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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第二部 第七章 プロ鑑定士試験編 『波乱のプロ鑑定士試験』
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いざヴェクトルビアへ

 翌日、第三試験の内容が発表された。

 その内容とは、100万ハクロア以上の価値がある芸術品の鑑定を行うこと。

 芸術品の鑑定を請け負い、その結果を元に公式鑑定証書を作成しなければならない。

 また協力者の了解を得て、公式鑑定書と共に鑑定した芸術品自体もプロ鑑定士協会に提出しなければならない。

 もし協会での再鑑定時に100万ハクロアの価値がなければ、その時点で試験は不合格となる。


「き、厳しいね……」

「しかもこのルール、裏ワザが使えないようになってるよ」


 試験内容が発表されている掲示板には、次のような注意書きがあった。


『第三試験において、本試験受験者の所有物を鑑定することは出来ない。必ず試験関係者以外の協力者を見つけ、鑑定を行うこと』


 元々100万ハクロア以上の公式鑑定書が付いた芸術品を購入し、そのまま書き写すことを禁じたこのルール。

 受験者同士が互いの所有物を鑑定しあう、第二試験後にウェイルが教えてくれた方法と似たような裏ワザすら、今回は禁止されていた。


「うう……。せっかく300万もあるんだから、高い芸術品を買ってしまおうと思ってたのに……」

「やっぱり卑怯なことはダメなんだって」


 今度こそは楽をしようと思っていたフレスだが、これでは出来ない。


「試験期間は三日間しかないんだ。三日後の午後六時までだって」

「今回は早く動かないとね! さあ、早速行こうよ!」

「あ、ウェイルに一言言っていかないと」

「そだね」


 掲示板をしっかりと確認した後、ウェイルの自室へと戻ってきた。


「ウェイル! ボクら、これから三日ほど留守にするよ!」

「第三試験だな。了解した。何か事件に巻き込まれたらすぐに電信を打てよ」

「うん! じゃあ行ってくるね!」

「判った。 ……って、おい! ドッグタグ、忘れてるぞ!」


 机の上に置きっぱなしになっていたドッグタグを掴むと、二人に投げてやる。


「……おっと、忘れてた! じゃあ改めて行ってくるね!」

「頑張ってこいよ。ギル、フレスを頼むな」

「任せてよ、ウェイルにぃ!」


 慌ただしく準備をすると、二人は仲良く部屋を飛び出していった。





 ――●○●○●○――





「さて、しばらく静かになるか……」


 うるさい住人がいなくなると、いつもの部屋が妙に広くなったように感じた。

 やっと静寂を楽しめるかと思ったが、


「……いや、また喧しい奴が来るんだったな」


 昨日の夜のことを思い出す。


 ――ウェイルの元へ、一通の電信が届いたのだ。


 差出人はステイリィ。

 直接話さなければならないことがあると。

 しかもそれは急を要する事であると。

 それだけが端的に書かれていた。 


「……奴ら絡みには違いなさそうだけどな……」


 また何か事件があったと考えると憂鬱にもなる。

 ウェイルは大きくため息を吐くと、ステイリィの到着まで休んでおこうと、椅子に深く腰を掛け、ゆっくりと瞼を閉じたのだった。





 ――●○●○●○――





「ねーねー、ギル。そういえばボク、どこへ行くのか聞いてなかったんだけど。どこへ行くの?」


 試験開始から3時間。

 二人は汽車に乗って、移動をしていた。

 外の景色を眺めながら、ギルパーニャに問う。


「100万ハクロアもするような芸術品が集まるところなんて、滅多にないからね。だからありそうなとこへいく」

「マリアステルの方がいいんじゃない? 競売都市なんだからさ」

「そうだけど、競売って結構時間が掛かるし、何よりライバルが多いでしょ? 良い品はすぐ他に人に取られちゃうよ。だから少し離れたとこに行きたかったんだ。かといってリグラスラムへ戻る時間もないし、目的地は時間的に見ても丁度いいところだよ」


