治安局のお仕事
男がイルアリルマに向かって足を振り下ろした、その時だった。
「――はいはーい!! その人は我々治安局が身柄を拘束しまーす!!」
足を上げた男を突き飛ばして、現れたのはステイリィだった。
大柄の治安局員を引き連れて、男達を押しのけイルアリルマを取り囲む。
「いってぇ!! テメェ、何をする!?」
バランスを崩して倒れた男が、ステイリィを睨みつけた。
しかし、ステイリィは男が転んだことを鼻で笑う。
「フフフ、いい気味」
「はぁ!? 治安局員が何言ってんだ!? それに一体何の用だ!?」
「何って、お仕事に決まってるじゃないですか~。この女はスフィアバンク内で火薬を用いたテロリストなんでしょ? だったらこいつは捕まえなきゃ! よーし、者ども、このテロリストを拘束しろ!」
「了解です、上官!」
ステイリィの指示により、イルアリルマは治安局員に拘束された。
「ちょっと待て、それは俺達の仕事だろ」
その行動に不服があるのか、転んだ男が立ち上がって因縁をつけてくるが、ステイリィはいたって平然に切り返した。
「いえいえ、これは我々の仕事です。貴方達は株主総会を守るのが仕事でしょ? 株主総会は正午からの予定のはず。今はまだ午前10時を少し回ったところです。でしたら貴方達には関係がない。爆竹で人を傷つけようとしたのですから、我々が連行するのが正しいです。ご理解いただけますか?」
最後に鋭い睨みを送り、ステイリィはイルアリルマを連行していく。
「そうそう、もう一つ言っておきます」
論破され、無言になっていた男に、ステイリィは振り返る。
「我々治安局は株主総会には手を出せない決まりになっていますが…………私はよく破天荒な行動を取ることで治安局では有名なんです。規則を破る事だって少なくはない。もし何か私の気に食わないことがあれば……。まあ覚えておいてください」
治安局員を率いて、ステイリィは戻っていく。
残された男達の妬みの視線ですら、ステイリィにとっては笑いの種だ。
――●○●○●○――
――スファイアバンク治安局本部。
「お疲れ様です。リルさん。いやー、危ないとこでしたね!」
ステイリィは、イルアリルマの拘束を解くと、彼女に椅子に座るよう促した。
「ウェイルさんの思惑通りに事が進みましたね」
「はい。ですが助かりました。少し間違うと何をされていたことか……。ステイリィさん、本当にありがとうございます」
「怖かったでしょう。全く、ダーリンったら女の子に無茶させるんだから!」
「正直凄く怖かったです……。でも同時に強くなれた気がします。母のことを理解できましたから」
「母? う~んと、よく判らないけど良かったです。さて、あの爆竹を見て、ダーリンが行動を起こしてくれたらいいけど」
「大丈夫ですよ。あの人は素晴らしいプロ鑑定士ですから」
「でしょでしょ! もっと褒めて!」
イルアリルマの脳裏には、俺に任せろと言ってくれたウェイルの姿があった。
(言われた通り、サポートはしました。後は任せますよ……!!)
「そりゃあダーリンは大陸最高のプロ鑑定士…………うん?」
(リルさんの顔、今少し女の顔に!? まさかダーリンのこと……――惚れた!?)
「だ、ダーリンはあげないからね!!」
「ええ!? 何の話ですか!?」
イルアリルマ渾身の行動は、しっかりとウェイル達に届いたのだった。




