表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第一部 第一章 教会都市サスデルセル編 『龍の少女と悪魔の噂』
23/763

悪魔の噂の黒幕

 ――世にも珍しい花がある。

 身体の内側から咲き誇る、凍り付いた血の花だ。

 サスデルセルを恐怖にどん底に叩き落としたデーモンからは、深紅に染まった花が咲いた。 

 その光景に、ウェイルはしばし唖然とし、そして花を咲かせた張本人へ視線を移す。


下級デーモン(レッサー・デーモン)の癖に、ボクの師匠をいじめるなんて、許せない」


 フレスは笑顔を浮かべて、ウェイルへ手を差し伸べた。

 その小さな手を握り、ゆっくりと立ち上がる。


「ウェイル、無事? ヘロヘロみたいだけど」

「……ああ、お陰様で何とか無事だ。そんなことよりフレス、今のは一体何なんだ!? 神器でも持っているのか?」


 デーモンの絶命の仕方は、明らかに普通じゃない。

 体内からツララを生やせる神器なんて、見たことも聞いたこともない。


「神器じゃないよ? ボクの魔力で、あいつの血液を一瞬にして凍らせてやっただけ。そしたら血液はツララになって体内を切り刻み、突き破ったってこと。ボクは水や氷を司る龍だからね。これくらいは朝飯前だよ!!」

「……そ、そうか……、流石だな……」


 さらっと、恐ろしいことを口にしたフレス。

 フレスは龍だという実感を、心の底から刻まれたウェイルであった。


「お互い命を助けられたな。ありがとよ、お嬢ちゃん」


 ハンマーを杖代わりにしてヤンクが歩いてくる。

 ヤンクは事の一部始終を見ていたはずだが、フレスのことについて何も言及してこない。


「ヤンク、今のを見て何も訊かないのか?」

「ああ、訊かないさ。『客の詮索はしない』がモットーだからな」

「女性関係以外は、だろ?」

「ガハハ、その通りだ!」

「そういえばステイリィは?」

「あいつなら治安局へ報告しに戻ったぞ」

「そうか」


 ウェイルはそのまましばし身体を休めるために座っていたが、ある程度体調が回復したところでラルガポットの噂を思い出して、襲われた二人に事情を聞くことにした。


「フレス、助けた二人はどこだ?」

「あそこに座ってるよー」


 フレスは彼らを狭い裏路地に隠したようで、二人は今もそこで腰を抜かしていた。


「お前達はラルガポットを持っているのか?」

「持っているわけないじゃないですか!! 買えるわけないですよ!! あんな高価なもの!!」

「……確かにそうだな」


 今現在、ラルガポットの価格は超高騰している。

 一般市民が、おいそれと手を出せるほど安価ではない。


「どういう風に襲われたんだ?」

「どういう風にって……本当に突然襲われたんですよ!! 赤い光が地面に走ったと思ったら、そこから奴が飛び出してきて!!」

「……赤い光から出てきただと?」

「そ、そうですよ! あれは一体何なんですか!? ま、まさか誰かが召喚術(サモンパクト)を使っているんじゃ……!?」

「いや、それはちょっと違うな」


 ――赤い光が走る。


 この現象をウェイルは知っている。


「……なるほど、その手があったか」


 発想の転換だ。

 というか今までどうして気づけなかったのか。


「ねぇ、ウェイル。ラルガポットって何?」

「あれ? 知らないのか?」

「うん。それって結構最近の神器でしょ? ボクが詳しいのはもっと昔の神器だから」

「そうか。そういえばラルガポットは人工神器だったな。お前が知らないのも無理はないか」


 考えてもみれば、フレスとは先程出会ったばかりで、この都市に蔓延る悪魔の噂について、何一つ話してはいなかった。

 フレスはすでに事件の当事者なわけだし、何より弟子である。事件解決に一役買ってもらわねばならない。

 現代のことに疎いフレスに、ラルガポットおよび人工神器について説明してやった。


「ラルガポットというのは、ラルガ教会が製造している真銀(ミスリル)製の神器だ。魔除けの効果があるとされている」

「本当にそんな能力があるの?」

「一応わずかにだが魔力を放っているぞ。ラルガポットは人工神器だからな」

「人工神器? 人間も神器を作れるの?」

「ああ。といっても少量の魔力を操れる程度の代物だが。旧時代の神器に比べたらおもちゃみたいなものだ」

「へぇー。人間って、そんなおもちゃを欲しがってるの?」

「色々とあってな」


 徐々に事件の全貌が見えて来た。

 悪魔の噂と、実際に戦った経験。

 そして赤い光。

 

