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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第二部 第七章 プロ鑑定士試験編 『波乱のプロ鑑定士試験』
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ウェイルの誓い

「なぁ、ウェイルよ。『不完全』はお前達がクルパーカーで鎮圧したのじゃないのか?」


 最初に口を開いたのはシュラディン。

 彼はクルパーカー戦争での出来事は、以前ウェイルから聞いた話や、新聞報道で読んだ情報程度しか知らない。

 詳しい説明を求めてきた。


「戦場にいた『不完全』構成員はほぼ全員逮捕した。ある一人を除いて」

「フロリアね?」

「そうだ」


 アムステリアの確認に、ウェイルはコクリと頷いた。


「ちょっと話が大袈裟過ぎんか? そのフロリアとかいう奴が一人で逃げたところで、一体何が厄介なんだ? 贋作士の一人や二人逃がしたところで大したことになるとは思えんぞ」

「それが大したことになるのさ。何せフロリアは世界競売協会の重役の、切断された指を持っているんだからな」

「ルミナステリアが奪った指は、今フロリアが持っているの!?」

「実は重役の指一つがサスデルセルで発見された。奴はサスデルセルへ逃げ込んだんだ」

「……そう、なのね」


 アムステリアは複雑そうな表情を浮かべていた。

 何せその指を奪ったのは実の妹であるルミナステリアだからだ。

 妹の行った悪行が、今尚この大陸に危機をもたらす、その引き金になっている。

 姉としてこの件は自分でケリをつけると、そう誓っていた。


「……世界競売協会重役の指ともなれば確かに危ない。だがな、それも結局はそこまで大した影響にならないぞ? 悪用される危険性はあるが、両協会がその辺をざるにする訳はない。指が悪用されるのを全力で阻止するはずだし、敵もそのくらい承知しているだろう」


 シュラディンは、この問題はそこまで大きくないと主張する。

 彼の言い分は正しい。

 指の盗難の後、両協会はすぐさま証明に必要な拇印の持ち主を変更した。

 奪われた指で出来るのは、クルパーカー戦争以前の偽証明書の発行程度だ。

 プロ鑑定士がいれば見抜くのは比較的容易い。

 それでも由々しき事態ではあるのだが、ただちに大陸経済に影響が出るかと問われれば、そこまでではない。


「師匠の言う通り、俺達プロ鑑定士がしっかり贋作を見破れるなら、そこまで大きな影響は出ないだろうな。だが問題はもう一つある」


 ウェイルはおもむろに指を一本立てた。


「フロリアには龍がついている」

「なっ!? 龍だと!?」


 龍と聞いて、シュラディンの顔色が変わった。


「ウェイル、それはどういうことだ!? 龍がついているだと!? 確かお前さんが以前話をしてくれた時、龍同士が壮絶な戦いをしたと言っていたな。だがそこで決着はついたのではないか!?」

「確かに着いたよ。その場ではな。敵の龍はまだ生きていたんだよ。闇の神龍――ニーズヘッグ。フェルタリアを襲った黒き魔龍だそうだ」

「な、な、……なんだと……!?」


 シュラディンは昔、フェルタリアにいた。

 そこで当時封印から解かれていたフレスを会ったことがあるという。


「……あの時のニーズヘッグが……!?」


 ウェイルは、シュラディンが少し狼狽えているように見えた。

 だがそれも無理はないこと。

 シュラディンとてフェルタリアで生きていた以上、ニーズヘッグは恐怖の対象でしかない。

 その黒き龍は、シュラディンにとっても故郷を潰した元凶なのだから。

 ウェイルは幼かった故、記憶が乏しい。

 ニーズヘッグに関する記憶はないし、恐怖もない。

 ウェイルが『不完全』を恨む理由は故郷を潰されたことにあるが、ウェイルは当時幼かったため、直接被害を受けた記憶はない。

 ただあるのは、脳裏にこびりついて離れない、あの『音の消えた光景』だけだ。


「ウェイル、フレス譲ちゃんが戦ったのは、そのニーズヘッグなんだな?」

「ああ、そうだ」

「そうか……。さぞかし辛かったろうな……」

「確かに辛い戦いだったよ」


 そう言う意味じゃないんだがなと、シュラディンが小さく呟いたのをアムステリアは聞いた。


「フロリアはニーズヘッグと共にサスデルセルの警備を突破し、再び逃走した。奴らは『不完全』の中でも過激派だ。今更穏健派と手を組むために合流するとは、考えられないことではないが可能性は低い。おそらく今も二人きりで逃げている。何か新たに目論むかも知れないし、自棄になってニーズヘッグを暴れさせるかも知れない。そうなった場合、都市一つの壊滅じゃ済まなくなる」


 ニーズヘッグ、いや、そもそも龍という存在そのものが大変危険なのだ。

 それこそフレスやサラーだって、本気で暴れようものなら、下手をすればアレクアテナ大陸そのものが崩壊しかねない。


「……ウェイルよ。そのフロリアとか言う者達の行きそうな場所に心当たりはあるのか?」

「それがさっぱりでな。だが奴らも追われている身。それにニーズヘッグは先の戦争で大きなダメージを受けている。今すぐ暴れられるかと言えば、それはないはずだ。早急に対策は講じないとならないが、敵がどう行動してくるか判らない以上、それも限界はある」

「『不完全』過激派復活……。あり得るのかもしれないわね」


 過激派のリーダーであったイングは、すでに治安局によって処刑されている。

 しかし、その意思を次ぐ者がいないとも限らない。

 それに穏健派のこともある。

 アムステリアがいたころの『不完全』とは内情が大きく違う可能性もある。

 迂闊な行動はとれない。


「奴らの復活はあり得るし、龍がいる以上、一度何か起きれば大変なことになる。それだけを頭に入れておいて欲しい。そして何かあれば俺達に力を貸してほしいんだ。ニーズヘッグとフロリアは、必ず俺とフレスの手で倒さなければならない。よろしく頼む」


 ウェイルが頭を下げると、シュラディンが肩を叩いてくる。


「弟子が無茶をするのを止めるのも師匠の役目だ。フレスちゃんが無茶をしそうなら、お前が止めてやるんだ。ニーズヘッグに関係することは特にな。フレスちゃんのこと、しっかり守ってやれよ。……と、まあお師匠である俺が、弟子であるお前を無茶させてるんだからあまり説得力はないけどな」

「ウェイル。フロリアの件、私も探ってみるわ。もし穏健派と接触するのであれば、すぐに察知できるし。問題はイレギュラーな行動をされると困るってことだけど、そっちもあのチビ治安局員と手を組んでどうにかしてみる」


 チビというのはステイリィのことだ。本人が聞いたら憤慨するだろう。


「ああ、頼んだよ」


 『不完全』過激派は完全に死んではいない。

 それは自分のミスでもある。

 ウェイルは必ず自分の手で奴らを倒すと誓ったのだった。


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