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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第二部 第八章 銀行都市スフィアバンク編 『株主総会での決戦!』
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それぞれの一週間

「アレス様。ウェイルに電信を打っておきましたよ」

「よし。あいつのことだ、上手くやるだろう。……しかしながら、これほどの上空を飛ぶのは生まれて初めての経験だ。まさか龍が実在したとはな……」


 王都ヴェクトルビアが、リベアの手に落ちて一週間。

 元王となったアレスは、なんとかヴェクトルビアからの脱出を果たしていた。


「あら、アレス様ってば気づいてなかったんですねぇ。とっくに気づいていたと思ってましたけど」

「何のことだ!?」

「アレス様は、もう何度も龍を見ているんですよ?」

「そ、そうなのか!? いつだ!?」

「ほんの数日前です。ま、そんなことはどうでもいいです。それにしてもリベアの連中、無茶苦茶しますよねぇ」

「まさか我がヴェクトルビアが乗っ取られようとはな……。だが、必ず取り戻す。取り戻せる。これも全てお前のおかげだ。……しかし、どうして戻ってきたのだ? ――フロリアよ」


 隣に座って笑っている彼女を見て、アレスは疑問を投げかけた。

 ヴェクトルビアが買収される寸前に、アレスの前に現れたフロリア。

 裏切られた苦い記憶が蘇り、最初こそは警戒していたものの、少し話してみると、やっぱり親しい頃のフロリアがそこにいた。

 フロリアは新リベア社の思惑を、包み隠さずアレスへ語った。

 それどころか、リベアの手が回る前に、脱出を図ってくれたのだ。

 

「どうしてですかね? 私にもよく判らないんです。でも一つだけ言えるのは、アレス様に仕えていた頃が一番楽しかったんですよね。毎日が刺激的で、芸術的で。だからだと思います」

「……そう、か。奇遇だな。実はワシもそう思っていた」

「気が合いますね」

「腹黒い女が好みなのかも知れんな」

「アレス様の悪趣味ですねぇ」

「同感だ。でないとお前さんの相手なんぞ出来るものか。事件が終わった後、ゆっくり語り明かすとしようか」

「そうしましょう」


 フロリアは、いつだってこの調子。

 思えば、当時から自由奔放な部分はあった。

 フロリアが自分を助けてくれた目的は何にしろ、彼女は自分にとって大切な人間に違いはない。

 それは当時も今もだ。

 夜の上空、久しぶりに懐かしい会話を楽しんだアレスだった。





 ――●○●○●○――





「師匠! これで大体全部回ったよ! これで大丈夫だよね?」

「ああ。おそらくは問題ないだろう。これで奴らを牽制できる」


 ギルパーニャとシュラディンの二人は、とある人物を伴って、独自に行動を始めていた。


「しかし、本当に助かりましたよ。――ヤンク殿」

「いやなに、常連客(ウェイル)の師匠の頼みとあっては、聞かないわけにもいかんしなぁ。それにこれはビジネスを広げるいいチャンスだったよ。アンタらの為というより、自分の為にやったことだ」

「そう言ってもらえると助かります。それで、当日はどうします?」

「俺はすでに隠居した身だ。行ったところで何の力にもなれん。その代わり、こいつを渡しておく」


 ヤンクは一通の封筒を取り出して、シュラディンに手渡した。


「……いいのですかな?」

「ウェイルの野郎には借りがあるからな。師匠を通じて返したってことでよろしいか?」

「ラッハッハ、全く構いませんぞ! そういうことなら使わせてもらいましょう」

「師匠、急ごう! 汽車が来るよ! ヤンクさんもまたね!」

「ああ、ギルちゃん。またうちへ泊りにおいで」

「はい! フレスと一緒に、また!」


 起死回生の切り札をしっかりと握りしめ、シュラディンとギルパーニャは汽車へと乗り込んでいった。

 




 ――●○●○●○――





「――メイラルド、状況はどうなのです?」


 ――王都ヴェクトルビアの王宮。


 すでに新リベア社の本社社長室として占拠した謁見の間で、四人の声がこだましていた。


「概ね順調です。現在我々が所持しているリベアの株式は43%。リベア系列の子会社が持つ株が11%。これだけで過半数に上ります。残りの46%は一般投資家ですが、その大多数は我々の営業方針に賛成の意を示しておいると思われます。すでに6%の投資家からは委任状を預かっておりますので、実質我々が持っている株の割合は60%。我々を邪魔できるものは皆無と言えましょう」


