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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第一部 第一章 教会都市サスデルセル編 『龍の少女と悪魔の噂』
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王冠とフレスの鑑定


 ウェイルの鑑定は非常にスピーディで、それでいて全ての動作が丁寧だ。

 見慣れているルークですら、久々ということで感嘆の声を漏らしている。

 当然初めて見たフレスはというと、キラキラと瞳を輝かせて興奮していた。


「今のところ本物そのものだな。このガラス細工なんかも丁寧なもんだ」


 重さ、形、匂い、呪文印。どれを見ても本物そのもの。

 神器を鑑定するときのポイントは、内部に組み込まれたガラス細工を重点的に見ることである。

 金属は電気を通しやすい性質を持っていると同じように、ガラスは魔力を通しやすい性質を持っている。

 なので神器内部の魔力回路にはガラス細工が組み込まれていることが多く、粗悪な贋作は大抵この部分の作り込みが荒い。

 しかしこのラルガポット内部のガラス細工は、非常に丁寧な仕上がりで歪み一つない。

 経験不足な鑑定士であれば、これは本物だと太鼓判を押すだろう。

 だが、ウェイルはこれがすでに贋作だとほぼ確信を持っていた。

 昨日の事件の真実は、これが贋作ならば全てが繋がるからだ。


「流石の仕事ぶりだな。本物とほとんど大差がない。本物よりもよく出来ているかも知れない。もはや贋作も一種の芸術だな……」


 鑑定士としては不謹慎な発言であるが、ウェイルが思わず舌を巻いたほど、このラルガポットはよく出来ていた。

 材質鑑定や年代鑑定など、更なる精密な鑑定を行えば、贋作だと簡単に判明するかも知れないが、機材の関係でここで今すぐにとは不可能だ。

 だからウェイルは、『不完全』の贋作である決定的な証拠を探すことにした。


「こいつを使うか」


 ウェイルがカバンから取り出したのは、小さな虫眼鏡。だがレンズは付いていない。

 これは『氷石鏡(フロストグラス)』という、魔力を込めることで、非常に透き通った氷が張られ、レンズとなる神器である。

 込めた魔力の量によって、倍率を自由自在に変えることの出来る便利な代物だ。


「倍率20倍で見てみるか」


 軽く魔力を『氷石鏡(フロストグラス)』に込めると、みるみる氷が張られレンズとなった。

 20倍となった世界を見続けていると。


「……見つけた。贋作確定だ」

「ええ!? 見ただけで何か判ったの!?」

「ああ。実はな――」

「ちょっと待って、ウェイル! これはボクにとって初めての鑑定だもん。自分の力で鑑定してみるよ!」

 

 意外にも負けず嫌いな性格のようだ。

 またもうんうんと唸り始めたフレスだが、しばらくすると何かピコーンと閃いたようだった。 


「あ! この方法ならいけるかも! ウェイル、ちょっとそれ貸して。ボク、もう一度鑑定してみるよ」

「もう一度? 何か判ったのか?」

「ねぇ、ウェイル。ラルガポットって、神器なんだよね?」

「ああ、そうだ。世間一般には芸術品としての方が有名だけどな」

「だよね! ちょっと借りるよ!」


 フレスはウェイルからラルガポットを受け取ると、それを手のひらに乗せた。


「ルークさん、ここにあるもの以外に、ラルガポットって持ってる?」

「えーっと、確かあったはずだ。昔、競売で落札されずに、出品者が質入れにしたやつがある」


 ルークは倉庫から別のラルガポットを持ってきて、フレスに手渡した。


「ねぇ、ウェイル。ガラスってのは魔力をよく通すよね。そしてガラスを加工することで、魔力回路を形成している」

「……ああ。流石に詳しいな」

「魔力を通すガラス細工ってのは、とても繊細なんだ。見様見真似じゃ、とてもじゃないけど複製なんて出来ないよ。これはウェイルの言うとおり外見部分はよく出来ている。でもその内部構造はどうかな?」

「その内部構造を調べることが最大の難点なんだ。こいつを壊すわけにもいかないからな」

「それがね、ボクなら簡単に調べられるんだよ!」

「簡単にって……。お前、一体何する気なんだ?」

「いいから、いいから、黙って見ていて!」

「……本当に大丈夫なんだろうな……?」

「大丈夫だってば!」


 右手と左手に、それぞれラルガポットを持ったフレス。

 ウェイルの心配を他所に、フレスは自信満々な表情で目を閉じた。

 するとフレスの両手から青白い光が発せられ、部屋全体が眩く照らし出される。


「おい、本当に何をするつもりなんだ!?」

「さあ、ボクの両手にご注目!」


 青白い光はフレスの両手だけでなく、ラルガポット全体を包んでいく。

 そして――


 ――パキッ……!


 ――ガラスの割れる音と共に、フレスの手から光が消え去った。


「こっちが本物だね」


 音が鳴らなかった方を、手渡してくる。


「……何をしたんだ?」

「何って、ボクの魔力をラルガポットに流したんだよ」

「魔力を流した? 今のが!?」


 通常、神器を用いる際は人間の微弱な魔力を利用する。

 ガラスが割れるほどの大きな魔力を流すことはない。


「ボクは魔力を流すことで内部構造を見てみたんだ。するとさ、見た目は本物と大差ないくらいよく似てるけど、内部はもうデタラメだったよ。少しずつ魔力の負荷を強めていったんだけど、すぐにガラスが耐えきれなくなって割れちゃった。本物は少々の魔力じゃビクともしなかったのにさ!」


 フレスの魔力に耐えきれずに破損してしまった方のラルガポットは、神器として不完全。

 つまり贋作であるということだ。


「はは……、こいつは驚いた……!」

「ね! ボク、結構やれば出来るでしょ!」

「あ、ああ、そうだな」


 今のフレスの行動に、事情を知るウェイルはともかく、ルークは驚きすぎて言葉を失っていた。

 そしてウェイルへと詰め寄ってくる。


「彼女は一体何者なんだ!?」


 予想通りの質問だったので少し笑いそうになったが、誰だって最初は叫びたくもなるはずだ。

 ウェイルは昨日からフレスの人間離れしたモノを色々と見てきたので、これくらいのことでは驚かなくなってしまっていた。


(いやはや、慣れとは怖いな)


 今の光景を見られた以上、ルークにはフレスの正体について嘘偽りなく話すことにした。

 もちろん、この事は絶対に口外しないと約束して。


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