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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第二部 第五章 貧困都市リグラスラム編 『妹弟子と運命のコイン』
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硬貨コレクター、ルーフィエ

 ――次の日。


『いい話じゃないか。これも勉強だ、ギル。しっかりウェイルの手伝いをしてくるんだぞ』

『わーい! ありがとう、師匠!!』


 ――シュラディンの許可もあっさりと下りたので、ギルパーニャは宣言通りウェイル達についてくることになった。


「いいか、二人共。基本的に鑑定は俺がやる。お前達は俺の指示に従って動いてくれ」


 ウェイルは事細かに注意事項を並び立てるも――。


「何を鑑定するんだろうねー、わくわく!」

「ここは貧困都市だからなぁ。あんまり高価な品はないと思うけどね」

「それはそれで掘り出し物がいっぱいありそうだよ!」


 ――楽しげに会話を弾ませる二人には全く届いていない。


「どうしてこうなったんだ……」


 頭を痛いし足取りは重かったが、一行は依頼者宅へと到着していた。


「とりあえず仕事に集中だ」


 二人のことは後回しでいい。

 とにかく今は仕事モードにならなければ。


「プロ鑑定士のウェイルという。出張鑑定の依頼で来た」


 叩いた扉からは白髪頭の従者が出てきて、ウェイル達は館へ通される。

 ついてきた若すぎる見た目の二人に対して、従者は訝しげな視線を送ってきていたが、文句を言うことはなかった。





  ―●○●○●○――





「……おお……!!」


 通された部屋に入った瞬間、ウェイルは思わず感嘆の声を漏らした。


「す、凄い……!!」

「圧巻だよ……!!」


 フレスとギルパーニャも驚いて目を丸くしていた。

 通された部屋は、この館の主が作った自慢のコレクションルーム。

 光り輝く記念硬貨が、部屋中所狭しと展示されていた。


「よくぞ参られました、プロ鑑定士殿」


 現れたのは初老の男。

 丸いメガネを掛け、杖を携えてやってきた。


「私はルーフィエと申します。このリグラスラムを中心に両替商をやっております」


 今回の依頼人――ルーフィエ・バウト氏。

 この都市で両替商を営む、リグラスラムに住まう極一部の富裕層だ。


「プロ鑑定士のウェイルだ。この度はよろしく」


 互いに握手を交わし、そして部屋を見回した。


「それにしても素晴らしいコレクションだ。まさかこれほどの数の記念硬貨に囲まれるだなんて、初めての経験だ」

「ありがとうございます。私は商売柄様々な硬貨を見てきましてね。時折珍しい硬貨が手に入るのですが、それがあまりにも綺麗なものですから、ついつい集め始めてしまいました。気が付けばこの量ですよ」


 部屋中至る所に展示された光沢を放つ硬貨達。中には非常に珍しい品もあった。


「おお!? これは王都ヴェクトルビアが建都300年を記念して発行した300ハクロア記念硬貨じゃないか!? しかもシリアルナンバーが003と非常に若い!!」

「おお、ウェイル殿はよく御存じで! 流石はプロ鑑定士ですな! そうです。それは一昨年オークションにて1万ハクロアで落札した一品でしてな!」

「相場より大幅に安くないか……? 建都300年記念硬貨はたった288枚しか発行されていないんだぞ……!?」


 建都300年記念であるのに発行枚数が300枚でないのは、300年の歴史の中で縁起の悪かった年、つまりヴェクトルビアで大事件のあった年の枚数分を、除いているからである。


「この保存状態で、このシリアルナンバーなら50万ハクロア積んでもいいって連中もいるだろう」

「ハッハッハ、これはとてもラッキーだったのですよ。オークション会場にライバルがいませんでしたし、何よりこれの値を付けていた鑑定士がモグリだったみたいで。10000ハクロアで即決でしたよ」

