3人の幹部
「さて、仲間を紹介しよう。彼らは『無価値の団』に所属している構成員だ。ゼーベッグ、ペルーチャ、ファイラー、来てくれ」
呼ばれた三人が、他のテントから出てくる。
その内一人は先程松明を持っていた者だった。
「……ルイ。今度の作戦、その男を参加させるのか?」
「どうだろうな。でも、そうなる可能性は高いと思う。鑑定士殿、このデカイ奴はゼーベッグという。力仕事なら何でもござれの頼りになる奴だよ」
「……まあ、よろしくな……」
「こちらこそ」
松明を持っていたのはゼーベッグであった。素直に手を取り握手する。
「へぇ、これがプロ鑑定士か。中々に良い男じゃないか」
続いて声を掛けてきたのは、褐色の肌に白い長髪をした女だった。
「ねぇ、ルイ。この男、私に頂戴? 何ならこいつの株、買い占めちゃってもいいけどさ! アンタ、私の奴隷にならない? 世界一幸せな奴隷にしてあげるわよ?」
「むぅ、気軽にウェイルに触らないでよね!」
ウェイルに寄り添おうとする女に、フレスが難色を示した。
「あーら、コブツキなの? でも私は気にしないわ。お子ちゃまはあっちで遊んでいなさいな」
「むむぅ、お子ちゃまじゃないもん!!」
「おい、この女は誰なんだ?」
耳元に掛かる女の息に、鳥肌が立った。
ギュッと握ってきたフレスの手のひらだけが、唯一の救いな気がした。
「人間為替を否定する俺らが、それを利用しようとしてどうする? 済まない、鑑定士殿。こいつの名前はペルーチャ。地下にはこいつ好みの男が少ないもんでな。欲求不満を隠しきれないようだよ」
「あら、私はルイ、アンタでもいいのだけど?」
「丁重にお断りだ」
「あーら、残念」
「重ね重ね済まない、鑑定士殿。だがこいつは俺達の活動にはなくてはならない女なんだ。実はペルーチャは富豪でな。表の世界でもちょっとした有名人だ。無論、本人の価値も高い。それなのに人間為替制度に反対だからと、俺達の仲間になった不思議な奴なんだ。『無価値の団』の活動資金は、半分以上彼女のポケットマネーだったりする。いわばスポンサーだな。少しぐらいのオイタは見逃してやって欲しい」
「むぅ……。ボク、この人苦手……」
(……本当に反対しているのかよ)
彼女の行動からそう疑ってしまったウェイルであった。
「最後に紹介するのはファイラー。このスラム街に、地上から物資を運びこむ運び屋をやっている」
「どもども! これはこれはプロ鑑定士殿! お会いできて光栄です!!」
紹介されるや否や、丸いメガネを掛けた小柄な男がウェイルに握手を求めてきた。
「こんなむさくるしい所にようこそおいでなさりました! 歓迎いたしますよぉ!」
「そ、それはどうも……」
異様なテンションの男に、二人は思わずひいてしまう。
しかしファイラーはそんなことお構いもなく、矢継ぎ早に話を進めてきた。
「いやはや、しかしこれはこれはなんとも可愛いお嬢さんですなぁ~~!! 地上でもなかなか見られないレアものですよ! これは素晴らしい……!!」
「ううぇぇ、ウェイル!! ボク、ここの人達みんな怖いんだけどおおお!!」
上から下までジロジロと観察されたフレスは、さぞ不快であったことだろう。
「ルイよ。お前の仲間の紹介は終わったんだ。早速人間為替市場へ案内してくれ」
精神衛生上、一刻も早くここを抜けたい。
フレスも同感の様で首をブンブンと縦に振っていた。
「そうだな。じゃあみんな、行ってくるよ。姉さんを頼んだよ」
地下道へ戻り、地上へ繋がる通路を進む間にも、数多くの人とすれ違った。
彼らは地上に出ても価値がない。だからこそ地下にいる。
そんな彼らを、いつか地上へと戻してやりたい。
人並みの生活、人としての尊厳を取り戻させてやりたい。
道中、ルイはずっとそんな話を語ってくれた。
ウェイルも同感で、是非ルイの力になってやりたいと、そう思えた。
ルイは地下スラムへ堕ちた人間達にとって、最後の希望なのだ。
地下住人とすれ違う度に、ルイは彼らから激励の言葉を貰っていた。
嬉しいことだとは思うが、反面凄まじいプレッシャーに違いない。
誰だって、過剰に人から期待されたくはないものだ。
それでもルイはその役目を一身に引き受けている。
自らの地位を捨て、自分の命を顧みず、独裁者に楯突いた。
ウェイル、そしてフレスは気が付いていた。
ルイの基本的な性格は、ウェイル達にそっくりであると。
そう、それは彼が無駄に――正義感が強いこと。




