謎の音
「やっと到着したか」
「うう~、ついたのぉ~、疲れたぁ~」
午後11時。
外は完全に闇に染まった頃、汽車はようやくハンダウクルクス駅へと到着した。
今回もいつものように長旅となり、ぐでーっと身体を横にしていたフレスが疲れた顔して起き上がってくる。
「やっぱり間に合わなかったか。さて、寝る準備でもするか」
「え!? 寝る準備!? どうして!? 早く降りて宿を探さないとまずいんじゃないの!?」
「いや、今日はもう無理だな」
「……どゆこと?」
「周囲を見てみな」
ウェイルに言われてキョロキョロ周囲を見回してみると、何故か下車しようとする人は皆無。
「どうして皆降りないの?」
「今降りても都市内には入られないからな」
「え? なんで?」
「さっき言ったろ? この都市では証明書が必要不可欠だって」
「うん」
「その証明書なんだが、午後8時までしか発行してくれないんだよ。だからみんな下車したくても出来ないのさ」
そのため、午後8時以降にこの都市につく汽車は、そのまま寝台汽車と化す。
多くの人が汽車の中で一夜を過ごすことになるわけだ。
「うへぇ……、面倒くさい都市だねぇ……」
「その意見には同感だがな。それでもこの都市は観光客や商人からは大人気なのさ。資源が豊富だし、質も良い。何より安価だ。面倒臭さを差し引いても取引すれば大きな利益に繋がるからな。皆これくらいは我慢するのさ」
「お腹がすいたらどうするの?」
「心配しなくても深夜でも特別に車内販売が行われている。腹が減ったらそこで買えばいい。もっとも金があればの話だが」
「うう……」
なんど財布を振ってみても、一切音はしない。
「財布を振ってて虚しくないか? もうそろそろ寝た方がいいぞ」
「……うん……」
お金がないので買い食いも出来ず、フレスの選択肢は寝ることだけ。
ちなみにここは汽車の座席。
横になって寝ることも出来ない。
座って寝ることに慣れているウェイルは、腕を組むとすぐに寝息を立て始めた。
座席付近のランプが消えて、闇夜に浮かぶは月の光とそれを反射する湖と、そして微かに灯る都市の光。
幻想的な景色に、フレスはある種の震えを感じる。
「綺麗だけど……ちょっと怖いかも……」
フレスはそのままウェイルの隣へ移動して。
「お邪魔しま~す。エヘヘ、ウェイルの匂いだぁ……。……落ち着く……」
一緒の毛布に包まって、夢の世界へと旅立ったのだった。
彼の隣にいると、不思議とお腹の虫が声を上げることはなかった。
――●○●○●○――
「……ううん……」
深夜は午前3時を回った頃。
「……音?」
微かに聞こえてきた音で、フレスは目が覚める。
「……何なんだろう、この音……」
隣を見ると相変わらず静かに眠るウェイル。
「…………外から、かなぁ?」
窓を開けると、さっきよりも強く聞こえてくる音。
実はこの音、フレス以外誰にも聞こえてはいない。
何せ極微小な音なのだ。人間が感じられるレベルではなかった。
だがフレスは龍だ。
微妙な音の変化をいち早く察し、違和感を覚えていた。
「こんな深夜に、何やってるんだろう……」
しかしたとえフレスであっても、この音の詳細について判るほどではない。
フレスにしても、ただ少し変わった音がしただけ程度のことなのである。
そもそもこの程度の音が睡眠を邪魔することはフレスにとっても稀だ。
「……ちょっと不気味……」
そう感想を述べたフレスは、もう一度大きな欠伸をした後、またしてもウェイルの隣へつき、眠りについたのだった。




