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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
Side Episode 2 イレイズ&サラー編 『始まりの物語』
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イレイズの罪

 この後、家臣達の落胆はもう見ていられなかった。

 皆が嘆き、涙し、力足らずな自分達を攻めた。

 私は今日、クルパーカーの王の座を退き、贋作士集団『不完全』に加入する。

 そんな私の、王としての最後の号令。


「必ず、戻ってきます。ですから皆さんも、いつか来るその時のために、準備をしていてください。お願いします」


 そんな日が来る保証はどこにもない。

 しかし、こんなにか細い言葉にも、家臣達は希望を見出してくれているようだった。

 誰もが首を縦に振り、目を瞑って、イレイズにひざまずく。

 口々に漏れ出す、「いつまでもお待ちしております」の言葉。

 目頭が熱くなり、王としては失格かも知れないが、思わず頭を垂れてしまう。


「さあ、いきましょうか」


 勝手に玉座に座っていたルミナステリアが、クスっと笑いながら立ち上がり、イレイズの肩を持つ。


「今日からお仲間なんだし、色々とお話しましょう?」

「……私には話すことなどありません」

「そんなつれないこと言わないの。そうそう、もう一つこちらの提案というか最後の要求なんだけどさ」

「最後の……?」


 これ以上、何を求めるというのか。


「この城、燃やしましょうか」

「城を、燃やす……!?」

「ええ。だって、ここはもう必要ないでしょう? ここにはもう王はいないのだし、ここを拠点に何か怪しい策略でも立てられたら困るもの」

「貴方達は我々から城まで取り上げるのか!?」


 声を荒げる私に対し、ルミナステリアの揚げ足取りは天才的だった。


「その貴方達(・・・)の中には、もう貴方も入っているのよ?」

「……クッ!!」

「何、大丈夫よ。必要なものは外にもって出ろと、そう家臣に伝えなさい」


 未だ彼女の背後にはギリカを含めた構成員がいる。

 王の権力は失墜、事実上彼女の言葉が絶対であった。


「……判りました。ただし、火は私が放ちます」


 自分の居城だ。

 他の誰かになんて、どうやっても許せそうになかった。

 自ら火を放った罪を、一生その身に刻み付ける。


 私はこの罪とともに生きていくと誓いました。


「では早速やりましょうか」





 ――●○●○●○――





 城の前には大勢の家臣。

 荷物の殆ど全てを城外へ移し、時間はすでに深夜二時であった。

 多くの家臣と、ルミナステリアが見守る中、イレイズは手に持った松明に火をつけた。

 城内部には、すでにイレイズ本人の手によって油を撒いてある。

 後はこの松明を、城の門につけるだけで、あっと言う間に燃え広がることだろう。


「すみません……!!」


 謝罪の言葉は、誰に対してのものだろうか。

 これまでクルパーカーという都市を支えてきた、全ての人々へ。

 イレイズは謝罪し、己の罪を背負う覚悟をした。


「…………」


 最後の最後は、無言だった。

 松明の火が門へと移る。

 油を撒かれた城は勢いよく燃え上がり、深夜だというのに昼夜のように空を虚しく明るくさせた。


「おお、いい燃えっぷりだぜ」


 誰も彼も無言の中、唯一テンションの高いギリカに、腹立たしさを覚える。

 まさしく大炎上。

 イレイズにとっては、この都市の最後を見ているかのような気分だった。

 家臣達には戻ってくると、そう言ったが、現実に希望なんてほとんどない。

 あるのは絶望だけだ。


「さあ、帰りますか」


 ルミナステリアが撤退を命ずると、背後のいた連中はスッとどこかへ姿を消した。


「さあ、イレイズ。色々と仕事があるから、一緒に来て欲しいのだけど」

「……せめて、最後くらいは看取らせてください」

「う~ん、そうねぇ。気が済むまで見ていなさい。終わったらここに来るように」


 ポケットに入れられた、一枚のメモ。

 これをすぐに治安局へ持ち込んでもよかったのだが、そうすれば今度は本格的に民の命が危ない。

 イレイズはすでに、奴らの操り人形にすぎないのだ。


 消火活動などの一切をしなければ、大きな城でも、ものの三時間ほどで焼け落ちる。

 未だ激しい炎は残るのもの、大方崩れ落ちた城を前にし、イレイズも跪いた。

 王であったもののそんな姿など誰が見たいものか。

 バルバードや家臣達は気を利かせ、その場をイレイズ一人に預ける。

 聞こえてくるは燃え盛る炎の音。

 後は悔しさで嗚咽が止まらないイレイズの声だけだ。


「悔しい、悔しいです……!!」


 感情を声に出すと、改めて己の無力さを痛感する。


「……私は、私はこれから一体どうすればいいのですか……!?」


 誰にも聞かれることのない、答えのない質問。

 虚空へと消えた質問に、イレイズは悔しくて思わず未だ熱を持った灰を握りしめた。


 ――その時だった。


「――生きればいいだろう? 生きているんだから」


 返ってくるはずのない返答が、イレイズの頭上に響いた。

 それは少し不機嫌げな、少女の声であった。


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