フレスの金策？
次の日。
二人は朝早くから金策に走っていた。
ギルパーニャは、オークションハウスにて、落札してはすぐ出品するという繰り返しで、少しずつ。
そしてフレスはというと、
「ムムム……。ウェイルの金庫、難しいなぁ……。協会内にドロボーなんて滅多に入らないのに、何も五重ロックの金庫なんて使わなくてもいいのに……」
なんてそのドロボーみたいな行為をしている癖に、そう文句垂れていた。
自慢の耳で金庫の鍵の音を確かめながら、慎重にノブを回す。
「確かボクが買った株券を保管するときに、番号を見たはずなんだけど……」
一瞬チラリとだけしか見ていないから覚えているはずもなかったので、手探りで正解を探していく。
「あ、今音がした……！」
中からカチッと音がする。三つ目の錠が開いた音だ。
「フー、後二つかぁ……」
「……何が後二つだって？」
「そりゃあ、鍵のことだけど――――って、うみゃああああ!? ウェイルゥゥゥゥッ!?」
「この大馬鹿者!!」
「ぎゃう!!」
容赦ない拳が脳天に振り下ろされた。
「い、いひゃいよぉ……」
「まさか弟子が泥棒になっていたとは思わなかったぞ……」
「違うよぉ！ ちょっとお金を借りたかっただけだよぉ！」
殴られたところを撫でながら抗議する。
「勝手に借りるのは泥棒と同じだろうに」
「むぅ、いいじゃない。ちゃんと返すつもりだったんだから！」
「そういう問題じゃないだろう。……それで、どうしてこんな真似をしようとした。何故金が要る？」
「試験に合格するため！」
「それは判る。しかし一体何に使うつもりだよ」
「あのね、買うんだよ」
「何を？」
「壺を」
それからフレスは、ウェイルに昨日話し合った作戦について説明した。
「……なるほど。なかなか面白い作戦だ。よく考え付いたな」
「でしょ？ だからお金貸して！」
「そりゃダメだ」
「むぅ！ どうしてだよ！」
「あのな、確かに面白い作戦だとは思うが、成功する保証はどこにもないだろう？ そんなギャンブルのような作戦のために大金を貸せるもんか！」
「……絶対成功させるもん！」
「だからそんな保証は――」
「させるもん！」
こうなってしまってはテコでも動かないのがフレス。
どうしたものかと悩んでいると、突如ピンと閃いた。
「……判ったよ。貸す。貸してやる。その代り条件がある」
「条件？」
「そうだ。今回俺がお前に貸してやる代わりに、担保を取らせてもらう」
「……何を？」
「お前の持つ、リベア社の株券だ」
フレスは大量のリベア社の株券を所持している。
会社が潰れた今、その価値はほとんどゼロと言っていい。
しかし、どうも気になっている。何せリベアの株だ。
今後何かに使えるかも知れない。そう思ったのだ。
「どうする？」
「……いいよ。で、いくら貸してくれるの？」
「80万ハクロアまでなら貸そう」
「80万!? そんなにいいの!?」
「どうする？ 80万、借りるか？」
「もちろん借り受ける!!」
こうして何とかフレスはお金を得ることが出来た。
ウェイルから80万ハクロアという大金を借りたフレスは、意気揚々とギルパーニャとの待ち合わせの場所へ向かったのだった。
「このリベア社の株。もしかしたら何かに利用出来るかも知れないからな……」
フレスが騙されて購入した大量のリベア社の株式。
これが後に、本当にこの大陸を救う切り札になるということを、今のウェイルには知る由もなかった。
――●○●○●○――
「ギル！ お金集まったよ！」
「私も！」
二人が集めた合計金額、およそ100万ハクロア。
「ええ!? フレス、そんな大金一体どうやって手に入れて来たの!?」
「えっへん！ 凄いでしょ！」
「凄いよ！ 80万ハクロアも集めてくるなんてさ！ 天才だね!!」
「う、うん、ありがと……」
ギルパーニャから降り注がれる尊敬の眼差しに、ちょっとばかりの背徳感。
ウェイルから借りたなど、言えるはずもなかった。
「……ギ、ギルこそオークションだけで20万ハクロアも稼いだの？」
「ううん。実はオークションでは5000ハクロアくらいしか稼げなかったからさ。さっきまでカジノにいたんだよ！」
「さ、流石ギル。勝負強いね……」
「あーあ、今日、結構は調子良かったし周りも弱かったから、時間さえあればもっと大勝できたんだけどなぁ。試験があるから仕方なく切り上げて来ちゃった。勿体ない」
（……鑑定士よりギャンブラーの方が向いているんじゃないの……？）
なんて思っていても口には出せない。
「よーし、勝負はこれからだよ、フレス！」
「うん！」
それから二人は、とある噂を広げるために都市中を駆け巡ったのだった。
