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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第二部 第五章 貧困都市リグラスラム編 『妹弟子と運命のコイン』
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友情のレプリカコイン


「…………!? フレス、一体どうやってこれを!?」

「ボクさ。実はあの裏オークションハウスに行ってたんだ。あの後、例の連中がどうなったか確かめたくて。もしかしたらこのコイン、返してくれるかもって」

「……どういうことなんだ?」


 興味ありげに尋ねるウェイル。

 

「だってさ、あのカラーコインってレプリカなんでしょ? だったらさ、あの人達困ってるだろうなと思って」

「そりゃ困っているだろうよ。100万ハクロアで落札したんだから相当な金額の手数料が掛かるはずだしな。だが奴らはお前らに酷いことをしたんだろ? だったら自業自得じゃないか?」

「確かに彼らはボクらに酷いことをしたよ? でも、最初に酷いことを言ったのはボクの方なんだ。責任の一端はボクにある気がしたんだよ。だからさ、案の定困り果てていた彼らに一つ提案してみたんだ」

「……提案だと?」

「うん。彼らにね、このカラーコインは人から盗みましたって、治安局に自供してもらったんだよ」

「……なるほど……!!」


 これには思わずウェイルも舌を巻く。

 見るとシュラディンですら目を丸くしていた。

 なるほど、確かにこの手があった。

 彼らにのしかかった重い手数料をチャラにする方法。

 しかしまさかフレス一人で思いつくとは……。


「ねぇ、一体どういうこと?」


 ギルパーニャだけが理解できず、シュラディンに教えを乞う視線を送っていた。


「ギルパーニャよ。フレスちゃん、競売について相当勉強しているぞ?」

「そ、そうなの?」

「しっかりとフレスちゃんから聞きなさい」


 シュラディンの台詞を待って、フレスが続けた。


「ウェイルから読むように言われた本に、競売についての法律があったんだ。そこにはこうあった。『盗品に関する売買、競売、契約は、対象の品が盗品と認められた瞬間より、これまでの売買、競売、契約、これらを全て無効としたうえで、所有権を本来の持ち主に返還する』って。これって盗品を競売しても、全部なかったことにするって法律でしょ? だから競売そのものが無効になる。それはつまり競売がなかったんだから手数料だってなくなるってことでしょ? それを彼らに話したんだよ。そしたらすぐに治安局へ行って、自供してくれたんだ。そうすることで高い手数料もチャラ。このカラーコインも返ってくる。同時に被害届と、示談成立の証明書も出したから、彼らも大した罪には問われない。一石二鳥だったよ!」


 フレスの話を聞いて、ギルパーニャは目を輝かせていた。


「……凄い、凄いよ! フレス!!」

「やだな~、そんなに褒めないでよ! ……ウェイル、勝手に抜け出してごめんなさい。でもどうしてもこのカラーコインはボク一人で取り戻したかったんだよ」


 自分の責任は自分で取る。

 自分の失敗は自分で挽回する。

 フレスはもう、立派に鑑定士の風格を持っていた。

 そんなフレスがペコリと頭を下げて謝ってくるのだ。

 ウェイルとて許さざるを得なかった。


「……そうか。ならいい。反省しているなら許すよ。しかしよくやったな、フレス」

「うん!」


 若い師匠と弟子を見て、シュラディンも笑みを浮かべていた。


(あの時のフレスちゃんが、今はこんなに笑っていられる。ウェイル、お前は間違いなく立派な師匠だよ)


 フレスは改めてカラーコインを取り出し、ギルパーニャに二枚ほど手渡した。


「この偽カラーコインのせいで大変な目に遭っちゃったけどさ。でも、これのおかげでボク達、もっと仲良くなれたと思うんだよ。だからさ、記念に半分持っていて欲しいんだ」

「……フレス……!! うん!! 半分、ちゃんと持ってる!! 宝物にするよ!!」

「ボクだって宝物にする! もう失くさないから!」


 全く価値のない、贋作のカラーコイン。

 しかし、二人にとってのこれは、本物のカラーコイン以上の価値を持った贋作なのだ。

 物の価値とは、単に額面だけで決まるわけじゃない。

 人の想いによって大きく変化する。

 鑑定を行う上で、参考にせねばならない基礎中の基礎を、改めて二人から学んだウェイルであった。





 ――●○●○●○――





 遅ればせながら帰り支度の済んだフレスが出てくると、いよいよ別れの時。


「ギル、短い間だったけど、とても楽しかったよ!」

「私も! ねぇ、また遊びに来てね!」

「もちろんだよ! ウェイルがダメって言っても来るからね!」


 二人の手には握られているのは、それぞれ二枚ずつのカラーコイン。


「師匠、世話になったな」

「なぁに、ワシは何もしとらんよ。むしろ久々に昔の事を思い出せて楽しかったわい。それにフレスちゃんが元気にしているところを見て安心したよ」

「そうか。そりゃ良かったよ」

「……ウェイル、ヴェクトルビアやハクロアの件、気をつけろよ。俺の予想だと裏で何かでかい組織が動いている」

「……『不完全』か?」

「いや、違うな。贋作士の連中だとは思えない。なんにせよ気を付けろよ。こちらでも何か判り次第すぐに連絡を回す」

「恩に着る。こっちも何か判り次第、すぐに連絡するよ」

「ま、なんだ。しばらくは大丈夫だろうし、フレスちゃんのこと、立派な鑑定士にしてやれよ? 試験はもうじきだろう?」

「だな。ギルパーニャだって同じだろ?」

「そうだな。これからみっちりと勉強させんとな」


 師匠という立場同士、互いに大きく笑い、握手をした。


「フレス、そろそろ行かないと汽車に間に合わん。行くぞ」

「ギル! また会いに来るからね!」

「うん、絶対だよ!! ウェイルにぃも、達者でね!」

「ああ。じゃあな」

「また来るからね!」


 大事そうに握りしめるカラーコイン。

 二人は人目なんて気にすることなく、大きく手を振りながら別れたのだった。





 ――●○●○●○――





「ハクロアの価値はどうです?」

「順調に下落している模様です」

「そうですか。ならば問題ないですね。もっと落ちてもらわないと困りますが」

「例の奴隷商人の件、いかがなされますか? 最近治安局の影ちらほらありますが」

「ここで治安局と揉めるのはまずいですね。もう少し儲けた後は、バッサリと切り捨ててください。頼みますよ、メイラルド」

「はい。承知しました」


 仰々しく頭を下げ、部屋から出ていく女。

 残された一人は笑う。


「もうじきですよ。もうあと少しハクロアの価値が落ちたら――」



「――――我々は、王になる…………!!」




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