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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第二部 第八章 銀行都市スフィアバンク編 『株主総会での決戦!』
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母への理解

「……本当にウェイルさんの言う通りなんでしょうか……」


 イルアリルマは、その類稀なる察覚と聴力を用いて、慎重に周囲の様子を探っていた。

 会場内外どちらからも感じる、異質なほどに鋭い殺気。

 この気配、おそらくはプロ。

 人を傷つけることに、何の躊躇も覚えない人間の放つ気配だ。

 その気配は、まだ多少落ち着いているものの、これからどう動き出すか判らない。

 この作戦に参加して、これから大騒ぎを起こそうとする以上、その殺気は私に向かってくることになるのは間違いない。

 いつその時が来るかは判らぬが、必ずや訪れるその瞬間を創造すると、胸が凍り、冷や汗が流れる。

 途方もなく不安に駆られ、恐怖を覚えた。


(……でも、でも、私が頑張れば……!!)


 母親を追い込んだ奴隷商売の胴元であるリベア社に、復讐が出来る。

 それに、自分が出来るのは最前線に立つことではなく、サポートに回ること。

 あの時、そうウェイルと約束した。

 怖いけれど、やり遂げなくてはならない。


「まだ状況に変化はないですね……」


 察覚を抑え、聴覚だけに集中する。

 目を瞑り、耳を澄ませた、その瞬間だった。


「――……れより………、ぬしそうか………します……――」


(……この声って……!? もしかして……)


 ――聞こえた。間違いなく。


 以前、中央為替市場前でウェイルと会話していた、あの男の声。

 今の宣言の後、すぐに女性の声に変ってしまったが、間違いなくあの男の声だった。

 そしてその内容とは、ウェイルの予想通りの株主総会開始の宣言。


「始まったんだ、ついに株主総会が!」


 ウェイルの懸念通り、予定時間よりも早く株主総会が開始された。


「…………っ!!」


 イルアリルマは決心した。

 今こそ、ウェイルに頼まれた自分の役目を実行する時だと。

 持っていたマッチに火をつけ、爆竹に点火。

 それを上空目がけて投げつけた。



 ――パパンッ!! パァンッ!!


 爆竹は派手に炸裂し、爆音と共に煙が空に上がった。





 ――●○●○●○――





 大きな炸裂音と共に、モワモワと煙が上がっていく。

 何事かと周囲が騒然とする中、私は全力で走った。


 騒ぎを聞きつけ、走る私の姿を見て、危険な殺気は容赦なく私へと向けられた。

 だから逃げる。とにかくウェイルと合流するために。

 幸い、私は半分とはいえエルフの血が流れている。

 だから人間よりも、基礎的な身体能力は高い。

 簡単には追いつかれることはない。

 そう高をくくり、油断したのが失敗だった。


(あ、あれ……?)


 ふわりと、私の体は宙を舞う。

 そう、私には視力がない。

 人の気配を感じて避けることは出来るが、地面に出来たちょっとした段差には気配がない。

 足が引っ掛かり、つまづいて転んでしまった。

 まずいと思って立ち上がろうとした時には、もう遅かった。

 迫りくる殺気に足が竦む。

 耳障りな笑い声に、汚い言葉の数々。

 初めて自分の良すぎる聴覚を恨んだ瞬間だった。

 数秒以内には囲まれ、そのまま男達に蹂躙されてしまうだろう。

 そんな現実が、足音と共に近づくのが判ると、恐怖で心が支配された。


「いや、いやああああああッ!!」


 脳裏を埋め尽くしたのは、奴隷に堕ちた母の姿。

 その悲惨な姿は実際には見たことがないけれど、想像には容易い。

 母もこんなに怖い経験をしたのか。

 そう思えば思うほど、母に対する憎しみは薄らぎ、奴隷商への憎しみは募っていく。


「おい、姉ちゃん。我が社の株主総会前に、一体何の騒ぎを起こしてくれたんだ?」


 案の定、イルアリルマは見下してくる男達に囲まれた。

 その全員が、先日に対峙した柄の悪い男達。

 リベア社の護衛についていた連中だ。


「爆竹って、遊びでも許されることじゃねぇよな? 誰かが怪我したらどうするんだよ?」

「ここは安全第一の銀行都市スフィアバンク。危険物の持ち込みは違法だぜ?」

「俺達は株主総会の邪魔する奴は絶対に許すなと言われている。覚悟するんだな……!!」


 男の一人が、ひざまずくイルアリルマに向かって足を振り下ろした。

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