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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第二部 第八章 銀行都市スフィアバンク編 『株主総会での決戦!』
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狂人

「さて、お楽しみタイムといこうかしら」


 井戸から水を汲み上げて、男に浴びせかける。


「……グッ……!」

「おはよう。目、覚めた?」


 グイっと顎をつまみあげると、男は苦しげに瞼を開いた。


「お、お前……、一体何者なんだ……?」

「プロ鑑定士よ」


 その言葉に、男はニヤリと笑う。


「プロ鑑定士か。俺に何の用だ?」

「貴方に逮捕状が出ている」

「そいつは嘘だな。俺は何もしちゃいないさ。善良な一般市民だよ」


 はったりだと見抜いたのか、男はアムステリアに対して挑戦的な顔を浮かべた。


「何をするつもりだ」

「知りたいことを教えてもらうつもり。教えてくれるまで痛い思いをしてもらうわ」

「プロ鑑定士が一般市民を拷問するってのか? 大問題になるぞ? いいのか? プロ資格を剥奪されても」


 なんて言い、逆に脅してくる。

 この時、男は知る由もなかった。

 このような生意気な態度を示す相手こそ、アムステリアの大好物だということを。

 アムステリアは、少し顔を紅潮させ、愉悦的な表情で男を見返した。


「私ね、プロ鑑定士の資格に一切思い入れがないの。剥奪されたって全く構わないわ」

「なんだと……!?」

「そんなことよりも……フフ、今は貴方に質問する方が楽しいの。お願いだから簡単には情報を吐かないでね? もしかしたら本音では貴方を拷問したいだけかも。だって、拷問するだなんてとても久々なんだもの……!!」


 言い終わるか早いか、アムステリアは男の右腕を掴んだかと思うと、肘の関節目掛けて膝を振り上げ、そのままへし折ったのだ。


「あがああぁぁ!?」

「あらあら、いい声で鳴くじゃない!!」


 悶える男の顔を右手でギリギリと握り抑え付け、彼の耳元でさらに問う。


「貴方の本当のお名前を教えて? こっちとしてはすでに知っているのだけど、貴方の口から直接解答を聞きたいわ」

「何故プロ鑑定士にそんなこと――――あがあああああああああ!!」


 男は耐えられず絶叫を上げた。

 アムステリアは男の鼻先めがけて拳を振ったからだ。

 鼻の骨は粉々に折れてしまったことだろう。


「ああ、楽しい。そうね。もう少しとぼけてね。楽しみが増えるもの」

「こんなことして、ただで済むとでも……!!」

「はーい、次」

「あが!? あががが……!!」


 右手の中指を、反対方向へ捻じ曲げた。


「どうする? 質問に答える? それとも――私の期待に応える?」


 ここに来て、男はようやく悟った。

 この女は狂っていると。

 普通のプロ鑑定士ならば、立場を大切にし、慎重に行動する。

 もし変な噂でも流布されようものなら信用はガタ落ち。鑑定依頼も回ってこなくなる。

 下手に騒がれることを恐れて、どうせ何もしてこないだろうと、たかをくくっていた。


(……こ、こいつは例外だ……!!)


 あまりにもイレギュラーな存在に、今になって後悔し始める。


「は、話すよ。俺はヴェクトルビアに住む一般人で……。アンタに捕まるようなことは何も……!!」

「あらあら、ここでさらに嘘を付くなんて、いい根性してるわ?」

「それはアンタの勘違いだ……! 俺は本当に……!!」

「ええ、もしかしたら本当にそうなのかもね。でもね、私ったらすでに興奮しちゃっててさ。自分を抑えきれないの。もうどっちでもよくなっちゃった。悪いわね」


 アムステリアの目に光はなかった。

 スイッチが入り、人を捨てた(・・・・・)時のモードになったのだ。


「一つだけ教えておく。私はね、元『不完全』のメンバーなの」

「なっ……!? 奴らの!?」


 これは効いたらしい。

 『不完全』と聞いて恐怖を覚えるのは、奴らのことを熟知している者か、奴らと付き合っている者。

 今の反応だけで、一般市民でないことは明確だった。


「貴方一人殺すことなんて今更ってわけ。もし貴方が私に嘘を付かず、本当のことを教えてくれたら、命までは取らない。でももし嘘を付き続けるなら……――私が満足するまでトコトン付き合ってもらう」


 男は、ついに勘念した。

 元とはいえ、一度は『不完全』に所属していた者。

 この言葉は脅しじゃない。

 むしろ率先してやりたいと思っている人間だ。


「俺の名前は――ユーリという」

「ユーリ。やっぱりね。ユーリ・リグル・リベア本人ね」

「……ああ、そうだ……」


 資料にあった名前と完全に一致した。


「私は貴方、いや、貴方達(・・・)のことを色々と知っている。隠したところで無駄だと理解して」

「……判っている。いいよ、全部話してやる。もう計画はほぼ終わっているからな。今更アンタらに止められることはない」

「へぇ、殊勝な心がけね。でもいいの? もし鑑定士の私に話したら、貴方は一生牢獄入り、あるいは処刑されるかも知れないのよ?」

「俺が何か罪を犯したってのか? 精々兵士を一人殴った程度だ」

「家族、殺してるでしょ?」

「……なんだ、やっぱり知ってたのか」

「言ったでしょう。全て知ってると。今私を試したのね?」

「まあな。今の回答次第じゃ、多少はぐらかしてやろうとも考えたが、これで腹を括ったよ。それに俺は牢獄に行くことも処刑されることも決してない。ここでアンタが俺を殺さなければの話だが。さぁ、何から聞きたい?」


 傷だらけの男ユーリは、ゆっくりと背を井戸の壁にもたれ掛けた。


「どうして暴動を起こそうとしたの?」

「ハクロアの価値をさらに下げるためだ」

「ハクロアの価値を下げて、一体何をするつもりなの?」

「それはな――」


 ユーリが語った真実に、アムステリアは珍しく驚いた。

 まさかそんな計画があったとは、予想だにしていなかったからだ。

 この情報は、直ちにウェイルへ伝えなければならない。

 アムステリアは、ユーリを近くの柱に縛った後、電信を使う為に治安局へと向かったのだった。

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