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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第三部 第九章 図書館都市シルヴァン編 『親友テメレイアとシルヴァニア・ライブラリー』
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カラーコインの手がかり

 効率の良い作業工程のおかげで、翌日は朝から鑑定を開始することが出来た。

 今日も健気にせっせと本を運ぶフレスであったが、本を読みながら鑑定を進めるウェイルを見て、ふと疑問に思ったことがある。


「ねぇ、ウェイル。そういえばどうしてシルヴァンに来たの? 硬貨に関する書物ならプロ鑑定士協会にもあるでしょ?」


 プロ鑑定士協会にも、本は膨大に所蔵されている。

 それなのに何故わざわざ『シルヴァニア・ライブラリー』へ足を運ぶ必要があったのか。

 フレスはそれが疑問だったのだ。


「所蔵数に差がありすぎるんだよ。プロ鑑定士協会にある書物はここの千分の一にも満たないからな」

「千分の一!? てことはプロ鑑定士協会にある本の千倍はあるっての!?」


 フレスの脳裏に浮かんだのは、プロ鑑定士協会にある巨大な本棚、通称『アカシック・レコード』。

 そのアカシック・レコードと同等な大きさの本棚が、ここには百列以上もあるというのだから、その所蔵量は雲泥の差と言っていい。


「千分の一に満たないと言ったんだ。つまりここにはそれ以上にあるということだ。本の数は日々増加しているから正しい数は俺にも判らん。それだけに情報量も多いというわけだ。プロ鑑定士協会とは比べられないほどにな」


 それにプロ鑑定士協会にある硬貨に関する書物はほとんど読み尽くしたと、ウェイルは続けた。


「協会にはめぼしい本はなかったし、他にも是非とも欲しい書物があったんだ。硬貨関係以外の本だがな」


 ウェイルはそう言って、いくつかの本を取り出して机の上に広げた。


「この本は、お前が昨日本を運んでくれている最中に、俺が探してきた本なんだ。これは硬貨に関する本ではなく、文字に関する本だ」

「文字……?」

「このカラーコインに描かれている模様は、実は文字ではないかと疑っているんだ」


 七枚のカラーコインには、それぞれ違うイラストと何らかの模様が描かれている。

 ウェイルはこの模様について、文字ではないかと考えた。

 仮に文字だとすれば、ここに所蔵されている文字に関する書物から、何かヒントを得られるかも知れないと、そう思ったのである。


「プロ鑑定士協会にも文字について書かれている本はある。しかしその数は極端に少ない。古代文明や旧時代に関する書物は、基本的に閲覧規制書物に指定されているからな」


 旧時代の技術、すなわち『神器』に関する技術と言えば、現代では解明できない部分が非常に多い。

 神器は非常に便利な力を持つため、人が生活していく上で必要不可欠な代物であるが、扱い方を間違えれば危険な凶器となる。

 武器としての乱用を防ぐため、神器に関する書物の多くは閲覧規制が掛けられていることが多い。


「イラストについても謎だらけだ。イラストについては硬貨に関する書物、模様については文字に関する書物を参照していく。フレス、お前も手伝ってくれ」

「うん」


 それからしばらく、二人は時間も忘れて鑑定作業に没頭していった。





 ――●○●○●○――





「ウェイル、これ!」


 鑑定開始から早三時間。

 流石に読み疲れたので一息入れようとウェイルが深呼吸をしたその時、フレスはガタンと椅子を倒す勢いで立ち上がった。


「どうした?」

「ちょっと見てよ! この文字、なんだかこの模様に似ていない!?」

「見せてみろ」


 フレスが指差したページを覗き込む。


「ここだよ、ここ!」

「……うむ。確かに似ているな」

「でしょ!? この文字に間違いないんじゃない!?」

「焦るな。全てのコインと照らし合わせてみる」


 七枚全てのコインと、本の文字を重ねてみる。

 結果、なんとそこに載ってあった文字の多くと一致していた。 


「これは……間違いないかもしれないな」

「でしょでしょ!? ボクが見つけたんだからね!」


 ふふんと自慢げなフレスは置いておいて、ウェイルは急いでページをめくってみる。


「この文字は一体なんなんだ……?」


 ページを後ろではなく前にめくる。

 何についての記述か調べるためだ。


「これか」


 ついに詳細が判る時が来た。

 そしてその詳細とは、驚くべき内容であった。


「……旧時代の――フェルタリア文字だと……!?」


 これにはウェイルも開いた口が塞がらない。

 まさかここでフェルタリアが出てくるとは思いもしていなかったからだ。

 ウェイルの故郷、フェルタリア。

 今はもう存在しない、滅亡都市。


「ウェイル、大丈夫……?」


 心配そうに顔を覗き込んでくるフレス。

 どうやら顔色が悪くなっていたらしい。

 フレスに声を掛けられ、胸に気持ち悪さを感じていることに気が付く。


「大丈夫だ」


 なんとか落ち着くものの、顔色は元に戻らない。


「フェルタリアだなんて……」


 フレスも複雑な表情を浮かべていた。

 フレスとてフェルタリアには因縁がある。

 ウェイルと同じく、気持ち悪くなるほどトラウマな因縁が。


「よし……!」 


 さりとてようやく掴んだ鑑定のカギ。

 これを逃すわけにもいかない。


「このカラーコインの模様は、旧時代のフェルタリアの文字に間違いなさそうだ」


 旧時代にもフェルタリアがあったことにまず驚く。

 自分の知らなかった故郷の秘密がここに記されているのだ。


「なぁ、フレス。お前は旧時代にも生きていただろ? フェルタリアの文字は見たことがないのか?」

「ボク、旧時代にはフェルタリアに行ったことはないからなぁ。あの頃はまだ人間と神獣、そして神と称される存在が実在した時代で、大陸各地で戦争が起こっていたんだよ。ボク、幼かったからあまり出歩いたりはしなかったしさ」

「……そうか」


 ウェイルは一度深呼吸した後、ゆっくりとページをめくり始めた。


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