突然の訪問者
フレス達がヴェクトルビアへ向かった後のこと。
「ウェイルさん!! いますか!? うおおお!? 寝てる!?」
突如扉を開けて入ってきたのはステイリィだった。
「ウェイルさんの寝顔……!! ウヒヒヒヒ……!! 目の保養……!!」
「あ、ああ……。ステイリィか……。顔が近い、離れろ」
仮眠をとっていたウェイルが目を覚まして最初に飛び込んできた光景は、ドアップなステイリィの顔であった。
「ウヒヒヒ……!! 貴方の妻としてこのままチューしていいですか?」
「早く離れろ。起きれないだろう」
「おお、そうだった!! ウェイルさん、早く起きてください! 大変なんですよ!!」
「お前が離れたら起きるよ」
「うぐ、顔を押さないでください。判りました、離れますから」
「そうしてくれ」
ステイリィの真面目で真剣な表情。
この顔をする時は、かなり重要な要件の時だ。
ドアップで、ついでに鼻息が荒くなければ、言うことなしだった。
「それで何か判ったのか?」
何かとは当然フロリア絡みのことだ。
ステイリィもそうだと頷く。
「サスデルセルからの逃走経路は、空でした。奴はウェイルさんの指摘通り龍を連れていますね」
聞くとサスデルセルに張り巡らされている結界が破られたとのこと。
上級魔獣でも破壊不可な結界を崩壊させるほどの力を持つ神獣。
それはもう龍以外に考えられない。
「結界の破壊された場所は、サスデルセルから見てマリアステルの方角だったんですよ。奴らはラルガ教会に潜伏していたようでして」
「……ラルガ教会か……」
ウェイルがフレスと共に戦った最初の場所、ラルガ教会。
悪徳神父バルハー亡き後、教会は放棄されたという。
「教会の天窓が破壊されていたので、おそらくそこから飛び立ったのではないかと」
「間違いないだろうな」
行く先もない彼女達にとって放棄された教会は身をかくすにはうってつけだ。
他教会の人間は絶対に入ってこないだろうし、ラルガ教会信者も放棄された教会へ足を運ぶ者は少ないはずだ。
「クルパーカー戦争の生き残りですよね。気を付けてくださいよ……!! もしかしたら奴ら、プロ鑑定士協会を恨んで……!!」
その可能性は否定できない。
クルパーカー戦争での復讐に、協会本部へ攻撃を仕掛けてくることだって、あの二人なら躊躇わずやってくるだろう。
「……すぐさまサグマールに連絡を――」
「――それはちょっと困るなぁ、ウェイル」
「――なっ!?」
「ん? ……って、えええ!? もう来た!?」
ウェイルがサグマールへ報告しに行こうと立ち上がった時だった。
ステイリィが開けっ放しにしていた扉から、話の中心人物が入ってきたのだ。
「……フロリア!!」
「ごきげんよう、ウェイル」
彼女の背後には、紫の髪を携えた浮浪児のような少女。
闇の神龍――ニーズヘッグだった。
「……クソッ、まさかこんなに早く……!!」
すぐさま神器『氷龍王の牙』を展開し、刃を構える。
「この部屋の女子率が大幅アップ!? おのれ、ウェイルさんの女は私だけでいいというのに!!」
ステイリィは、そんな意味不明な理由でナイフを抜いて、臨戦態勢となった。
武器を構える二人に対し、フロリアの余裕な笑みを浮かべる。
それどころか、腹を抱えて笑い出す始末だった。
「アハハハハ!! ウェイル、まさか本気で私達と戦うつもりなの? それとそっちのおチビちゃん、面白すぎ!」
「誰がチビじゃああああ!!」
「ステイリィ、落ち着け。奴の後ろを見ろ!」
背後にいるニーズヘッグに目を向ける。
あまりにも無表情で、かえって気味が悪いほどの少女。
「あ、あれが、龍……!?」
「そうだ。気を抜くなよ……!!」
龍の放つ圧倒的な殺気。手汗が滲み、胸がスーッと冷たくなっていく。
「ねぇ……、フレス……どこ……?」
ぶつくさと独り言を呪文のようにつぶやき、その手をウェイル達に向けた。
「答えて欲しいの……!! フレスは、どこ……!?」
「教えるわけがないだろう……!!」
「そう……、なら……死ぬの……?」
「こら、ニーちゃん。や・め・な・さ・い!!」
輝く闇を集め始めたニーズヘッグを、フロリアが制する。
フロリアの命令に素直に応じたニーズヘッグは、魔力の集中を止めて手を下げると、その場にぺたんと腰を下ろした。
「ウェイル、そっちも武器を下ろしてよ。ね?」
フロリアの頼みを聞くのは癪だが、これを拒否すなわち戦いになる。
そうなれば龍を味方にしているフロリアに勝てるはずもない。
悔しいが従わざるを得なかった。
「……何をしに来た、フロリア」
単刀直入に尋ねる。
「話し合いだよ」
澄ました顔でフロリアは答えた。




