表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第一部 第一章 教会都市サスデルセル編 『龍の少女と悪魔の噂』
21/763

悪魔の噂の正体

「こっちから声が聞こえたよ!」


 フレスの先導で、悲鳴の上がった方角へ走る。

 事件現場はすぐに発見できた。

 その場所はヤンクの宿の裏にある路地。

 真っ赤に染まった地面が、ここが現場だと教えてくれていた。


「これは……!!」

「……血だね」

「ウェイル!? あ、あっちを見ろ!!」


 震える声でヤンクが叫ぶ。

 そこにはあったのは、2メートルを超える黒い影。

 異形なる存在――魔獣だ。


「くそ、酷いことしやがる……!!」


 魔獣の傍らには、被害者と思われる人間一人分の肉片が転がっていた。


「ウェイル! まだ人がいるよ!」


 魔獣の視線の先にいたのは、震えて怯える男女二人。


「助けないと!!」

「あの魔獣はデーモン族だね。汚らわしい姿だよ……!」


 曲がりくねった角を生やし、剣のような爪を携え、ボロ雑巾のように汚れた翼を広げている。 

 あまりにも醜悪で禍々しい姿に、睨まれた男女は腰を抜かして動けなくなっている。


 魔獣に分類される代表的な神獣『デーモン族』。

 魔獣の中でも、特に人間に仇をなす存在として古くから恐れられている。


「身体の大きさから見て下級デーモン(レッサー・デーモン)だね。でも人間二人くらいなら簡単に殺せるよ」


 このままではあの二人も、一人目の被害者と同様の末路を辿るだろう。


「フレス、俺が囮になってあの魔獣を引き付ける! その隙にあの二人を助けろ!」

「そんなことしたらウェイルが危ないよ!?」

「だからって見捨てられるか!! 俺のことなら心配するな! いいか、頼むぞ!」

「ちょっとウェイル!? 待ってってば!」


 フレスの制止をよそに、ウェイルはデーモンへ向かって走り始める。

 そしてデーモンの背中に飛び蹴りを食らわせてやった。


「……グルルルルル……!!」

「ちっ、少しは痛がれってんだ……!!


 蹴りによるダメージは全くないと言っていい。

 だがデーモンのターゲットは、思惑通りウェイルに向かったようだ。

 動けぬ二人を無視して、デーモンはウェイルを追いかけ始めた。


「フレス! 今のうちだ!」


 そう叫んで、ウェイルは走る。

 少しでも動けない二人から離れて、助ける時間を稼ぐ。

 数十メートル離れた裏路地へ逃げ込み、敵の出方を伺った。


「――グルオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 デーモンの咆哮が間近で聞こえる。

 すでに目と鼻の先まで、敵は来ている。


「……さて、どうやって仕留めたものか」


 ウェイルは愛用のナイフを抜こうと腰に手を掛けたが――


「――ナイフがない……!?」


 ――ウェイルの腰に、頼りのナイフはなかった。


「……そういえば……」


 そこでウェイルは、先程のフレスとのやりとりを思い出す。

 突如現れたフレスを警戒するためにナイフを抜き、そして机の上に置いたままだ。

 これからデーモンと戦わなければならないというのに、こちらは丸腰だ。


「クソ、運がないな……!!」


 後悔するのは後だ。

 ウェイルはすぐに頭を切り替え、デーモンから生き残る方法を考える。

 とにかく何でもいいから武器を手に入れなければ戦えない。

 ヤンクの宿まで戻れば、包丁でもハンマーでも何かあるだろう。

 だが、すぐ傍にデーモンがいる以上、取りに戻るのはいささか困難だ。

 そもそも敵がウェイルを狙っている以上、宿に戻るのは得策でない。宿泊客を危険に晒すことになる。


「どうしたものか……!! ――――まずい、見つかった……!!」


 デーモンは薄汚れた翼をはためかせ、空を飛ぶことが出来る。

 上空からウェイルの姿を確認し、一直線に突っ込んできた。


「――くっ……!!」


 デーモンの体当たりを辛うじて避ける。

 だがデーモンはまたも空へと飛びあがり、再び体当たりしてくる。

 それが何度か繰り返された。


「……きりがないぞ……!! 考えろ、何かあるはずだ! 武器や神器がない今、一体どうすれば……!!」


 そう呟いた時、とある響きに引っ掛かりを覚えた。


「……神器? ……そうか!」


 もしこのデーモンが、噂通りの悪魔であれば、()()()()があれば助かるかも知れない。


「ラルガポットだ……!! 確かヤンクが持っていたはず……!!」


 噂通りなら、ラルガポットさえあれば、奴は手を出してこないはずだ。

 早いところヤンクと合流せねばならない。


「……よし、行くか」


 ウェイルは石ころを拾うと、一つはデーモンに、一つはヤンク達のいる方向とは真反対に投げつけた。


「グオ……?」


 ダメージには全く期待を持てないが、デーモンの気は逸らせたようだ。

 デーモンは石が当たると、続いて石が落ちた音がした方へ視線を向け、そちら側へ移動し始めた。


「魔獣ってのはやはり単細胞(バカ)なんだな」


 この隙に一気に駆け出す。


「――って、もう気づかれたか……!!」


 デーモンもウェイルの計略に気づいたようで、ウェイルの方へ飛んでくる。

 そしてウェイルを追い越すと、地面に降り立ち、道を塞いだ。


「ちっ、後もう少しだったってのに……!!」


 丸腰である以上、戦ってもウェイルに勝ち目はない。

 デーモンは、その巨体には似合わないほど俊敏だった。

 今背を向けて逃げ出しても、追い付かれてしまう。

 じりじりとウェイルの方へ寄ってくる。

 まるで獲物をどう料理しようかと考えているような素振りだった。


(……ちっ、またやっちまったよ……!!)


 絶体絶命なこの状況。だというのに、ウェイルにとって久しぶりという感覚だった。 

 ウェイルはしばしば師匠や友人からこう言われることがある。


 ――『お前の無駄な正義感は、いずれ自分を滅ぼすぞ』と。


 今回だって、本当に命が惜しいのであれば、悲鳴が聞こえたところで助けになど行きはしない。

 被害に遭うのが自分でなくてよかったと安堵し、隠れていたはずだ。

 ウェイルは、正直自分の無駄な正義感を、あまりよく思っていない。

 忠告通り、こうしていつも自分を窮地に追い込んでしまうからだ。

 それでも体が勝手に動いてしまうのだから仕方ない。

 もう自分はそういう性分だと諦めている。


「……今回は本当にヤバそうだけどな……!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