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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第二部 第七章 プロ鑑定士試験編 『波乱のプロ鑑定士試験』
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廃教会にて

「あーあ、あの家、結構気に入っていたのになぁ……」

「…………」


 廃れた教会内には、残念そうに愚痴を垂れるフロリアの声だけが響き渡っていた。


「あんまり食料も持ちだせなかったし、指を一本持ち出し忘れちゃったし……。それにしてもまんまとやられたちゃったねぇ。まさかあいつら(・・・・)が治安局に通報するだなんてね。まんまと裏切られちゃったね。まぁ、私が裏切りについて文句を言うなんざ出来ないんだけどさ」


 湿気て固くなったパンを頬張りながら、ぶつくさ文句を言っていた。


「しっかし、これからどうしよっか?」


 フロリアは自分の隣で腰を下ろす、紫の髪が特徴的な少女に声を掛けた。


「……フレスに会いたいの……」

「はいはい。アンタはいつもそればっかりだね。訊いた私が馬鹿だったよ」


 モグモグと咀嚼しつつ、視線を上へ向ける。

 視界には大きなステンドグラス。

 ここはラルガ教会聖堂の廃墟。

 ステンドグラスに描かれているのはラルガン神と龍が戦っているデザインだ。


「ここって、ラルガ教会だった場所だよね。あんなに強い権力を持っていたラルガ教会だったのに、それが今やこんなに寂れて廃教会になってるなんてね。聞いた話によるとウェイルとフレスが何かしたらしいよ?」

「……フレス、が……?」

「そう。何でも過激派のルシャブテのアホが真珠胎児を作るために、ラルガ教会を利用したらしいんだ。それをウェイルとフレスが暴いたんだって。……全くルシャブテの奴、今は何処にいるんだか」


 残ったパンを口に放り込んで、隣に座る彼女へ振り向いた。


「……フレス……」


 その名を噛みしめるように口にする度、紫の少女――ニーズヘッグは身体を震わせていた。


「はやく……会いたいな……なの……」

「ねぇ、アンタって、フレス以外に興味あるものないの?」

「…………ない……ことも……ない……?」


 虚ろな目で首を傾げるニーズヘッグ。


「どっちなんだか。まあ別にどうでもいいけどさ。そんなに会いたいなら会いに行こうか?」

「……いいの……?」

「いいわよ? どの道私はウェイルに用があるからね。どうせ二人は一緒にいるでしょ。そうね、ウェイル達の居場所は……。あ、そうだ! もうすぐプロ鑑定士試験がある。もしかしてそこに現れるかもね」

「……じゃあ……いく……」

「よし! 次の行先はそこに決まり! ……って、試験ってどこであるんだろ……? マリアステルに行けば判るかもね」

「……今すぐ……いく?」

「思い立ったが吉日。今すぐ行こうか」


 フロリアはパンパンと身体に付いた埃を払い、荷物を持って立ち上がる。

 そして敢えてニーズヘッグから距離を取った。

 ニーズヘッグの身体が輝き出す。

 かと思うと今度は光が消えて、周囲は彼女が発した闇につ包まれた。


「…………ん…………」


 一瞬、ニーズヘッグの気配が消える。

 次の瞬間、圧倒的な存在感が、その場に現れる。

 フロリアは、この瞬間は何度体験しても慣れないなと心底思い知っていた。

 身体中に戦慄が走り、冷や汗が止まらない。

 それが例え自分を襲ってこない存在だと頭では理解していても、身体が勝手に恐怖するのだ。


「この身体全体を突き抜ける戦慄、最高に気持ちいいね……!!」


 噴出した冷や汗を舐めながら、フロリアは笑う。

 目の前に出現した、自分を守る巨大な力に、フロリアは溜まらなく興奮していた。


「…………いく…………」


 闇を司る黒紫色の神龍、ニーズヘッグ。

 その巨体が出現すると同時に発せられた瘴気で、教会はみるみる朽ち果てていく。


「お邪魔しますよ、っと」


 フロリアがその背に乗ると、ニーズヘッグは黒々とした翼を一度はためかせて、ステンドグラス越しに見える天を仰ぐ。


『……出発……』

「え? ちょっと、ニーちゃん!? まさかとは思うけど、ステンドグラスに突っ込む気じゃないよね!?」

『……大丈夫。頭突きして……割るから……』

「ちょっとそれだけは勘弁してくれない!? ガラス片が飛んできて危ないんですけど!?」

『…………』

「……む、無視ですか、そうですか……、ちくしょー!!」


 フロリアの懇願など完全に無視して、ニーズヘッグはステンドグラスへと突っ込んでいく。

 想像を絶する衝撃を与えられたステンドグラスは、木端微塵に粉砕された。


 ――闇夜の空に、紫の龍が泳ぐ。


 治安局にも見つからず、教会の張った結界など物ともせずに突き破り、ただ悠々とニーズヘッグはマリアステルに向かって飛翔したのだった。


「あのー、かなり痛かったんですけど!! くー、小さなガラスの破片が地味に突き刺さって痛いんですけど!?」

「……フレス……会いに行くの……」

「……やっぱり無視ね……」


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