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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第二部 第六章 為替都市ハンダウクルクス編 『親切すぎる都市の裏の顔』
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起死回生のプロポーズ

 午前9時。


 ――ゴオオオオオオオンッ!!


「う、うわああ!? 何の音!?」


 二人が場内に入ると同時に、大きな鐘が打ち鳴らされた。


「これが取引開始の合図か」

「び、びっくりしたぁ!?」


 二人は早速、場内に張り出された掲示板に駆け寄った。


「本当に価値が載っている……!!」


 掲示板にはズラリと名前と価値が貼り出されていた。


 ――7日 午前9時現在 ○チェル・ナルク 男 22歳 21,574,366 リベルテ ――

 ――7日 午前9時現在 ○マルコ・シャトー 男 37歳 33,647,858 リベルテ ――

 ――7日 午前9時現在 ○ルーテリヤ・アワカ 女 18歳 23,648,978 リベルテ ――


「人の名前が一杯だ……」

「ボク、今初めてこの都市のこと、気持ち悪いと思ったよ……」


 人々が進んで行う親切には、こういう裏があったのだと、改めて実感してしまう。

 それがフレスにとってはショックだったのだ。


「フレス……」


 ウェイルがフレスのことを案じていると、


「おおお!! これは買いなんじゃないか!?」

「いや、まだだ。まだ価値は下がる!」

「しかしプロ鑑定士だぞ!? 持っておけば価値が上がりそうだ!」


 聞き捨てならない言葉が聞こえてくる。


「プロ鑑定士……!? まさか!!」


 ウェイルが急いで駆け寄ると、…………あった。

 入都証明書を発行するに際し記した個人情報と共に、ウェイルの値段が表示されていた


「ウェイル・フェルタリア、午前9時現在 8,785,476 リベルテだと……?」

「ウェイル! 折れ線グラフを見て!!」

「……大暴落じゃないか!!」


 昨日の午後3時の値段は45,213,454リベルテ。

 五分の一程度まで価値が落ちていることになる。


「う、うわああ!? ウェイル!? ボクの値段が!」

「フレスまで!?」

「な、何故か異常に高い値段になってるんだけど!?」


 フレスの現在価値、88,748,669リベルテ。

 昨日の価値はその半分程度だったため、フレスの価値は逆に暴騰していることになる。


「ボクに一体何が?」

「需要が増したとみるべきだな」

「需要!? ボクが!? ボクの一体どこに需要が!?」

「…………」


 正直に言おう。

 フレスは外見だけは抜群にいい。

 絶世の美少女と表現しても、誰も異論はないほどに。

 蒼い髪に蒼い瞳という目立つ姿であるし、人目を惹くのは間違いない。

 極めつけは人当りも愛想も良いことだ。

 フレスは昨日、観光で遊んだ際、色んな住民に人懐っこく接してきた。

 住民からすれば、フレスのことを可愛いと思ったに違いない。


「……普段一緒いる立場としては、なんだか複雑だ……」

「何が複雑なの?」

「……何でもないさ」


 師匠としてフレスのことを認めることは、なんだか負けた気がして悔しかったりする。

 勿論それをフレスに伝えるつもりもない。


「しかし価値が上がったとすれば、それだけお前のことを買おうとする人間がいるってことだ。これはある意味危ないぞ」

「価値が高いのに危ないの?」

「そうだ。需要があるから値段が上がっているわけだ。これから先、さらにお前の価値が上がると睨む人がいるのなら、今のうちに買ってしまおうとする奴が出てくるかも知れない。もしそんな奴がお前の価値の50%を買い占めてみろ。即座にお前は奴隷にされてしまうだろう」

「そんな! 人気なのに奴隷になるかもって……!!」

「今すぐにはそんなことにはならんだろうがな。しかし危険な状況であるということは知っておけ。とはいえ俺も人のことは言えない。さっき誰かが話していた通り、俺は注目株みたいだからな」


