『無価値の団』、行動開始!!
「皆、逃げろ!! ルクセンクが攻めてくるぞ!!」
地下スラムへ到着早々、ルイは大声で叫んだ。
一体何事だとテントからぞろぞろ出てきた住民達に、ルイは急いて警告をして回る。
「どうした、ルイさん。そんなに慌てて」
「ルクセンクが地下へ攻め込んでくる! 急いでと逃げてくれ!」
「な、なんだって!? そりゃ本当か!? どうして突然……!!」
「奴にとってまずいことが起きたのさ。詳しく話している暇はない! とにかく急ぐんだ!!」
地下のリーダーたるルイが焦っていることを感じた住人達は皆、何が起きたか察したようで、動揺とざわめきが広がっていく。
「『無価値の団』のメンバー、全員集合だ!」
集まった数人のメンバーに、事の次第を伝えると、メンバーは大急ぎで住民の避難を誘導し始めた。
「あらあら、早速何かしてくれたのね」
妖艶な笑みを浮かべるペルーチャが、何やら嬉しそうにウェイルに近づいてくる。
「ペルーチャか。アンタも逃げた方がいい。価値が大暴落してたぞ」
「ああ、別にいいわよ? この都市での価値なんて、元々どうでもいいし。そんなことよりアンタがこれから何をしでかすか、興味があるわ」
「俺もだよ」
「私もです」
続いて出てきたのは、ゼーベッグとファイラー。
「最近どうも作戦が停滞していたからな。ここらで一気に何かしてぇぜ」
「私もですよ! これはこれは面白いことになってまいりましたね!」
まるでこれまでが退屈だったと言わんばかりの三人。
だがこの三人こそが、ウェイルの考えている作戦のキーとなる存在だ。
「ルイ! 来てくれ!」
ウェイルがルイを呼ぶ。
ウェイルは詳しい作戦を、皆に話した。
「……なるほど。それで汽車を動かすと……!!」
「あまり褒められた方法じゃないけどな。かなりグレーに近い。だが効果は抜群なはずだ。何せこの都市にとってはトラウマなんだからな」
「ほんと、鑑定士って考えることが汚いねぇ。そんなところが、やっぱり私のタイプ♪ ……って何さ」
「むぅ、させないよ」
ウェイルに抱きつこうとしたペルーチャを、フレスが制する。
「だが、これで久々に暴れられそうだ……!!」
「うふふふふ、私も自慢のコレクションを出す時が来ましたか! 楽しみですねぇ!!」
ゼーベッグとファイラーも不敵に笑みを浮かべていた。
「ルイ。ピリア、目を覚ましてるか?」
「私ですか?」
ルイが返答する前に、ピリアがテントから出てきた。
「身体はどうだ?」
「おかげさまで楽になりました。話は聞いていました。何やら凄いことをしでかそうとしてるようで……」
「まあな。それで実はピリアにもやって欲しいことがあるんだ」
「……私に、ですか? 私に役に立つことなどあるのでしょうか?」
「もちろんさ。アンタは『悲劇のヒロイン』だからな」
「……ヒロイン……?」
「そうさ。ピリアの仕事、それは噂を広げることだ」
ピリアがルクセンクの奴隷であることは、この都市に住まう数多くの者が知っている。
それは昨日の住民の反応を見れば明らかである。
そして彼らの反応は、同情だった。
誰もがピリアのことを無視しつつも、可哀そうだなと同情している節が垣間見えた。
ピリアがルクセンクに逆らえないことは誰もが知っている。
これは大きな武器となる。
ウェイルはこれからピリアにしてもらいたいことを、こと細かく伝えるとピリアも承諾した。
住民の避難誘導を終えた他の『無価値の団』メンバーも集めて、ウェイルは事細かに作戦の指示を与えた。
「この作戦の指揮はゼーベッグ、ペルーチャ、ファイラーに取ってもらう。各々部下を使って自由に暴れてくれ。ただし住民に怪我だけはさせるな」
「当然だ」
「任せてもらいましょう♪」
「これはこれは、何とも血が騒ぎますねぇ!!」
やたら楽し気な声色の三人に、本当に被害を出さずに作戦を行えるか心配になってきた。
逆に全くと言っていいほど臆していないところは心強いとも言えるが。
「ルイ。この作戦はお前が無事汽車に乗って別の都市に行けるかが勝負のカギになる。俺達はそれを全力でサポートする」
作戦を話し終えたウェイルが、最後にルイの方を見る。
つられて周囲も一斉に視線を向けた。
「お前なら出来ると信じている。やれるだろ?」
「……当たり前だろ!」
ルイは不敵に笑うと、拳を突き上げる。
『無価値の団』のメンバーもそれに合わせ、拳をぶつけ合った。
「鑑定士殿は参加しないのか?」
ルイが拳をウェイルへと向ける。
ウェイルも合わせるように拳をコツンとぶつけ合わせた。
「よし、行動開始だ! 『無価値の団』、最後の作戦だ!!」
ルイの号令に、スラムに残っていたメンバーは大きく声を上げたのだった。