「しかし、まさかな……」

「何か気がついたの?」

「ああ、お前のおかげだ。フレス」


 ウェイルはフレスの頭の上に手を置いて褒めた。

 頭の上に?マークを浮かべているフレスだったが、次第にくすぐったくなったのか――


「むぅ、ボクを子供扱いするのは止めてよ! これでもウェイルより年上なんだから」


 ――と、頬を染めながら手を払ってきた。


 デーモンは赤い光から出てきたという。

 それは召喚術(サモンパクト)の時に生じる光ではない。

 つまり今回現れたデーモンは、召喚術によって呼ばれたのではなかった。


 本来魔獣を使役するのならば、召喚術を用いるのが一番手っ取り早いはずなのにだ。

 逆に言えば、召喚術をわざわざ用いなかったと考えられる。


「召喚術は使えないってことは……」

 

 召喚術という術式は非常に難しく、誰もが扱える術ではない。

 そういう技術的な面で使えないのか、それとも別の理由なのか。

 ラルガポットや悪魔の噂を考慮すれば、その理由は絞られてくる。


「あまり信じたくはないが、辻褄は合うな」


 召喚術を禁忌としている組織が、この都市にはあるではないか。

 状況が状況だけに、その疑念はもはや確信へと変わっていた。


「ねぇ、あの死骸、どうするの?」

「治安局が秘密裏に回収するだろう。こんな魔獣を住民達に見られたら、噂はさらに広がるだろうからな。だが回収される前に確かめておきたいことがある」


 ウェイルはデーモンの死体をくまなく調べ、そして発見した。


「――見つけた。こいつだ」


 ウェイルが手にとったのは、デーモンが身に付けていた首輪だった。


「フレス、こいつを知ってるか?」

「ちょっと見せて」


 フレスはウェイルから首輪を受け取ると、しげしげと見定め始める。


「うん。これなら見たことがあるよ。人や神獣を無理やり従わせる時に使われる神器だ。精神介入系神器(スピリチュアルクラス)で、確か『従属首輪(スレイブ・リング)』って名前だったかな。昔は奴隷商売をしていた人間が使っていた、ボクの大嫌いな神器だよ」

「問題はこいつを使わなければならなかったっていう点だ」


 デーモンが召喚術によって現れたのならば、こんな神器は必要ない。

 召喚術とは原則、召喚された者は、召喚した者に対して絶対服従の契約を交わす。

 では何故このデーモンにはこんな精神介入系神器が装着されていたのか。

 それはこのデーモンを使役している者と、デーモンを召喚した者が別人であるということだ。


 ――つまり、悪魔の噂を流布した張本人は、召喚術が使えない立場の者ということになる。


 そして証言者の話した()()()

 実のところこれは、転移系神器(トリップクラス)特有の発光現象なのである。


 召喚術とは次元超越をする術式であるが、転移術は空間超越をする術式であり、類似点は多いが似て非なる術式である。

 召喚術の主な用途は、労働力の確保として用いるものだが、転移術はもっぱら移動手段として使われる。

 特によく用いているのは教会組織で、布教活動のための移動手段や運送手段として用いられている。


「あ、ウェイル! ここに誰かのサインがあるよ? たぶんこのデーモンの使役者だね」


 精神介入系の神器の特徴として、使役者の刻印が必要となる事が多い。

 大抵は使役者直筆のサインが神器に施される。

 そのサインが契約の証であり、対象者を縛る鎖となるわけだ。

 そしてウェイルはこのサインに見覚えがあった。

 何せそのサインは、今日見たばかりのものだったからだ。


「間違いない。悪魔の噂を流布した黒幕は――ラルガ教会だ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