 ウェイルの価値は何らかの噂などによって下がっている。

 しかしウェイルはプロ鑑定士だ。よほどのことがない限り価値が無くなることはない。

 つまりプロ鑑定士の株は持っておくだけで損をしないということだ。

 だからこそ、価値の下がった今、買占めを行おうとする連中も出てくるかもしれない。


「想像以上に腐った場所だな、ここは……!!」


 睨み付けるように掲示板を見ると、そこに見知った名前があった。


「ピリア……!?」


 彼女の価値、現在価格にして、987,648リベルテ。


「酷い価格だ……」


 あまりにも低い価値に、ウェイルは腹立たしさを覚える。

 買おうと思えばフレスにだって払える金額だ。

 フレスがもしリグラスラムで稼いだ41万ハクロアを今持っているのであれば、すぐに買えるような値段。

 それほどの酷い価値だった。


「ウェイル! あれみて!」


 フレスが指さした先。

 そこには特別枠として用意された掲示板に一人の名前が載せられてあった。


「――ルクセンク……!!」


 その価値、現在価格にして36,478,525,441リベルテ。

 他人を圧倒する値に、二人は驚きを隠せない。


「こんな値段、どうしようもないよ……!!」


 この都市の為替市場を止めるためには、ルクセンクを失墜させるしかない。

 ウェイルもそう思っていたし、ルイ達の計画の目的もそれだ。

 しかし、この破格の値段に、ウェイルは恐怖を感じていた。

 考えていた作戦も変更をせざるを得ない。


「これは確かに、ルイ達の計画より他に崩す手段はなさそうだ」


 ウェイルの考えていた作戦とは、ルクセンクの悪評を広め、価値を落とすこと。

 最終的には偽の死亡説まで流すことだった。

 だが、この桁外れの値段を崩すには、ウェイルの作戦では時間が掛かりすぎる。

 ルクセンクが動き始める可能性がある今、この作戦の実行は不可能に近い

 見立てが甘かったことに違いない。

 しかし、それを差し引いてもこの値段は異常だった。

 それこそルイ達の目指しているルクセンクの逮捕レベルの衝撃がなければ、この価値の牙城は壊せない。


「こんな奴が、俺達を潰そうと動いてくるのか……!!」


 ウェイルの感じる恐怖は想像以上だった。

 数値で突き付けられる力の差は、これほどまでに人を戦慄させるものなのか。


「ウェイル、早く対策を打たないとまずいよ……!!」

「判っている。だがどうする……?」


 会場を見回してみても、未だルクセンク、またその手下の姿は見えない。

 為替株式売買所のところを見ても、ウェイルの株を買おうとしている人間は見当たらない。


「手を打つチャンスは今しかないな……!」


 本日最初の値段公開から正午の値段更新までの間が、対策を打つ最後の機会。


(しかし、一体どうすれば俺の株の買い占めを阻止できるのか……)


 ウェイルが悩んでいる間にも時間は刻一刻と過ぎていく。


「ねぇ、ウェイル。ボクもウェイルの株を買えるの?」

「……そりゃそうだろ。ここの株は誰だって買える」

「買えない人っている?」

「そりゃ、値段が高い奴はなかなか買えないだろ?」

「ううん、そうじゃなくて、仕組み的に買えない人」

「仕組み的、か。そうだな。すでに誰かに株を買われていて、その株を持っている人が売ってくれなかった時とか……」


 そうウェイルが答えた時、ふと脳裏に思い浮かんだとあるキーワード。


「……誰かに先に買われる……?」


 そこで思い出したのが、昨日のピリアの台詞。


「……なるほど……!! この手があったか……!!」


 いける。これなら奴らの先手を打ち、尚且つ完璧なる対策になる方法。


「フレス。買占めだ」

「買占め!? そりゃウェイル。それが一番に決まってるよ! でも普通そんなお金がないからみんな苦労しているんじゃないの!?」

「そうさ。だけどな、同じ価値の株式同士を交換して、売買したことにするっていう方法がある。それが何か、判るか?」

「えーっと、うーんと……」

「ヒントは昨日のピリアの話だ」

「ピリアさんの話? う~ん……」


 フレスは少しの間考え込み、そして――


「……あっ! ――って、えええええええええええええ!?」


 ついに気づいたようだ。

 昨日ピリアが二人に語ってくれた、とあるキーワード。


「そうだ、フレス。今はそれしかない」

「で、でも! そんな! ボク、ボクとウェイルが……!?」



「――フレス。俺と――――結婚してくれ!!」



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