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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第二部 第六章 為替都市ハンダウクルクス編 『親切すぎる都市の裏の顔』
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地下組織『無価値の団』(ゼロ・ヴァリュー)

 その後、三人は地下通路最奥部にあるスラム街へ案内されることとなった。

 蝋燭の灯火によって微かに照らされた通路は、ポツポツと落ちてくる水滴の音と相まって非常に不気味な雰囲気であり、ウェイルの腕にはフレスが震えながらしがみついてきていた。

 下水の流れる通路を抜けると、少し広めのエリアに辿り着く。

 そこには数多くのテントが張られ、そこからは多くの人の気配が感じ取れた。

 その中でも最も大きなテントに、三人は招かれる。

 テントの中は、多少ジメジメしているものの、地上から持ち込んだであろう様々な道具と食料が置いてあり、生きる上で困ることはなさそうだ。


「まあ座ってくれ。俺の名前はルイ。聞いたかも知れないがピリアの弟だ。まずは先程の非礼を詫びよう。すまなかった、鑑定士殿」

「いや、別にいいさ。それよりもこのスラムについて聞きたい」

「ここは俺達が作った地下スラム。地上で居場所のなくなった人達を保護している。そしてこのテントが地下スラムを仕切る組織『無価値の団(ゼロ・ヴァリュー)』のアジトだ。俺はここのリーダーをしている」

「組織で仕切らなければならないほど人数がいるのか?」

「俺の知る限りでは五百人以上いるはずだが、詳細までは把握出来ていない。実際には倍以上いるかもな」

「なぁ、どうして自分が生きているとピリアに伝えなかったんだ?」

「そうよ、ルイ! どうしてお姉ちゃんに黙ってたの!?」


 初めて見るピリアの激しい剣幕に、ルイだけでなくウェイル達も思わず一歩下がってしまう。


「……ごめんよ、姉さん。でも姉さんには迷惑を掛けたくなかったんだ」

「何言ってるの!? もう十分迷惑を掛けてるわよ! 私は貴方を助けようと、ただその一身でルクセンクに……!!」

「すまない、姉さん。でもまさか姉さんが俺の為にそこまでするとは思ってなくて……」

「私達、家族でしょ!? 弟のことを心配して助けようとするのは当然のことでしょ!?」

「……そう、だな……」

「そうよ……、そうよ……。ぐず……、ルイのバカ……ひぐ……」

「ごめんね、姉さん……」


 堪えきれず涙を流すピリアを、ルイが優しく抱きしめた。


「うう……、感動だよぉ……」

「お前、最近よく泣くよな……」

「だってぇ……だってぇ……!!」


 仲の良い姉弟の姿に、最近やけに涙もろいフレスはもらい泣きしていた。





 ――●○●○●○――





 これまで弟の為だけに全てを、それこそ自分の価値すら捨ててきたピリアだ。

 その弟が無事だと判って安心したのか、元々体調が優れないこともあってピリアはすぐに深い眠りに落ちた。


「なぁ、ルイ。俺達にも詳しいことを話してくれるか。どうしてアンタはピリアに黙ってこんなところにいるのかを」

「……鑑定士殿には姉を助けてもらった恩がある。判った。話すよ」


 眠りにつくピリアに布団を掛け終ると、ルイは話し始めた。


「この都市の人間為替制度というのをご存知か?」

「さっきピリアから聞いたばかりだ。詳しいことは判らないが、普通の為替市場と同じであればルールの見当は付く」

「なら話は早い。俺はこの都市の為替制度に幼い頃から疑問を持っていたんだ。人の株を買い、支配するこのやり方にな」

「人身売買の温床になっているんだな?」

「その通り。そしてその人身売買、奴隷貿易を行っている胴元はルクセンクだ。奴は自身の持つ膨大なる資金を用いて人の株を買い占めて、奴隷にして服従させ、いらなくなれば高値で売り払っているんだ。俺はルクセンクが人を奴隷にする現場を何度も目撃してきた。どうしても許すことが出来なくてな。だからこの現状をなんとか他都市の治安局に通報しようとした」

「人間為替制度のことはプロ鑑定士の俺ですら初めて聞いたことだ。つまり誰も通報に成功できていないってことだな」

「アンタ等もこの都市に入る時に証明書を発行されただろう? あれは検問も兼ねているんだ。この都市から人間為替制度の情報を外に出そうとする人間を止めるために、奴らは常に目を光らせている」

