのであれば、早々修復できない状態になるまで破壊するだろう。

　直すこと前提で破壊行為を行うことはない。

　そうこうしている間にも、フレスは作業工程を半分まで終わらせていた。

「どれくらい掛かりそうか？」

「もう少しだけ待って。ちゃんと魔力抵抗値が以前使っていたガラスと一緒か確かめないと」

　フレスが修復作業をしている間、ウェイルはこの件について少し推理してみることに。

　いくつかフレスに質問してみる。

「簡単に直せるって言ったな。これは間違いなく意図的か？」

「おそらくね。だってガラス一枚変えるだけで直せるレベルなんだよ？」

「自然に故障したという疑いはないか？」

「それもないね。壊れた部分を見ると、故障部分にだけ魔力を過剰に注入されたとしか思えない。容量オーバーで焼き切れているって感じだよ」

「そこだけってにところに意図的な匂いがプンプンするわけだ。では何故すぐに直せるように壊したのか。もし壊すことが目的なら徹底的にやるはずだ」

「う～ん、どうなんだろうね。本格的に壊れたら困るってことかな？」

「俺もその考えに同意見だな。おそらく壊した連中は、こいつが壊れたら困るんだ。しかし都市の機能が一時的に麻痺する程度には壊す必要があった。その理由は全く判らないがな。どうやって壊したか、その方法も気になるところだな」

「そうだね。ボクだからすぐに故障原因や故障個所が判ったけど、人間なら専用の神器が必要になるだろうし、時間も掛かる」

「時間が掛かる、か。何かの時間稼ぎという考えも出来なくはないな」

　そんな推理の真っ最中の出来事だった。

　――ズウウゥゥゥン……。

　突如、どこかで爆発が起きた。

「何事だ!?」

「ウェイル、図書館だ!!　図書館から火が上がっている!!」

　深淵の闇の中、ただ一か所だけ輝くそれは、爆発によって火災に遭ったシルヴァニア・ライブラリーであった。