 揺れる汽車から見える景色。

 この景色に、フレスは見覚えがあった。


「もしかしてヴェクトルビア?」

「正解。王都ならお金持ちも多いし、良い品物がたくさんあると思ってさ!」


 ヴェクトルビアには多くの貴族が住んでいる。

 となればレベルの高い芸術品があるのは必然と言える。


「……でもお金持ちの人達は、ボクらに芸術品の鑑定をさせてくれるのかな……?」


 フレスの心配事はもっともだ。

 何せ何度も言うが富豪なのだ。

 自らが所有する芸術品くらい、すでに公式鑑定は終わっているだろう。

 それをフレス達のようなアマチュアの鑑定士に、再鑑定など依頼するだろうか。


「だ、大丈夫だと、思う……多分……」


 途端に表情が暗くなるギルパーニャ。

 確かに高価な芸術品はたくさんあるだろう。

 しかし、それを二人に鑑定させてくれる人がいるかどうかは別問題だった。

 そんな単純な問題に今更気づいたというわけだ。


「な、なんとかなるよ! 金持ちがたくさんいるんだから、一人くらいはさ! それに私達、ウェイルの妹弟子に、本物の弟子でしょ? 師匠の名前を出せば大丈夫だって!」

「ボクらがウェイルの弟子だって、どうやって証明するの?」

「そ、それは……。雰囲気?」

「判るわけないでしょ!」

「あううう……。そうだよねぇ……。……もしかして、選択を間違えた……? そうだ、コネだ! 誰か知り合いがいれば!」

「ギル、ヴェクトルビアに知り合い、いるの?」

「……い、いない……」

「……なんだか、いつものボクとギルが入れ替わったみたいだ……」


 なんだかギルの姿が普段の自分に見えてきた。

 そして普段はこんな姿をウェイルに見せているのかと、フレスは苦笑する。


「ど、どうしよう……。私、ヴェクトルビアに知っている人なんていなかったよ……」

「う~ん。知り合いがいなくても、オークションハウスにでも行けば一つや二つ鑑定させてくれるかも……。あれ? ……知り合い?」


 フレスの頭に浮かぶ、ヴェクトルビアでの知り合い。


「あっ!! そういえばボク、知り合い、いるよ!!」

「……え? そうなの? その人お金持ちなの?」

「お金持ちどころか、王様だよ?」

「……へ? …………おう、さま…………?」


 言葉の意味が理解出来ず、目が丸くしたギルパーニャ。

 唐突な発言に信じられなかったギルパーニャは、フレスの顔へと手を伸ばし、ほっぺをつねった。


「いひゃい! いひゃいよ! ギル!」

「ちょっと、フレス! 私をからかってるの!?」

「かりゃかってなんかいないよぉおお! いひゃいいひゃい!」


 つねる手を離すと、フレスは涙目で赤くなった部分をさする。


「本当なの? その話。夢じゃないよね?」

「ううう……、ギル、酷いよ……。ボクとウェイルは以前、鑑定依頼を受けてヴェクトルビアに行ったんだよ。ウェイルはアレス王と知り合いみたいでさ。その時大きな事件に巻き込まれたんだよ」

「……そういえば師匠が言ってたっけ。ウェイルにぃがヴェクトルビアを救ったって。師匠、新聞を見ながら御機嫌だったなぁ……」

「その事件、当然ボクも一緒に行ったんだよ! だからアレスと知り合いなの!」

「そういうことだったんだ。なるほど。納得したよ! なら王のところに行ってみようよ! 何か鑑定させてもらえるかも知れない!」


 何とかこれからの目途が立ったことに、ギルパーニャは安堵しつつ、椅子に深く腰掛けた。


 ――目の前の殺気を無視してしまおうと。


「ギ~~~~~ル~~~~~~~??」

「わ、私、ヴェクトルビアまでお昼寝するね! 到着したら起こしてね!」

「知るか~~~~!! 仕返しだぁ~~~~!!」


 目を赤く滾らせたフレスが手を伸ばしてきた。


「い、いひゃいいい!! いひゃいって、ふゅれす~~~~!!」

「問答無用~~~!! うりゃうりゃうりゃうりゃ~~~!!」

「いひゃいって! もう、こうなったらやり返してやる! おりゃあああ!!」

「負けないもんね! うりゃりゃりゃりゃああああ!!」

「……お客様、客室ではお静かにお願いします」

「うりゃうりゃうりゃうりゃ~~~~!!」

「おりゃおりゃおりゃおりゃ~~~~!!」

「……お客様……!!」


 その後、汽車の車掌さんに二人揃って叱られたことは言うまでもない。


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