 四人の中で、唯一の女性であるメイラルドは、淡々と状況を説明しながら、縁の太いメガネをクイッと持ち上げ、掛け直している。

 若さと、その美貌を生かして貴族へ取り入り、ハルマーチ家へ嫁いだ彼女は、当主ハルマーチに対して簡単な暗示を掛けていた。

 ハルマーチが暴走したきっかけ自体は、本人が日頃抱いていたアレスへの嫉妬であったが、そうなるように精神操作を掛けていたのは、他ならないメイラルドだった。


「しかしたった60%だろ。子会社の11%だって委任状があるわけじゃないし、絶対に言うことを聞くわけではない。そこのところ、どう考えているだ? 兄者」


 次の発言したのは、サバルの弟、ジャネイル。

 澄ました態度を取るサバルとは違い、大柄で肉体派な弟だった。


「心配することはありません。子会社が本社を裏切ることはないでしょう。裏切った瞬間、倒産になるのですからね。それにこの株主総会に協力すれば、報酬を弾むと約束しています。進んで報酬を手放すような奴はいないでしょう」

「それならいいんだがな。ほら、スフィアバンクで兄者と話した鑑定士がいるだろ。あいつ等、何かしてこないのか?」

「何も出来やしませんよ。どうせ我が社の株式も所持していないでしょうし、会場に入ることすら出来ないでしょうね。それでも何かしらの手段で邪魔をしてくるなら、それこそジャネイル、お前の出番でしょう」


 それを聞いて、ジャネイルはニタリと笑い、ポキポキと指を鳴らした。


「了解。命はとるつもりないが、事故ってのは起こりうるよな?」

「当然。お前の部下達はいつも血気盛んですからねぇ。何が起こってもおかしくはない」


 ジャネイルの部下とは、スフィアバンクでサバルを護衛していた者達。

 厄介事があれば、いつもジャネイルが部下を引き連れて対処に当たる。


「ユーリ。怪我は平気ですか?」

「あ、ああ。……にしてもプロ鑑定士協会の奴ら、元『不完全』の連中まで抱えていやがったとは……」


 ヴェクトルビアで暴動を起こそうとした男、ユーリ。

 アムステリアの機転と行動によって、暴動は阻止された。

 しかし、その場では逮捕されるレベルの事件は起こしていないため、その身は拘束されなかった。

 代償として、身体中に酷い怪我を負い、情報は抜かれてしまったが。


「その情報、『不完全』側にも流しておいて下さいね」

「すでに流したさ。それにプロ鑑定士協会を脅すための、良い材料が手に入った。実はすでに脅迫状を送りつけている。元『不完全』がプロ鑑定士にしていることを世間にばらされたくなければ、当分の間下手な動きはするな、とな。プロ鑑定士協会が脅しに屈するとは思わないが、多少の効果はあると睨んでいる」

「ふむ。確かにプロ鑑定士協会は厄介ですからね。下手に動かれると困ります」

「サバル。提案があります」

「言ってみなさい、メイラルド」

「私が独自に掴んでいる情報によりますと、やはりプロ鑑定士協会は何らかのアクションを起こしている模様。当日に何かしでかしてくることは火を見るより明らかです。そこでどうでしょう。罠を仕掛けるというのは」

「罠……? 詳細を」

「株主総会をですね――」


 ――そしてそのメイラルドの提案は実行されることになった。

 

 ――会議後。

 新リベア社の幹部四人は、階段を昇り終えると、アレスのコレクションルームへと向かった。


「素晴らしすぎて言葉が思い浮かびませんね……!!」

「一流の品ばかりだ」

「『セルク・オリジン』もどこかにあるはずです。探しますか?」

「総会後ゆっくりと探すとしましょう。……おお!! これが欲しかったですよ。この絵画が……!!」


 アレスのコレクション。

 それは四人がヴェクトルビアを狙った理由の一つでもあったのだ。


「リンネの彫像か。流石はヴェクトルビア王、趣味が良い。……ん?」


 ユーリが気づく。

 コレクションルームの床に、一枚の羽根が落ちていることに。


「……カラスの羽か……?」


 よく見ると黒に近い紫色に染まった羽。


「しばらく掃除をしていなかったのか? それともカラスでも入ったのか?」


 少し妙だとは思いながらも、その羽をポケットにしまったユーリは、他の幹部達と芸術鑑賞に耽ったのだった。



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