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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
Side Episode 2 イレイズ&サラー編 『始まりの物語』
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誇りか、滅びか

 私が『不完全』の襲撃を知ったのは、最初の犠牲者が出てから二時間も経った後のことでした。


「イレイズ様! 『不完全』の連中が、南地区を中心に攻めてきました!!」


 家臣の一人が、血相を変えて私の元へやってきて、そう叫んだのです。


「な、なんですと……!?」


 私と、そしてバルバードは、ついに恐れていたことが起こったと一瞬言葉を失いましたが、すぐに頭を切り替えて、状況の把握に努めました。


「敵の数は!?」

「正確な情報は判りかねますが、報告ですと僅か八人で乗り込んできたそうです……!」

「た、たったの八人……!?」


 バルバードは信じられぬと息を飲み、私も敵の異質にさに戦慄しました。

 まさか、たったの八人で都市一つを攻めてこようとは誰が思うでしょう。


「被害は如何ほどに!?」

「兵士はすでに五十人以上犠牲になってます! バルバード様、急いで部隊を編成しなければならないかと!」

「判っておる。すぐに各隊長達に緊急招集命令を送れ! 『不完全』が相手なら、奴らは間違いなくこの城にやってくるはずだ! 是が非でもここは死守せねばならん!!」

「了解しました!!」


 二週間の間、何の音沙汰もなかった贋作士集団組織『不完全』。

 嫌な予感は見事に的中し、彼らは強硬手段に出て来たというわけです。


「イレイズ様、早く安全な場所へ!」

「何を言います。兵士に被害が出ているのです。私一人安全な場所へ逃げるなんて出来るわけがないでしょう!」

「しかし!」

「心配は無用です。私の実力は貴方も知っての通り」


 部屋の棚からサーベルを抜くと、私はそれを腰に携えました。


「行きましょう。どの道彼らは私に話があるはずですからね。結局は出ていくことになりますから」

「イレイズ様……」


 バルバードはそれでも不満そうな顔をしていたが、ここは我が儘にならせてもらう。





 ――●○●○●○―― 





 城から出てみると、それは想像を絶する光景が広がっており、思わずこの目を疑うことになりました。


「私の都市が……焼けている……!?」


 都市中の至る所から火が立ち、人々は消火作業にあたっている模様。


「これも奴らが……!?」


 バルバードが確認するかのように問うてきたので、しっかりと頷き返しました。


「間違いありませんね……」

「イレイズ様!」


 兵士が一人やってきて、最新情報を伝えてくれました。


「『不完全』の連中は少数精鋭です! 我が軍が一人だけ対処できたため、残り七人になります!」

「敵の進路は?」

「それが城へ真っすぐに向かっていると思われます!」

「やはりそうですか……」


 想像の範囲内ですが、身の危機を肌で感じることになろうとは。


「また、バルバード様の指示通り、都市中の兵士全てがこの城に集結しつつあります! 次の命令をお願いいたします!」

「よし。集結が完了し次第、城を囲むように配置にしろ。どこから敵が来ても絶対に逃がすな」

「了解しました!」


 ほどなくして兵士達は集結します。

 私が知識として知っている『不完全』の連中は、むやみやたらに人を殺めたりはしない。

 それこそ一般市民には害は少ない筈。

 であれば、ターゲットの私がここにいる以上、城で万全の準備を整えることが一番良いと思われます。


「敵襲!!」


 一人の兵士の声が響き、周囲は騒然となりました。

 しかし、その騒ぎも一人の悲鳴で、打ち消されたのです。


「なっ!?」


 血が雨の様に降り注ぐ光景に、思わず目を疑います。

 確認を急ぐと、すでに五人ばかりの兵士の首がありませんでした。


「おいおい、随分と脆いな。これじゃ全然楽しめねーよ」

「あのね、ギリカ。私達は最後の交渉に来たの。別に殺しを楽しみに来たわけじゃないのよ?」


 不審者連中の先頭に、見たことのあるシルエット。


「ルミナステリア……!!」


『不完全』の構成員を引き連れて、ルミナステリアが現れたのです。


「でも、まあ多少脅す程度なら自由にしていいわよ? ギリカ」

「そうこなくちゃな」


 ギリカと呼ばれた野性児のような巨漢は、ニヤリと汚い笑みを浮かべ、スピードを上げて兵士達へ突っ込んでいきました。


「死にたい奴から掛かってこいやぁ!!」