「汽車以外の脱出方法はないのか?」

「あるにはあるが難しい。当然駅以外にも検問はあるし、そもそもこの都市はハンダウル山とクルクス湖に囲まれている関係上、歩いて行ける場所は少ないんだ。また外にだって警備隊は配備されている。実際に俺も徒歩で抜け出すことを試みたが、あまりの追手の多さに結局捕まってしまった。あの時はちょっとルクセンクを舐めていたよ」

「なるほど。だからルクセンクの怒りを買って価値を下げられ、奴隷にされたのか」

「そうさ。だが俺は奴の元から逃げ出した。そしてこの地下に新しいハンダウクルクスを作ろうと思ったんだ」

「それがこのスラム街か……」

「この地下街には、俺のように価値を失った人間ばかりが住んでいる。奴隷にされかけた連中や、ルクセンクから犯罪者扱いされた連中とかな。俺達はそんな人間を助けるため、この地下都市を守っていかなければならない。そのために『無価値の団』を結成した」

「なるほどな」


 ルイは語らないが、『無価値の団』には地下の秩序を守る警察的な役割も果たしているのだろう。

 ここに住まうのはルイの言ったケースの人間だけでない。

 地下は人目につかない。つまり犯罪者にとっても都合の良い隠れ蓑である。

 そういった危険な連中から地下の人間を守るためにも、彼らの果たす役割は大きい。


「しかしここまで大きくなった地下都市なんだ。当然噂にはなるだろうし、その噂はルクセンクの耳にも入るだろう。今までよく潰されなかったな」

「実は警備隊ともある程度パイプを繋いであるんだ。ルクセンクの耳に入らないように配慮してもらっている」

「だからか。この地下スラムが未だに潰されていないのは」

「皆口には出さないが、ルクセンクのやり方に不満を持っている。誰もが人間為替という仕組みに嫌気が差しているんだ。だからこそ俺達という存在に期待する声も高い。いつか地下の人間が、ルクセンクを倒してくれると信じてな。だからこそこんな資料も手に入った。見てくれ」

「これは……!!」


 ルイが取り出したのは、ルクセンクが奴隷売買の元締めをやっているということが明確に判る資料であった。

 これ以外にも奴隷貿易の証拠となる資料はいくつもあり、それらは全てルクセンクという人間が真っ黒であることを証明していた。


「この奴隷売買に関する機密書類は、ルクセンク宅から盗み出されたものなんだ。これさえあれば治安局もすぐに動いてくれるはず」

「それは間違いないな。この書類を見る限り、ルクセンクが生み出した奴隷の数は百人は下らない。あまりにも非人道的だ」

「これをどうにかして他都市の治安局に持っていきたい。だが、それが一番難しいということはさっき話した通りだ。知ってるだろ? この都市の検問を厳しさを」

「……ああ」


 ウェイルらがハンダウクルクスへ入都するときも、大変時間が掛かった。

 証明書を発行しなければ入都も出都も出来ない仕組みになっている。


「汽車が使えない。もちろん、船だって検問は厳しい。樽の中一つ一つまで確認するくらいだからな」

「……となると徒歩だが……一度失敗したって言ってたな」

「ああ。他都市との距離がありすぎるし、警備も多い。まず無理だ」

「つまり切り札は握っているが、外には出れない状態なわけだ」

「そういうことになるな」


 ルイは確かにルクセンクを失墜させることの出来る爆弾を持っている。

 しかし、それを使うには、どこかでルクセンク側の動きを止める必要があるわけだ。


「なぁ、鑑定士殿。アンタさっき言ったよな。人間為替という制度を潰す、と」

「言ったな」

「何か手はあるのか?」


 ルイの目が鋭く光る。

 ウェイルはこの目を知っている。ライバルの鑑定士がいつもしてくる目だからだ。

 これは――ウェイルを利用しようとする目。

 しかし、ルイのそれは不快になるものではなかった。

 何故ならルイには、ウェイルととある共通点があるからだ。


「もちろん、あるさ。準備が必要だけどな」

「準備……?」

「人間為替市場というものを、一度見て、実際に利用してみないとな」

「なるほどね……。よし、なら早速行ってみるか。案内するよ。その代り――」

「判っているよ。そっちに利用されてやる」

「流石はプロ。何でもお見通しってか」


 話はそう纏まると、安らかに寝ているピリアを起こさないように、慎重にテントの外に出たのだった。


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