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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第二部 第八章 銀行都市スフィアバンク編 『株主総会での決戦!』
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暴動阻止

「邪魔よ!! お退きなさい!」


 アムステリアは群衆を蹴飛ばしながら前へ前へと突き進む。


「こんな物騒なもの、こうしてあげるわ!」


 ポケットから小瓶を取り出す。

 以前世界競売協会へ潜入した時にも使った、液体性の爆薬だ。


「怪我したくなかったら、この場からお逃げなさい!!」


 小瓶は綺麗な放物線を描きながら、置かれている武器や爆薬目がけて投げられた。

 一部の者はアムステリアが何をしたか理解できたらしい。

 その場から逃げ出す者が多数。


(念のため……!!)


 予備の小瓶を、今度はもっと上空目がけて思いっきり投げつける。

 そして一つ目の小瓶が、武器や爆薬に落ちる寸前のこと。


「……クッ……!! 危ない……!!」


 最初に兵士を殴った例の中年が、走って小瓶をキャッチした。


「あら、ナイスキャッチ。貴方、それが何か判ってるの?」

「爆発するんだろう!? なんてことしやがる!」

「ねぇ、どうしてそれを守るの?」

「決まっているだろう。暴動を起こすためだ!」

「ダメよ。暴動なんて起こしたら、ハクロアの価値はさらに下がるだけじゃない。それは自分達の首を絞める結果になるだけよ?」


 アムステリアの指摘に、集まっていた住人達も、幾許か冷静になっていた。


「アレス王が情報を隠ぺいしたのは、こういう暴動が起きることを恐れたからでしょ? ひいてはハクロアの暴落につながり、住民達の暮らしも厳しくなる。皆を守るために秘密にしたんだと私は思うけどね? それにアレス王が情報を隠ぺいして、貴方達、何か損をしたの? アレス王は反乱を企てた貴族を厳しく処分したと聞いたわ。それに都市を襲った貴族から民を守ったのも、英雄である鑑定士と、アレス王じゃなくって?」


 その言葉に「確かに」と声が上がる。

 アムステリアの指摘は、皆が心の底では判っていることだった。

 アレスが例の事件で民を守ったことは誰もが知っている。

 現に例の事件では、アレス自らが身体を張って敵と立ち向かい、ボロボロになっていた。

 大怪我を負って尚、民に向けてメッセージを発した姿は、未だ記憶に新しい。

 ハクロアの価値も守られ、高い生活水準も守られたのである。

 隠ぺいといえば聞こえは悪い。

 だが民を守るために仕方なくやったのであれば、その行動の意味は理解できる。


「皆、こんな王宮からの回し者の話なんて聞くな! 俺達は騙されたんだぞ!? 怒って当然、恨んで当たり前なんだ!!」


 アムステリアの指摘に流されつつあった群衆に向かって、男が叫ぶ。

 その主張を、アムステリアは真っ向から否定した。


「あら、私はマリアステルの住人なんだけど? それにアレス王を恨むのはお門違い。恨むなら事件を起こした犯人だけにすべきよ。もっともその犯人はとっくに処刑されていて、この世にはいないかも知れないけど」


 行き場のない怒りは、冷静さを失わせる。

 それは仕方のないことだ。誰だって感情を堰き止めることは出来ないのだから。

 事件で大きな傷を負った人が、誰か悪役を立てて暴れたくなる気持ちも理解は出来る。

 それでも暴動したところで、誰にも利点はない。

 アムステリアはそう民を諭したのだ。


「もう止めましょう。アレス王だって、今ハクロアが大変なことになって、そのことに手一杯のはず。ことが落ち着けば説明をしてくれるわ。だから待ちましょう。それとも何? 貴方達の知っているアレス王は、そんなに信頼できない人物だった?」


 アムステリアの凛とした声は、動揺の広がるこの場にはよく響いた。

 数多くの者は、その言葉に胸打たれ、頷いていた。


 ――しかしだ。

 どうにも理解してくれそうにない――いや、する気が端っからない男が目の前にいる。


「何言ってんだ!! 暴動が起きなきゃ、王は判らない!! それに余所者がいちいちヴェクトルビアのことに口を出すな!!」


 そう主張し始めたのである。


「あら、暴動が起きないと何か困ったことでもあって?」

「それは!! ……死んだ娘が浮かばれない……!!」

「暴動が起きれば娘さんは浮かばれるの? 理解し難いわね。一人でやったら?」

「私一人がしたところで何が変わるんだ!?」

「娘さんが浮かばれるのでしょう? だったらいいじゃない。そうそう、娘さんの名前、なんていうの?」

「そんなこと、アンタには関係ないだろう!?」


 アムステリアは瞬時に見抜く。

 一瞬だが、目線がたじろいだことを。


「そもそも、本当に娘なんているのかしら?」

「な、何が言いたいんだ!?」


 アムステリアは妖艶な笑みを浮かべて、言い返した。


「アンタみたいな不細工に、娘なんているわけないでしょう?」

「こ、このクソ女が……!!」


 どうやら気にしていたことに触れたようだ。

 相当憤慨しているのか、置かれていた武器の一つを手に取る。


「殺してやるよ……!! お前ら、やってしまえ!」


 男が指示を出すと、アムステリアの周囲を数十人の男が取り囲んだ。


「あら、私に対して暴動を起こす気? それが何の意味があるのかしら。でも、いいわ。相手してあげる」


 スッと、アムステリアは体勢を落とし、一瞬にして跳躍。

 その刹那、彼女の正面にいた男は、鼻から血を出して倒れていた。


「な、なんなんだ、この女!?」

「は、速い……!!」

「アンタ達が遅いのよ」


 続いて繰り出したのは足払い。

 スラリと伸びた綺麗な足が、地面に円弧を描く。


「このクソ女が!!」


 すでにナイフを抜いていた男が、アムステリアの背後に迫る。

 男がナイフを振り下ろした時、そこにアムステリアの姿はなかった。


「物騒な奴。お仕置きが必要ね」


 男の背後へと回り込んでいたアムステリアは、彼の股へ向かって、思い切り足を振り上げた。

 蹴られた男には雷の如き衝撃が走り、そのまま泡を吹いて気絶してしまった。

 

 ――それから数十秒後。

 アムステリアを取り囲んでいた男達は、全員地に伏していた。

 揃いも揃って白目をむき 、泡を吹いて気絶している。


「き、貴様……、殺してやる!!」


 代表の男が息を荒げる。

 対するアムステリアの表情は涼しい。


「それは楽しみね。それよりも気をつけなさい?」


 アムステリアが人差し指で地面を差すと、男も視線をそちらへ向ける。


「あら、意外に素直ね。でもウソ。本当は上」


 ――直後。


「グアッ!!」


 男の背後では大爆発が起こり、爆風で吹き飛ばされていた。

 最初にアムステリアが投げていたもう一つの小瓶が、ようやくこのタイミングで落下したのだ。

 爆薬に次々と引火し、連鎖的に小規模な爆発が起きて、武器や弾薬は吹き飛ばされていく。

 爆風が止むと、すぐさま倒れた男を見下した。


「生きてる?」

「……く、くそ……!!」

「ああ、よかった。死んでいたら事情を聞けなかったから。さて、人がいないところに移動しましょうか。たっぷり情報をいただくわよ?」


 アムステリアは代表の男を抱えると、住民が驚いている間に人気のない場所を探して駆けていった。

 残された住人は、ただただ爆発して上がった煙を見るだけだった。

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