「なんと酷い鑑定士もいたもんだ……。出品者とオークションハウスは大損だぞ……」

「本当ですなぁ。落札した私が言うのも何ですが、何も知らぬ出品者には申し訳なくも思いましたぞ」

「いや、貴方は悪くないさ。全ては無知な鑑定額を付けた鑑定士が悪い」

「そうだ、ウェイル殿。これをご存じで?」


 ルーフィエが取り出してきたのは、どこにでもありそうな50ハクロア硬貨。

 しかしその硬貨を見て、ウェイルは開いた口が塞がらない思いだった。


「……ま、まさか……そのハクロア硬貨は……!! ヴェクトルビア建都321年の50ハクロア硬貨か……!?」

「ホッホッホ! その通りですよ!」

「凄いな……! まさか現物を拝むことが出来るとは……!」

「ねーねー、ウェイル。それってそんなに凄い硬貨なの?」

「あのな、フレス。この硬貨は幻の硬貨とも呼ばれる超レアものなんだぞ?」

「それ、私聞いたことあるよ! 幻の321年硬貨!」

「せっかくだから説明してやるよ」


 50ハクロア硬貨自体は、どこにでもある額面通りの硬貨である。

 しかし、このヴェクトルビア建立321年の硬貨の場合、それだけの価値に留まらない。


「建都321年、王都ヴェクトルビアは大幅なデノミを行ったんだ」

「デノミって?」

「デノミネーション。貨幣の価値を再変更する金融政策だ。あまりにもデフレ、インフレの進んだ硬貨価値を切り上げたり切り下げたりして、価値を安定させる目的で行う」


 ヴェクトルビアは、流通し過ぎた旧ハクロアを回収し、新たに価値を倍にした新ハクロアを発行した。

 それ以降、今日に至るまでヴェクトルビアは新ハクロアでその価値を保ってきた。

 尚、デノミ前の貨幣は、それを現在の価値に換算して現在でも使うことが出来る。


「デノミでは、旧貨幣を回収しつつ新貨幣を製造する。これ自体はどの都市でも同じことをする。しかしヴェクトルビアの建都321年に行われたデノミは、旧貨幣の回収、新貨幣の製造が、様々な手違いにより予定が遅れたんだ。したがって321年には旧貨幣と新貨幣が混在した期間がたったの5日間だけ存在した」

「この50ハクロア硬貨は、その5日の間に手違いで発行された旧硬貨なのですよ!」

「その5日間に発行された硬貨は50ハクロアだけ。発行枚数はたったの1200枚だったんだ」

「……つまりその50ハクロア硬貨はアレクアテナ大陸に1200枚しかないってこと?」

「そうだ。だがデノミ中だったからな。新硬貨と交換する者もいただろうから、実際は1000枚を切っているだろうな」


 通常硬貨の発行枚数というのは、平均して1000万枚程度である。

 それを考えると1000枚という枚数がどれほど少ないか判るだろう。


「ウェイル殿。実は私、この硬貨を3枚所持しているのですよ!!」

「……なんだと……!?」


 コレクターの間では一枚当たり80万ハクロア程度で取引される代物だ。

 それがなんと3枚もあるという。

 ルーフィエのコレクションには、ウェイルも驚くばかりだ。


「両替商の特権ですよ。レアな硬貨を見つけ次第、すぐに確保できるのですから」

「他のコレクターから反則と後ろ指を差されてもおかしくはないな」

「かも知れませんな!」


 とてつもなく価値の高い硬貨を見れたウェイルもテンションが上がってしまう。

 元々ウェイル自身もコインや硬貨にはとても興味があったのだ。


「セルク生誕200周年記念硬貨も! ラルガ聖典記念限定硬貨まであるとは!! なんて素晴らしいコレクションなんだ……!!」

「でしょう? いやはや、ウェイル殿は目が肥えてらっしゃる!」


 それからしばらくウェイルはルーフィエと熱い硬貨談義を始めてしまったのだった。

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