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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第三部 第九章 図書館都市シルヴァン編 『親友テメレイアとシルヴァニア・ライブラリー』
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超巨大樹図書館『シルヴァニア・ライブラリー』

 ――本、本、本、本、本。


 思わず連呼してしまった気持ちが伝わるかは分からないが、とにかく視界に入るもの全てが本であった。

 図書館へ足を踏み入れた瞬間から、この衝撃的な光景に、フレスの口もポカンとマヌケに開いたまま。


「受付はあちらでございます」


 これまた巨大な玄関を通って、ウェイル達は図書館職員に、受付ロビーへ案内されていた。

 木と本の臭いにつつまれた図書館ロビーには、多くの人が知識を求めて集まっている。


「ねぇ、ウェイル。今の案内係の人、エルフ族かな? 胸元にあるネックレスって、あれ(・・)だよね」

「だろうな。特徴ある耳もそうだが、何より胸のネックレス。あの色艶はお前の想像通り『エルフの薄羽』だな」

「うん。ボクも生で見たのは久しぶりだけど、やっぱり綺麗だね」

「へぇ、これは驚いたな。君の弟子はエルフの薄羽を見たことがあるのかい?」


 ウェイル達の会話に、テメレイアの方が驚いていた。

 それも仕方ないことかも知れない。

 何せエルフの薄羽なんてレア物、滅多にお目にかかれるものではないからだ。


「こう見えてフレスは色々と経験豊富だからな」

「二度としたくない経験ばっかりあるけどね……」


 貧困都市リグラスラムでの裏オークションで、フレスはエルフの薄羽を実際に見ている。

 オークションでは、違法品や盗品ばかりが競り出されていたり、サクラ行為を目の当たりにしたりと、良い思い出は一切ない。

 しかしながら、鑑定士という職を続けていれば、必ずこのような黒い話にも出くわしていくのだ。

 フレスにとって、苦い思い出ではあるが、経験という意味ではプラスになっているはず。

 現にこうしてエルフの薄羽を見抜いたあたり、成長していると言えよう。


「どうやらその話も面白そうだね。今夜辺りお聞かせ願おう。それでは僕は『第一種』の受付に行ってくるから、君達も目的の受付に行ってきたらいい。何か用があってここに来たのだろうし」

「そうだな。ならここで一旦解散としようか。フレス、受付にいくぞ」

「うん! それから何冊か本を借りる!」

「なら余計に急いだ方がいいね。貸し出し受付はかなり混むからね」


 ウェイルとしても早めに受付を済ませて閲覧許可を得たいところ。

 フレスは貸出可能書物に興味しんしんであるし、ウェイルとしてもチェックしておきたい書物もある。

 テメレイアとウェイル達は、それぞれ目的の受付へと足を向けた。





  ――●○●○●○――





「それではテメレイア様。こちらの最終閲覧許可申請に必要事項の記入をお願いいたします」

「了解したよ」


 一人、『第一閲覧規制書物』の受付へと来たテメレイア。

 見ると周囲は誰一人としていない。

 それも当然で、ここの受付を利用する者なんて、年に十人もいないほど。

 第一種閲覧規制書物を閲覧しようとする物好きなど、なかなかいやしないのだ。


「なんだか四枚も書類があるけど、サインは一枚だけでいいのかい?」

「はい。閲覧許可申請自体は一枚目の書類のみにサインしていただければ問題ありません。しかし、閲覧許可が出た明日以降、閲覧室に入る毎にサインが必要になりますので、注意してください」

「厳重だね。流石は第一種閲覧規制書物というところだね」

「はい。第一種の場合、とても貴重な書物ばかりですので、たとえ閲覧者がプロ鑑定士の方でも自由に閲覧するということは出来ません。万が一盗難でもされたら一大事ですからね。申し訳ないのですが、閲覧には私も監視という名目で同行致しますので、ご容赦くださいませ」

「それは勿論構わないよ。むしろ助かるよ。あんなに厳重な場所で、たった一人で鑑定するだなんて気が滅入るからね」


 テメレイアの閲覧には、第一閲覧規制書物専用の案内人が付けられる。

 元々巨大な木であるシルヴァニア・ライブラリーには、広大で複雑な構造となっている。

 閲覧規制書物の類は、全て地下室に保管されているのだが、木の地下と言えば当然、根の部分に値するわけだ。

 木の根は当然のことながらまっすぐに伸びているわけじゃない。

 複雑に入り組みながら、地下奥底まで伸びている。

 第一種閲覧規制書物閲覧室は、その根の最下層に設置されている。

 地下77階という途方もなく深い地下に設置された閲覧室は、封印されていると言ってもおかしくない。

 厳重な管理と監視の元に、閲覧室は置かれている。

 さらにそこまでの道のりだが、非常に複雑に組まれている。

 地下に閲覧室があるという情報の盲点を突くためか、閲覧室は地下77階にあるというのに、そこへの唯一の入口は、なんと図書館のほぼ最上階にあるのである。

 経路の複雑さにより、セキュリティを高めているというわけだ。

 そこまで行くための移動手段であるが、基本的には重力杖と似たような能力を持つ神器を利用した縦方向移動リフトであるのだが、これは少々扱いが難しい。

 リフトの操作および迷宮のような図書館を、普段あまり利用しない素人が迷わずに目的地に辿り着けるはずもない。

 何せ閲覧室までは、図書館内を上がったり下がったりするわけだから。

 そういうわけで図書館の構造に詳しい案内係が必ず必要となってくるのだ。

 案内人はフレスがエルフだと見抜いた女性。

 金髪で長髪、メガネをしている、知的な雰囲気を漂わせる女性であった。


「テメレイア様に鑑定を依頼したのは我々ですし、本当なら監視なんて必要ないとは思っているのですけど、これも規則ですからね。助かると言っていただけるのであれば、こちらこそ助かります。閲覧許可は明日から三日ですので、その間よろしくお願いします」

「こちらこそ。そうだな、出来れば鑑定の手伝いをして欲しい。鑑定には色々と雑用が多くて」

「無論心得ております。私のことは監視役というより助手という程度でお考えください。名前はアラルカラルと申します。親しい方達からはラルーと呼ばれていますので、是非そう呼んでいただければ嬉しいです」

「そうさせてもらうよ。明日からの三日間、よろしくね。ラルー」


 テメレイアの閲覧日は明日からの三日間。

 その間にインペリアル手稿の解析・鑑定を行うことになる。

 今回テメレイアが行う鑑定は『暗号の解析鑑定』である。

 暗号を解くには、文章の規則性から解法を一つ一つ提案、試行、結果記録を繰り返していかなければならない。 

 時間の掛かる作業なので、助手がいた方が遥かに効率が良い。

 どうやらラルーというエルフの彼女は、テメレイアに鑑定依頼を出した者の一人であるらしく、またインペリアル手稿についてもかなりの知識を持っているようだ。

 そんな彼女が助手をしてくれるというのは、非常に助かる申し出と言える。

 テメレイアとラルーは軽く握手を交わし、明日からの協力に意欲を表明しあった。


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