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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第二部 第六章 為替都市ハンダウクルクス編 『親切すぎる都市の裏の顔』
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為替都市『ハンダウクルクス』

 現実から目を背けたくなるほどの大量の株券は、とりあえずウェイルの金庫に封印しておくことにした。

 落ち込むフレスを慰めたり、カラーコインの鑑定をしたりするうちに、期日である二日はあっという間に過ぎてしまっていた。

 結局カラーコインについては何一つ判らぬまま、次の仕事に行かなければならないことになってしまった。


「おい、そろそろ落ち込むのは止めて旅の準備をしろよ。仕事だ」

「次はどこに行くの?」

「行先は『為替都市ハンダウクルクス』だ」

「為替都市? 変な二つ名だね」

「かもな。だが行けば理由も判る」

「どんな理由なの?」

「少し変わったルールのある都市なんだ。まあ行ってからのお楽しみだ」

「うう、気になる……」


 しかし旅と聞いてテンションの上がったフレスは、今までのことなどすっかり忘れたかのように勢いよく部屋を飛び出し、荷物を持って駅に向かって走って行った。


 二人がマリアステル駅に到着したのは丁度お昼時。。

 マリアステルへ来る商人や観光客目当ての出店から、様々な料理の良い匂いが漂ってくる。

 いつもならここで大量に買い食いをするフレスだが、あいにく今は持ち合わせがない。


「…………」


 無言で財布を振り、またしても現実を思い出す。

 財布から音のしないことに涙を浮かべ、そしてウェイルを見上げてきた。


「……うう……、ウェイルぅ……」

「ん? どうした、フレス。何か用か?」


 当然フレスの言いたい内容は完璧に理解しているが、ここで甘やかすほどウェイルは甘くない。

 わざとシラを切り続けると、今度はフレスも大胆になってきた。


「ウェイル~~、お腹すいた! 買って! お願~い!」


 声の口調を溶けたチョコより甘くして、胸を押し付けるようにして腕に抱きついてくる。


「駄目だ」


 だが、女性の武器を利用するという安直過ぎる手が、今更ウェイルに通じるわけもない。

 安直なのは悪いことではないが、いささか考えが甘い。


「むぅ……!! ウェイルのケチ!」

「お前がバカだっただけだ」

「……うう……、お腹すいたよぉ……。これで餓死したら師匠の責任になるんだからね……!!」

「お前、朝飯五人前食っておいてよく餓死するなんて言えたもんだ」


 涎を飲み込み、お腹の音を響かせながら、ウェイルに後に続いて汽車に乗った。





 ――●○●○●○――





 ガタンゴトンと汽車に揺られること早八時間。

 昼過ぎに出発したというのに、気が付けば窓から見える景色は深い闇色へと染まっていた。

 マリアステルからほぼ西の方角に、『為替都市ハンダウクルクス』はある。

 アレクアテナ大陸最大の山『ハンダウル』と、最大の湖『クルクス湖』に囲まれたこの都市は、自然からの恵みを一身に受けて成長してきた都市である。

 それは『農作都市サクスィル』に続くほどの農作物生産量を誇り、輸出高もそれに続く。

 資源豊富で、さらには豊かな土地に恵まれ、この都市は独特の文化を築いてきた。


「いいか、フレス。もうじきハンダウクルクスに着く。そこでお前に注意点がある」

「注意点? なんなの?」

「ハンダウクルクスには変わったルールがあるって教えたろ?」

「ああ、それのこと! ボクずっと気になって眠れなかったんだよ!!」

「嘘付け、完璧に忘れてさっきまで昼寝してただろうに」

「で、どんなルールなの?」

「ハンダウクルクス駅に着いたら即検問があるんだ。そこで身分証明書が発行される。その証明書を絶対に失くさない事」

「え? 証明書なんているの?」

「そうだ。あの都市で証明書は、自分の命と同価値なんだ。証明書のない者は問答無用で拘束されてしまう」

「もし失くしたら?」

「今言っただろ。拘束されてしまうんだ。再び本人確認が証明されるまで延々とな」


 ウェイルが今言ったことが、ハンダウクルクス最大の特徴にして唯一のルールなのである。

 このようなことになったのはいくつか要因があるのだが、最も懸念される材料としては警備上の問題だ。

 実はこの都市、治安局の支部が存在しない。

 この都市は資源が非常に豊富であり、それ故に独特の文化を築いてきたとそう説明したが、治安維持を全て自分達の手で行っているという点も独特の文化のうちの一つである。

 この都市は過去に幾度となく山賊や略奪者から狙われ襲われ続けた時期があった。

 その被害額は尋常ではないレベルであり、略奪によってハンダウクルクスは一時崩壊寸前とまで噂されたこともある。

 今考えれば信じられない話であるが、ハンダウクルクスの住人達は、そういった侵略者達にトラウマを持っているのだ。

 もう二度と侵略者によって都市を蹂躙されるわけにはいかないという教訓が色濃く根付いており、侵略者に対抗するため独自で警備隊を組織し、治安局に頼らず秩序を維持している。

 そういう状況の中で出来たルールの一つが、この身分証明書の携帯義務なのである。

 住民だけでなく旅行者に対しても身分証明書の携帯を常に義務として掲げ、証明書がない者については常に疑いの目を向け続ける。

 それは拘束という手段を持って疑念を棚上げするのだ。


「いいか? 絶対に失くすなよ? 本当に大変なことになるからな?」

「もう、ウェイルったら心配しすぎだよ! ボク、ウェイルの弟子なんだよ? そんなヘマするわけないでしょ?」

「……俺は今、初めてお前の師匠であることが恥ずかしくなったよ……」


 詐欺により文無しになってしまった今のフレスに、説得力は欠片も残ってなかった。



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