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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第二部 第八章 銀行都市スフィアバンク編 『株主総会での決戦!』
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投票勝負

 会場が冷え込んでいくのを見て、メイラルドが発言した。


『皆様。我々新リベア体制は、奴隷商売を一切行わないことを誓いましょう。何せ我々は旧リベア体制が行ってきた奴隷商売に嫌気が差したからこそ、倒産させたのです。ここにいる新リベア体制の幹部役員は、全員が旧リベア体制の汚いやり方に反対していました。だからこそこうやって新リベア社を設立したのではありませんか!』


 会場に動揺が走る。

 彼女の言うことは、一見矛盾がないように聞こえる。

 正義の旗は先に振り始めた方が、圧倒的に有利なのだ。


(よくもまあ嘘ばかりつけるもんだ)


 とはいえ、メイラルドの言葉を嘘と証明するための資料を持ち合わせていないのだから、ウェイルは黙っていた。

 次第に「リベアの倒産」に対する反対意見が上がり始めた。


『新リベアは、別に何も悪いことをしてはいないじゃないか!』

『利益の確保に経費節減と、都市支配は最高のマネジメントだ!』


 その声に賛同するように、勢い付き始める観衆。

 それどころか、プロ鑑定士協会に批判が殺到し始めた。


『リベアの倒産なんて、何を考えているんだ!?』

『倒産なんてされたら、俺らの株式はどうなる!? あんたが損失を補ってくれるのか!?』

『大儲けできるチャンスなんだよ、邪魔するな! プロ鑑定士協会!』


 汚い言葉の一方的な罵倒に、ウェイルはいい加減辟易した気分になって来た。


(……利益至上主義の連中ならこうなっても仕方ないか……)


 奴隷の件は、今のメイラルドの言葉で撤回されたとしよう。

 だが、奴らは結局アレス王の件について、一切触れることはなかった。

 こいつらは利益の為ならば、これまでヴェクトルビアを必死に守ってきたアレス王を処刑するという行為すら、なんら抵抗を感じないようだ。

 

 ――腐った連中。偽善者。そういう言葉が相応しいかもしれない。


 だからこそ、ウェイルを含めたプロ鑑定士協会は、この時点で完全に観衆の説得を諦めた。

 出来ることなら彼らには納得してもらった上で損をして欲しかったが、ヴェクトルビアを守る為なら多少の恨みを買うのは仕方がない。

 もっとも一番の損失を被るのは、他ならぬプロ鑑定士協会、それも大量に株を所持しているウェイルとフレスなのだが。

 ウェイルがサグマールにアイコンタクトを送ると、サグマールは深く頷いた。

 残された手段を実行するのだ。


『静粛に。観衆がどう喚こうが、我々は株式の30%を取得している。つまり、リベアのやることに口出しが出来るわけだ』


 メイラルドを睨む。

 彼女は笑って応じてきた。


『そうですね。ですが我々も43%株式を持っています』

『互いに過半数には届いていないということだな?』

『ええ、そうなります。ですので、これからリベア社の倒産を掛けて、投票を行いましょう。もし賛成多数なら、この場にいる投資家の皆様の持つ株式を全て賛成側に回しましょう。その逆も然り。もしかすれば貴方方にも勝機があるかも知れませんよ?』

『随分自信があるんだな?』

『ええ、当然。如何に貴方達が大株主だと言えど、現時点でこれだけ差があるのですからね。接戦にはなるかも知れませんが、負ける気はしませんよ』


(はっ、接戦なんてよく言ったもんだ)

 

 事前の調査により、リベア側には、旧リベアの子会社から委任状を預かっていると判っている。

 子会社の持つ株式が11%分あり、この時点ではリベア側は過半数を超える株式を持っているわけだ。

 この採決がどんな結果になろうとも勝利は見えている。


『我々としても大株主の提案を無下にするわけにもいきませんからねぇ。これなら平等に雌雄を決することが出来ることでしょう。もし我々が勝てば、我々の方針には従っていただきます』

『もし俺達が勝てば?』

『そんなことはまず有り得ませんが、そうなったらそちらの提案に従いましょう。絶対にないでしょうけどね』


 100%の勝ちを確信しているからこその自信たっぷりなセリフだった。

 彼らの持つ株は43%。そして奴らは明言しなかったが、子会社の持つ11%。

 これだけで54%。勝利確定だ。

 さらにこの会場の雰囲気。

 おそらく投資家達は、リベア側に味方するはずだ。

 ウェイル達が30%を取得している為、残る株式は16%が上限だ。

 もし仮にこの16%全てを、この場にいる投資家が持っていた場合、それがリベア賛成側に回るとなると、リベア側の所有株式なんと70%にもなる。

 当然この場の投資家達が16%も持っているはずないだろうし、この16%の詳細については、ウェイル達も把握できていない。

 実際には10%程度だとしても、リベア側は過半数を切ることはないし、逆にこれを全てウェイル達につけたとしても過半数には届かない。


『そろそろよろしいでしょうか? プロ鑑定士協会さん。投票を行いたいと思うのですが?』


 勝利を確信したメイラルドの顔は、とても腹が立った。

 見下し、嘲笑う、そんな顔。

 

 ――それと同時に面白くもあった。


『そうだな。投票、始めようか』


 意外にも素直なウェイルに、メイラルドは面食らったようだ。

 だが、すぐに元の表情を取り戻して、宣言した。


『これより投票を行います!』


 その宣言の瞬間、フレスはウェイルに抱きついた。


「……来たよ、ウェイル!!」


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