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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第三部 第九章 図書館都市シルヴァン編 『親友テメレイアとシルヴァニア・ライブラリー』
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フェアプレイ

 突然の急ブレーキの釈明をするため、車掌がウェイル達の元へやってきた。


「すみません、お怪我はありませんか?」

「全員大丈夫だ。何かあったのか?」

「ええ、実は突然の強風で、線路沿いの木が倒れてしまいまして」

「どれだけ強い突風なんだよ……」


 窓から外の様子を見ると、なるほど、確かに木が根元から倒れ、線路を塞いでいる。

 相当な威力の風だったようだ。


「もしかしてシルヴァン周辺の森の中にある神器『天候風律』(ウルトラファン)の影響かな」

「えっ!? 『天候風律』(ウルトラファン)!? あの神器に何かあったの!?」

「お前、『天候風律』のことを知ってるのか?」

「うん。あの神器はかなり昔からあるからね」


 フレスは大層驚いていたが、ウェイルとしてはフレスが『天候風律』を知っていることの方が驚いた。


「天候風律はシルヴァンの近くに設置されてある。シルヴァンの天候が穏やかなのは、この神器のおかげなのさ」


 図書館都市シルヴァンは、その名の通り大量に本が所蔵されている都市だ。

 本の天敵である湿気を防ぐため、天候風律によって天候をある程度コントロールしている。

 巨大な風車のような風貌をしている神器であり、雲や湿気を流すため猛烈な風を操ることが可能なのだ。


「天候風律に何かあったのか?」


 ウェイルが車掌に訊くと、彼もよく判らないと答えた。


「倒れた木の撤去作業に数十分ほど掛かりますので、今しばらくお待ちください」

「俺達も手伝おうか?」


 フレスも共に頷く。

 フレスの力ならば、容易に木を退かすことが出来るだろう。

 しかし、その申し出は丁寧に断れた。


「お客様の手を煩わすわけにはいきません。これは我々の仕事ですので。幸い倒れた木はさほど大きくありませんので、私達だけで大丈夫です。そのお気持ちだけで十分です」


 彼らは彼らなりのプロ意識がある。

 鉄道マンにしてもプロ鑑定士にしても、同じこと。

 それを判っているからこそ、ウェイルもこれ以上の申し出はしなかった。


「それにしてもおかしいね。天候風律が暴風を起こすだなんて」

「そうだな。もしかして故障か」

「もしそうなら、シルヴァンに到着したらすぐ調査隊を派遣しないとね」





 ――●○●○●○――





 車掌の宣言通り、わずか二十分足らずで汽車は運行を再開させた。

 ウェイル達も一段落ついたということで、互いの近況報告をすることになった。

 真っ先に紹介したのは弟子であるフレスのこと。


「いやー、まさかウェイルに弟子とはね。珍しいこともあるものだねぇ」

「それ、サグマールにも似たようなことを言われたよ」


 旅は道連れとはよく言ったもので、再会を果たした二人は即座に意気投合。

 フレスの紹介を軽く済ませると、後は昔話で大盛り上がりだった。

 そんな楽しい会話劇の中、一人蚊帳の外なフレス。

 話に入れないのが面白くないのか、ぷーっと頬を膨らませて不機嫌に外の景色を眺めている。

 もっとも、話に入れないことだけが、不機嫌な理由ではないのだが。


「……ウェイルってば、すっごく楽しそうにしちゃってさ……」


 フレスは、これまで幾度となくウェイルと汽車の旅をしてきた。

 しかし考えてみれば、その旅の中で、ウェイルがここまで楽しそうに話をする姿を見たことはない。


「……ボクとじゃ、つまんないのかなぁ……」


 そう考えると、シュンと頭が落ちて俯いてしまう。

 そんなフレスの様子を、テメレイアは見逃さなかった。


「そんなことはないさ」

「――え?」


 まさか自分の小言が拾われるとは思いもせず、フレスは驚いてテメレイアの方へ振り返った。


「ウェイルが君との旅をつまらないなんて、思っているわけないさ」

「テメレイアさん、な、何言ってるの!?」

「レイアで構わないよ。僕はこのあだ名が結構気に入ってるんだ」

「……うん。じゃあレイアさんって呼ぶね。……じゃなくて、どうしてそんなことを?」


 ウェイルの前でそんなことを言われるなんて、流石にフレスも恥ずかしい。


「何の話だ? レイア」


 ウェイルには小言が聞こえなかったようで、ひとまずホッとしたが。


「なに、君の弟子は、どうやら君に対して変な負い目を感じていたのでね。それを否定してあげただけさ」

「負い目?」


 ウェイルがフレスを見る。

 フレスは顔を真っ赤にして、目を潤ませていた。


「うう……、レイアさん、あんまりだよ……」

「ごめんごめん。でも、君にその辺の誤解を持たせたままではフェアじゃないんでね」

「……フェア……?」

「そうさ。本当はたまたま聞こえただけなんだけど、このままじゃ僕の方が君に申し訳なくてね。疑問をすっきり解いてあげるよ」

「よく判んないけど……、うん……」


 そういうとテメレイアはフレスの耳元に近づくと、何やらひそひそと話し始めた。


「……今のウェイルは、昔のウェイルと比べると、かなり印象が変わっているよ。雰囲気が柔らかくなった。それもこれも、全ては君と出会ったからさ」

「柔らかく……?」

「昔のウェイルはなんというか硬くてね。そんなウェイルがこんなに表情豊かになっているんだ。君と一緒にいて楽しくないわけがないさ」

「……本当?」

「本人に聞いてみるかい?」

「無理だよ、無理! 恥ずかしいよ!」


(何話してるんだか)


 あまり厄介ごとには首を突っ込みたくないウェイルは、二人のひそひそ話を興味なさそうにしていたが、テメレイアが口を動かす度にコロコロ変化するフレスの表情だけは面白く、一挙一動を楽しみに見ていた。


「そもそもウェイルが楽しくないと思っているのなら、共に旅なんてしないさ。ウェイルって結構シビアな面もあるからね」

「それはそうだけど」

「じゃあ聞くけど、君はウェイルとの旅は楽しいかい?」

「うん!」

「ならウェイルだって楽しいはずさ。もし僕とウェイルの会話で、ウェイルが楽しそうに見えたのなら、それは大きな間違いさ。あれは単にウェイルの照れ隠し。僕はウェイルの恥ずかしい過去をたくさん知っているからね。ウェイルが本当に楽しいと思っている時って、少し唇を釣り上げて含み笑いをするから」

「あ、それ見たことあるかも」

「今だって見てごらんよ。ニヤニヤといやらしい笑い方をしている」

「うん。笑ってる」

「つまり楽しいと思っているってことさ」


 フレスを見て二ヤついていたウェイルは、どうしてか二人にジトーっと逆に睨まれる羽目に。


「なんなんだよ、二人して睨んできて」

「ね? よく判っただろう? だから心配することはないのさ」

「そうだね! うん、ありがとう、レイアさん」

「お礼には及ばないよ。これもフェアプレイを心がけたまでの結果さ」

「フェアプレイ? ……う~ん、よく判らないけど」

「今はそれでいいさ」


 我が弟子はすっかり我が親友とも仲良くなったようで、ウェイルとしては好ましい結果ではあるのだが、なんだか居心地の悪い。

 面白い話から、ハブにされた気分とでもいうのだろうか。


「……まあいいか」


 もっとも、その程度のことを今更気にするウェイルではない。


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