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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第二部 第七章 プロ鑑定士試験編 『波乱のプロ鑑定士試験』
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ニーズヘッグの狂気

 ニーズヘッグは座ったまま、顔を上げてウェイルを睨んできた。


「……フレスは、どこに、いるの……!?」

「それも言ったはずだ。教えるわけがないと」

「…………!!」


 それは急変という奴だろう。

 ゆらゆらと立ち上がったニーズヘッグが、腕に魔力を溜めはじめた。


「……フロリア……約束……」

「……そういえばフレスに会いたいから、二人を捕まえてって約束してたね。もういいよ。こうしてウェイルと話が出来たんだから」

「だめ……。フレスに会えてないの……!!」

「フロリア、早くそいつを止めろ!」


 黒き魔力を輝かせるニーズヘッグに、ウェイルも氷の刃を構えた。


「今日、フレスに、会うの……!! 会って、言わなきゃ……!!」

「あわわわ、ちょっとニーちゃん、落ち着いて!」

「フレス……!! ……あああああああああ!!」

「うわぁあ!?」


 中途半端に溜まった魔力が、ニーズヘッグから放出された。

 ニーズヘッグはどうやら軽い錯乱状態になっている様だった。


「ステイリィ、下がれ!!」


 乱れ飛ぶ闇の波動弾を、氷の刃で弾き飛ばす。

 軌道の逸れた波動が本棚に直撃して、本が散乱する。


「ああああ、あああああああああああああ!!」

「どれだけ、魔力を放出する気だよ……!! 近づけん……!!」


 激しく暴れるニーズヘッグに、ウェイルもこれ以上近づくことは出来ない。

 攻撃を捌くだけで精一杯であった。


「ニーちゃん、もう寝てなさい」


 フロリアの手刀がニーズヘッグの後頭部に落ちる。


「…………あう」


 ピタリと大人しくなったニーズヘッグ。

 流石は龍。意識を失うことはなかった。

 代わりに目をぱちくりさせて。


「フロリア……? …………どうしたの…………?」

「ん~ん、なんでもない! さ、ちょっと行くところが出来たから、背中乗せて」

「……判ったの……」


 一時的な記憶喪失なのだろうか。

 フロリアは手慣れた手つきでニーズヘッグに手刀を喰らわせていた。


「この子はちょっと精神的に不安定なことがあってね。制御するのが結構大変なんだよね。そっちの龍が羨ましいよ。じゃあね、ウェイル。また会おうね~!」

「おい、ちょっと待て! この部屋、一体どうしてくれるんだ!!」


 ニーズヘッグの魔力のせいで、家具は破損し書類は吹き飛び、散らかり放題。


「大丈夫だって! 今からもっと散らかるんだからさ!」

「もっと散らかるって……ってまさか!」

「やっちゃって、ニーちゃん」

「……ん」


 容赦のない輝く闇の波動弾が、ウェイルの部屋の壁を一閃した。

 後には大きく、空に繋がる穴が開く。


「じゃね!」


 小さく手を振るフロリアの姿は、何とも腹立たしい。


「じゃね、で済むか、アホ!!」


 ウェイルが叫び終わった頃には、もう二人の姿はなかった。


「……ウェイルさん、あのクソメイドの話に乗って、良かったんですか?」


 伏せていたステイリィが、のそのそと起き上がってくる。


「信頼はしてない。でも、フロリアの言葉で一つだけ信頼してもいい所がある」

「何なんです? それ」

「…………を守る。これだよ」

「はて? 守る?」


 人差し指を口元に当てて考えるステイリィだったが、聞こえていない以上答えは見つからない。


「それよりも部屋の片づけ、手伝ってくれ」

「あっ! そういえば仕事が残っていたんだった! では帰らせていただきます!!」


 ステイリィはシュバっと手をあげて、そそくさと逃げ帰りやがった。


「逃げ足だけは無駄に早い奴め……!!」





 ――●○●○●○――





 ――上空にて。


「……どこへ……いくの……?」

「それはもう決まっているよ。早速この100万ハクロアを使っておかないとね!」

「……フロリア……本当のこと……言ってない……」

「え?」


 フロリアは少しばかり驚いていた。

 ニーズヘッグにしては珍しく、フレス以外のことについて言及してきたからだ。

 だからフロリアはつい嬉しくなって、口が軽くなってしまう。


「まあね。と言っても私、嘘は何一つ言ってはいないよ? ただ、少しだけ情報を隠しただけ」

「……それって……リベアの目的……でしょ?」

「今日はやけに食いついてくるね。そう、私達、本当は知っていたんだよね。リベアの本当の目的。でも、ウェイルには敢えて伝えなかったんだよ」

「…………どうして……?」

「どうせもうじき判ることだし。それにウェイルなら心配ないよ。私が見込んだ男だからね」


 ニーズヘッグとここまで会話を弾ませたのは初めてだ。


「今日はやけに話してくるね?」

「……どうせ……あの鑑定士の近くには……フレスがいる……。フレスに……酷い目に……あって欲しくない……だけ……」


 フロリアは、今初めてこの龍の本質を垣間見た気がした。

 ニーズヘッグは、ただ純粋なだけ。

 それもとびっきりに鮮明、クリアな。

 彼女は何故か、ただフレスのことだけを考えて生きている。

 およそ理解は出来ないが、する気もない。

 途方もない時間の中を生きている龍の精神など、理解出来るはずもない。

 フロリアは、仲間の贋作士からニーズヘッグが過去にどんなことをしたのか聞いている。

 その内容はあまりも残酷で、とても言葉では言い表せられないレベルのことだ。

 ニーズヘッグの行動原理は、それが始まりなのかも知れない。

 だからこそ、ただフレスに会いたい。フレスと話がしたい。それだけを考えている。

 その為ならば、どんなに卑劣なことでも出来る。それがニーズヘッグの純粋さだ。


(危ういねぇ……)


 それはまるでガラスの如く透明な精神。

 しかし、そういうものは総じて脆かったりするのだ。


(こっちに牙を剥かなきゃそれでいいかな?)


 今はただ、フレスを餌に利用すればいい。


「……結局…………どこへ……いくの……?」

「そうだね、まずは――」


 行先とその目的を告げると、ニーズヘッグは一気にスピードを速めた。

 その日、マリアステルでは紫色をした龍を見たと、もっぱらの噂になった。


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