リベア社の実態
「リベアは今、一体どんな実態なんだ?」
大企業『リベアブラザーズ』は倒産したはず。
なのに今でも裏稼業は行われているという。
「あの倒産はね、計画倒産なんだよ」
計画倒産。
名前の通り、わざと会社を倒産させることだ。
顧客から集めた資金をそのまま持ち逃げしたり、従業員の給料を踏み倒したりと、もっぱら詐欺目的で行われる。
「何故だ? リベアは相当な資産があったはずだ。計画倒産をする必要は全くないだろう?」
「それがあったんだよねー。奴らはさ、世間に『リベアは潰れた』と思われることが目的みたいだったし」
「どういうことだ?」
全く持って意図が判らない。
そこまでして世間から隠れる理由があるのだろうか。
「リベアがレギオンの買い付けを行っていること、知ってる?」
「……ああ、知っている」
リベアはハクロアやリベルテなど比較的価値の安定している貨幣を全て無視し、レギオン一本に絞って買い付けを行っている。
価値が暴落するリスクを考えたら、普通そんな無茶はしない。
「リベアの倒産はね、カモフラージュなんだよ。レギオン買い付けの情報を隠すためのね。もっとも、真の目的はもっと大きいことらしいよ。私のとこにはこれ以上情報が来なかったから、噂程度にしか知らないけどさ。ちなみ治安局発表では、リベア創業者一族の大半が死亡。遺体確認のとれていない行方不明者も多数いる」
「新聞にもそうあったな。現場には身元判別不可能なほどに損傷した遺体がごろごろ転がっていたそうだし、行方不明者の生存は絶望的だろうと書いてあったな」
「でもね、実のところ行方不明の連中は生きているんだよ。何人生きているか、までは知らないけどね」
「お前はリベアと多少なりとも繋がりがあるはず。どうして誰が生き残っているなんて情報がないんだ?」
「さっきも言ったけど私は『過激派』の所属。リベアと組んでるのは同じ『不完全』でも『穏健派』の連中らだから。過激派の私には基本情報は来ない。だから噂程度にしか知らないってこと。その噂によると生きている連中は真の目的とやらに注力してるって話だよ」
「買い占めは真の目的への下準備ってことか」
リベアがレギオンの買い付けを行っているということは、すでに情報としてあった。
しかしながら、その動機が全く想像出来なかったのだ。
でも、今の話を聞く限り、その買占めが何かを行うきっかけになるらしい。
真の目的。それは一体何なのか。
「リベアが裏で何かしようとしているという情報が手に入っただけ儲けものだな……」
そんなウェイルの呟きを、ピンと耳を大きくしてあざとく聞き取るフロリア。
「でしょでしょ? これで十分代金は払ったってことでいいよね? その代りに頼み事があります!」
「…………」
思わず無言になるウェイル。
正直、敵であるフロリアの頼みを聞く気など毛頭ない。
たとえ後ろにニーズヘッグが睨みを聞かせているとはいえ、犯罪に手を染めるのだけはプライドが許さない。
息を呑んでフロリアの台詞を待つ。
「――お金ちょうだい!」
「…………は?」
あまりにも想定外のことに、思わず開いた口が広がらない。
「お金だってば、お金! 少しばかり欲しい物があってさ! 今の内じゃないと買えないんだよね~」
「いくらだ?」
「100万ハクロアでいいよ」
「100万ハクロア!?」
あまりにも馬鹿げた価格であるが、どうも冗談で言っているわけではなさそうだ。
ニコニコと張り付いたような笑顔の仮面の下には、鋭い眼光が覗かせている。
「そんな大金で、一体何を買う?」
「それは秘密。でもね、それさえあれば、私はきっとウェイル、貴方を助けてあげられる。……そして…………も助けられる」
最後の方は声が小さくて、あまりはっきりとは聞こえなかった。
「お前が、俺を助けるだと?」
これまで散々命の取り合いをしたフロリアだ。
そんな敵であるはずの彼女が、どうしてかウェイを助けてくれるという。
「そう。助けてあげるよ。今までのことはさ、全部水に流そうよ。私はもう『不完全』には居場所がないし、それどころか命を狙われるかも知れない、か弱い一人の美少女だよ?」
「どこがか弱いんだか……。それにお前がこれまで犯してきた罪はどうする?」
「そんなこと知らないって。命令されてやってた部分もあるし。でもね、今は結構緊急事態だと思うな。ウェイルの下らない正義感で、本当の敵に逃げられる訳にはいかないでしょ? 今はただ目を瞑って、私にお金を渡せばいいの。悪いようにはしないからさ」
フロリアの発言にも理解できる部分はある。
今フロリアをどうこうしたところで、何も解決は出来ない。
リベアが怪しい動きをしている以上、情報を持つフロリアを失うわけにもいかなかった。
話を聞いていたステイリィは、ペッペと唾を吐く真似(実際に唾が飛んでいるからタチが悪い)をして拒否を現している。
「さ、早くお金を貸して!」
ウェイルは金庫のカギを開け、中から札束を取り出して、ドンと机の上に置いた。
「情報提供料という名目で払ってやる。それでいいだろ」
「いいよん」
犯罪者の要求を呑むなど、正気の沙汰ではない。
そのことはウェイル自身よく理解している。
しかしながら、胸騒ぎがしたのだ。
鑑定士特有の感とでも言うのだろうか。
このまま手をこまねいていると大変なことになると。
増してやフロリアの後ろにはニーズヘッグがいる。
圧倒的な武力を背景に要求してきているのだ。
脅迫されていると言っても過言ではない。
「うおお! 確かに100万あるね。ウェイルってば、おっかねっもち~~!」
「茶化すな。もしこれを下らないことに使ったら、お前は俺の手で必ず捕まえる」
「ウェイルに捕まるってのも悪くはないかも! ……でも安心して。私にも目的はあるからさ。変な事には使えない」
札束を受け取ると、フロリアはニーズヘッグの元へ寄る。
「話……終わった……?」
「うん。終わったよ。さ、帰ろうか!」
ぺたりと座り込んでいたニーズヘッグが顔をあげる。
「……フレス……は……?」
「さっきも言ったはずだ。ここにはいない」
ウェイルが答える。
その台詞に、ニーズヘッグの肩がピクリと震えた。