 まるで雑草を払い除けるかのように、兵士の首を飛ばしながら直進するギリカという男。


「なんて、なんて力だ……!?」

「兵士が赤子のように……!!」


 この時、私は悟りました。

 今ここにいる兵士では、すでに『不完全』に太刀打ちなど出来ないと。

 おそらくあのギリカという男ですら、『不完全』の中では大したことのない実力のはず。

 背後に控える連中もさることながら、ルミナステリアもそこにいるのです。

 どうあがいても我々に勝機は無いように思えました。


「これ以上、被害は出させはしません……!!」

「イレイズ様、何を!?」

「バルバード。私が交渉に出ます」

「お止めくだされ!」


 私はバルバードの制止を振り切り、恐怖に震える兵士達をの間を縫ってルミナステリアの前に出ました。


「ルミナステリア。交渉に応じます。ですからあの男を止めなさい!」

「あら、もう大将が出てきたのね? いいわ、止めなさい、ギリカ」

「なんだ? もう終わりかよ」


 掴んだ兵士の首を握り潰し、つまらなそうに動きを止めたギリカ。


「それで、交渉したいっていうのは判ったけど。どうしたいの?」

「それは貴方達の要求次第です」

「要求なら決まっているわよ? ダイヤモンドヘッドを渡しなさい」

「もし我々がそれに応じなければ……?」

「貴方の想像通りに事が進むわよ? クルパーカーは滅びることになる。私達はそれだけの武力や神器を持っているのだから」


 ギリカという男一人でも、一個小隊が壊滅させられそうになったのです。

 彼らなら今言ったことを造作もなくやってのける。そんな気がしました。

 しばらくの沈黙がこの場を支配し、そして最初に静寂を破ったのは、鍵を握るルミナステリアでした。


「でもね、実はもう一つ提案があったの」

「もう一つ……?」

「ええ。むしろイング様はダイヤモンドヘッドよりもこっちの選択肢がご所望みたいだし」


 誇りを捨てるか、滅びを選ぶか。

 どちらか一つしか選べないと思っていたところに、彼らはイレギュラーな選択肢を用意してきたのです。


「イレイズ、貴方が私達の組織に入ること。それがもう一つの提案よ」


 その提案に、私だけでなく、この場にいた兵士全員が飲みました。

 一都市の王を、犯罪組織に加入させるなど、どう考えてもあり得ない話。

 これ以上の屈辱など考えられないほどです。

 ギリカの力に戦意喪失していた兵士達も、これには怒りを覚えたよう。


「ふ、ふざけてるのか!?」

「お前らなんかに我々が屈するはずもない!」

「イレイズ様! そんな馬鹿馬鹿しい提案など無視して、こいつらを潰しましょう!」

「お、いいねえ。殺しはこうでなくては面白くない」


 目を光らせ喜ぶギリカ。

 彼にこれ以上民を殺させるわけにはいきません。

 私は息巻く兵士達を黙らせるため、声を張り上げました。


「黙りなさい!」


 普段ほとんど大声を出さない私の声に気圧されたのか、周囲は再び静寂に包まれました。


「その提案、受けましょう」

「な、何を!? イレイズ様、お止めください!!」

「私の身体一つで済むのなら安いものです」

「安いもんですか!! イレイズ様のためでしたら、我ら民一同、一丸となって戦う所存です!!」

「それはダメです。我々では『不完全』に到底敵わない。あのギリカという男一人に、もう何十人も殺害されています。さらに奴は無傷。これが我々と敵との力の差です。こちらが勝てる見込みなんて皆無でしょう」


 バルバードには悪いですが、王としてこれ以上民を失うのは見ていられない。


「私が『不完全』に加入すれば、ダイヤモンドヘッドは求めないのですね?」

「考え方に語弊があるわね。正しく言えば、貴方は担保みたいなもの。ダイヤモンドヘッドを求めない代わりに、貴方をこちらで掌握したい。以前から思っていたけど、貴方には色々と才能が有りそうだし、我々の仕事の高効率化に一役買ってもらおうってわけ。もし、貴方が私たちを裏切れば、私達は容赦なくダイヤモンドヘッドをいただくわ」

「ダイヤモンドヘッドと民を人質にとるってことですか」

「そういうことね。さあ、どうする? 私達としてはどの選択肢でも構わないのだけど?」


 私にもう迷いはありませんでした。

 ルミナステリアの背後には、神器を持つ構成員。

 ギリカという異様な存在もあります。

 これ以上彼らを刺激し、民を失うわけにはいきません。


「分かりました。改めて、その提案、受け入れましょう」

「流石イレイズ様。状況がよくお分かりで」


 返答に満足したのか、ルミナステリアが笑顔を浮かべる。

 とてもゾッとする笑顔でした。


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