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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第一部 第一章 教会都市サスデルセル編 『龍の少女と悪魔の噂』
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龍の恩返し

「あのな、お前は食べすぎだ。そもそも最初の分を全部一人で食った癖に、お代わり分も半分以上食いやがって。おかげで俺の夕飯は随分と貧相になった」

「えー、別にいいじゃない! 減るものでもないし」

「俺の腹が減ってるだろ!?」


 こんなやり取りが、さっきからずっと続いている。

 まさかこんなにも早く、龍の少女(フレス)と馴染んでしまうとは思いもしなかった。

 いつもならば、一人で静かにゆっくり過ごす夜。

 誰かと一緒に賑やかな夜を過ごすなんて、師匠のところから旅立って以来、久しぶりのことだった。

 出張鑑定で大陸中を巡る旅は、孤独の方が気楽だ。

 時折心を許せる友人達と卓を囲む程度の人付き合いが、自分には性に合っていると思っていた。

 だが、現実は妙に脳天気な龍の少女一人に振り回されっぱなしなのに、意外とこれも悪くないと思っている自分もいた。


「あ、これってウェイルの最後のスコーンだよね? あーん。パクッ。う~ん、やっぱり美味しい~!」

「おい。わざわざ確認してから食うってのは、どういう嫌がらせだ?」

「スコーンの一つくらいで怒らないでよ~。ほら、ボクとウェイルの仲じゃない! 笑って許してよ!」

「俺達はまだ出会って一時間も経っていないだろ!?」

「あ、確かに! ウェイルって、ツッコミが得意なの?」

「そんなこと生まれて初めて言われたぞ……」


 なんとものんきで平和な会話を続けていたが、そろそろ話を進展させるべきだ。 

 これからのことについて考えねばならない。

 ウェイルは、話の成り行きで、フレスを弟子にしてしまった。

 だから師匠としてそれ相応の責任をとるつもりではあるが、逆に弟子にも求めることはある。

 タダ飯を食わす気なんて更々ないし、これからは鑑定助手という形でそれなりに働いてもらう事になる。

 ならば鑑定を行うにあたり、最低限の知識や教養を叩き込んでやる必要がある。

 そのために、まずフレスがどの程度の知識を持っているか確かめることにした。


(龍だからこそ持っている知識が、使えるかもな)


 龍といえば、長寿命である。無限と表現しても差し支えないほどだ。

 封印から解放されたフレスは、記憶が曖昧になっていると言っていたが、もしかすれば太古の昔のことを思い出すかも知れない。


(人間では知り得ない知識が、そこにはあるはずだ)

 

「ふう。ごちそうさま~。いやぁ、久しぶりに解放されたけど、やっぱり人間の食べ物っておいしいよね~」

「そいつはよかったな」

「ふわぁぁあぁぁ……」

  

 お腹一杯で満足したのか、フレスは大きな欠伸を一つ。

 膨らんだお腹をポンポンと叩きながら、ゴロゴロ寝転ぶマヌケな姿を晒す龍が実在するだなんて、まさに事実は小説よりも奇なりである。


「一般的な龍のイメージなんて、粉々に吹き飛んでしまいそうだ……」


 寝っ転がって、うに~っと背伸びするフレスを見て、はぁ……と嘆息すると、ふいに質問が浮かんだ。

 そもそも、どうしてフレスは弟子になることを承諾したのだろうか。


「なぁ、お前は何故、俺の弟子になろうと思ったんだ?」

「えっとね、ウェイルはボクを解放してくれた人だからだよ。解放してくれたお礼をしなくちゃね! 恩返しってやつだよ! ほら、ボクって孝行者でしょ?」

「……なんて迷惑な恩返しだ……」

「む。今何か言った?」

「いや、何も」


 フレスがジト目でこちらを睨んでくるが、無視を決め込んだ。

 どうやらウェイルは、思いっきり勘違いしていたようだ。

 ウェイルがフレスを弟子にしようと決意したのは、フレスを解放してしまった責任を取るためである。

 しかしフレスから言わせると、弟子になることがお礼であり、恩返しだという。


 絶妙な想いの解釈のズレが、そこにあった。

 不思議なことに利害は一致していたし、今更どうこう言う気はないのだが。


「それにね! ボク、鑑定士って仕事にも、ちょっと興味があったんだ!」

「そうなのか。なら()()ってことについて、どれくらい知っている?」

「何にも知らないよ!!」

「本当に興味あったのか!?」

「これから勉強するもん! あ、でもね、神器に関しては結構詳しいよ! もしかしたら師匠の何倍も詳しいかも!」


 凄まじいドヤ顔で、エッヘンと口にしながら胸を張るフレスである。


「お前、本当に(ドラゴン)らしくないよな……」


 (ドラゴン)といえば畏怖や恐怖の象徴だ。 

 だが今のフレスからは、畏怖や恐怖なんて微塵も感じられない。

 そんなことを思っていたら、ついボソッと呟いていた。


「何か言った?」

「いや、何も」


 さっきと同じやり取りをしているような気がするが、気のせいだろう。


「龍らしくなくて悪かったね! ボクだって、望んで龍として生まれてきたわけじゃないもん! 龍だって、龍なりに悩みごとはあるんだよ!?」

「……聞こえているのかよ」


 むぅ、と口を膨らませて不満感を露わにするフレスは、ふてくされて寝そべってしまった。


「悪かったって、つい本音がな」

「なおさら悪いよ!?」

「機嫌直せって。おーい」

「つーん」

「はぁ……」


 これからの事を考えると頭痛すら覚える。

 弟子をとるなんて初めての経験だし、何よりその弟子というのが普通の人間ではなく龍なのだ。

 誰かに相談したくとも、他に龍を弟子にしている鑑定士なんているはずもないし、これからフレスをどういう風に弟子として育てればいいのか、皆目見当もつかない。

 不貞腐れるフレスの様子を見ながらそんなことを思ってのだが、逆にポジティブに考えてみれば、そんなに悪いことばかりではない。


(神器に詳しいってのは嬉しい誤算だな)


 『神器(アーティファクト)』とは、神々がこの大陸に残した遺産と云われている。

 現在の人類の叡智では、とても解明することは出来ない、謎だらけの代物だ。

 いくらウェイルがプロの鑑定士でも、神器に関してはさほど詳しいわけじゃない。

 専門家と名乗るには、あまりにもおこがましいと思えるほどの、基礎的な知識しか持っていないのだ。

 とはいえ、これまでも神器の鑑定依頼は少なからずあったし、これからも鑑定依頼が来る可能性は大いになる。

 そんな時、神器に詳しいフレスという存在は、非常に心強いはずだ。


 ――そういうことで、不貞腐れたフレスを褒めちぎって、持ち上げまくることにした。


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